第57話 サクッと三本目のトゲが生えた

『お前たちは神が認めるに足る実力を持っている! 通るが良い』


 スプリガンは、受けたダメージをみるみる回復させると、むくりと起き上がった。

 凄まじい再生能力だな。


「お前さん、手加減してたのか」


『戦いは全力だった。だが、お前たちの攻撃では倒れなかっただけだ』


 平然とそんな事を言う。

 今まで戦ってきた魔将より強いのかも知れん。

 神の眷属だから、エクセレンのトゲも通じないしな。


「ありゃ、マイティがわしをちょっとガードしておいてくれれば簡単に倒せるのじゃ」


『星砕きの魔女ディアボラか。お前もまたこちら側だとはな。運が良い』


 スプリガンの口調は、露骨にホッとしたものだった気がする。

 ディアボラはそこまでの実力者かあ。

 いや、魔王星を砕くことができるわけだから、儀式魔法さえ成立すれば彼女に破壊できないものは無いんだろう。


 これまでは俺がガードで時間稼ぎをして、その隙にエクセレンとジュウザに攻撃をしてもらい、ディアボラが儀式魔法をぶちかます要領だった。

 そこにウインドが加わると、積極的に戦場を作っていけるようになるな。


「うちの後衛として頑張ってくれウインド」


「俺はもうパーティー加入決定なのか!?」


「お前さんの分析力と、対応能力が欲しい。うちはこう、頭脳方面が弱くてな」


「わしは頭がいいのじゃ!」


 ディアボラがぴょんぴょん飛び跳ねて抗議する。

 儀式魔法とか歴史の話とかそういう方面な。


 知的な瞬発力だと、ウインドが優れている気がする。

 ということで、彼をスカウトするのだ。


 そんなやり取りをしていたら、エクセレンがひょいひょいと先に行ってしまった。


「みんなー! 教会がありますよー!」


「ああ、一人で先に行くんだから。また操られるぞー」


 俺は慌てて後を追った。

 エクセレンはハッとして、こちらにパタパタ走って戻ってくる。


「魔将もどんな力を持っているか分からないし、この森に仕掛られた壊れない結界が壊されて、いつ入ってくるか分からないからな」


「壊れないのに壊されるんですか」


「世の中そういうもんだ。俺のガードだって、エクセレンなら貫けるだろ。絶対なんてものはないのだ」


 後から追いついてきた仲間を加えて、先に進む。

 そこには、蔦に覆われた古い教会の姿があった。


 入り口の扉は無く、内部には全く色あせていない神の紋章があった。


「来ました!」


 エクセレンが快活に告げる。

 すると、彼女の棍棒からニュッと緑色に輝くトゲが生えた。


「今回はまた、あっさりとしていたな……」


「トゲが生えた……!? これはつまり、エクセレンが神に認められたということか。なんてことだ。俺は目の前で神の戦士が力を得るところを見てしまった」


 ウインドの感動が新鮮だ。

 思わず微笑みながら彼を見つめる。


「ど、どうしたんだ突然笑って」


「いや、俺たちからすると段々日常になってきていることだが、やはり凄いことなのだと再確認できてな」


「そ、そんなものか……?」


 そんなものなのだ。

 これでエクセレンは新たな神の力を得た。


 どうもこのトゲは、エクセレン自身の強さを押し上げる力は無いようだ。

 トゲそのものが聖なる力を有しており、この間の地すべりみたいなシチュエーションで威力を発揮する……的な。


「つまり、エクセレンの実力を上げていかなければ今後も危ないわけだな……。ふむふむ」


「何をマイティ、ぶつぶつ言ってるんです?」


「いやな。さっきのスプリガンとの戦いでも危なかったと思ってな。俺のガードがないと、エクセレンは一人で強敵とやり合えないだろう」


「はい……。強くなったと思ってましたけど、まだまだボクは力不足です」


 しょんぼりしてしまった。

 結構強くはなっているが、それは俺の守りあっての強さだ。


 攻めに全力を注ぎ込めるから強い。

 それはそれで構わないんだが、この間みたいにパーティーが二手に分かれるシチュエーションになるとよろしくない。


「地力を付けさせねばならないな。星見の国ではあまりゆっくりできなかった」


「よし、しばし集落に滞在しようではないかマイティ。そこで拙者がエクセレンに稽古をつけよう」


「ほんとか! 助かる!」


「ありがとうございます!」


「わしはせっかくなのでさっき書いた魔法陣をもうちょっと広げておくのじゃー」


 エクセレントマイティの今後の方針が決定した。


「そうか……。俺も突然お前たちに勧誘されて、困っていたところだ。時間をくれるならありがたい」


「ほう、ということはもしや、受ける方向で考えてくれるか」


 ウインドの発言、パーティー加入に前向きと見ていいのでは。


「まあな。勇者パーティーと言えば伝説の存在だ。俺がまさかその一員に招かれるとは思いもしなかった。どうせやるのならば、先祖が残した本などを持っていきたい。俺がお前たちに貢献できるのは、この知識だけだからな」


 謙虚な男である。

 だが、俺の目には彼こそ、エクセレントマイティに足りない部分を補う重要なメンバーであると写った。

 集落に滞在する間、ウインドの実力を見極めさせてもらうとしよう。


 俺たちはスプリガンに別れを告げ、集落に戻るのだった。


『魔王は次々に、恐るべき魔将を呼び寄せていると神が言っている。力を蓄え、備えよ』


「おう。忠告ありがとうな」


 こうして俺たちは、ナゾマーの集落で力を溜めるのだ。

 

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