第48話 空ばかりじゃなく地も見ろ1

 ずかずかと城内を歩いていく。

 兵士たちが慌てて俺たちを止めに掛かるが、同行している兵士が訳を話すと納得したようだ。


「上が異常なんだ。だが俺たちが何か言える雰囲気じゃない。とにかくおかしい。あんたたちがいてくれて良かった! 勇者がどうにかしてくれるんだな」


「はい!! すぐになんとかします!!」


 エクセレンが力強く断言したので、兵士たちはホッとするのを通り越して、笑顔になった。


「よっしゃ!! じゃあ勇者をエスコートするぞみんな!」


「おう! 訳の分からん怖い状態は終わりだ!!」


「妙に盛り上がっているな。兵士というのも色々ストレスが溜まるものなんだろう」


 俺はしみじみと彼らに同情した。

 勤め人は上にはなかなか逆らえないからな。

 ましてや国に逆らったら、ここに住めなくなるかも知れない。


 だが、そんな国がおかしくなった。

 多分彼らも、原因が何なのか理解しているのだろう。


 スターズが悲しそうな顔をしている。


「まあ、占星術師だよな」


「はい。師匠の仕業です。もう私の声も届きません。皆さんが来てから、急速に悪化したような」


「ほうほう! そりゃあ魔王が仕掛けていったのじゃ! わしは詳しいのじゃー」


「仕掛けとな? それは一体どういうことだディアボラ」


 ジュウザが質問形式にしてくれたので、ディアボラはゴキゲンになった。


「いい質問なのじゃ! お前たちの話を聞いていると、今回の魔王は自ら手を下して人間を堕落させ、魔将にしていっているようなのじゃ! 短い間に複数の魔将が出現している辺り、これをルーチンワークっちゅうやつでやれる魔王だと思うのじゃ。んで、エクセレントマイティが魔将をどんどんやっつけてるじゃろ。じゃから、魔王は今度の魔将の中に、勇者パーティーが現れたらモンスター化が強烈に進むような仕掛けをしたとわしは思うのじゃ」


「なんたる性悪か」


 ジュウザが苦笑した。

 兵士たちも顔をしかめている。


「たちが悪すぎるよ」


「ひでえ」


「どぶに落ちたヒキガエルみたいな性格してやがる」


 この例えを聞いて、俺は思わずゲラゲラ笑ってしまった。

 エクセレンだけがきょとんとしている。


「魔王はなんつうか、遊び半分でやってるんじゃないか? 今まで俺たちが戦ってきたのが魔将だったのなら、次から次に個性的なのを見つけ出して勧誘してる事になるもんな」


 談笑しながら突き進んでいたら、明らかに正気ではない騎士たちに道を阻まれた。


「ははーん、騎士くらい偉いのから上がおかしくなってるんだな」


「止まれ! ここから先に行かせぬぞ!」


「行かせないと言われても通るぞ」


「通さん! 殺してでも止める!!」


 騎士たちが剣を抜いた。

 兵士はドン引きである。

 ということで、俺の出番だ。


「殺されないし止まらない。行くぞ! ふん!」


「ウグワーッ!」


 一度に掛かってきた騎士は、俺の盾でまとめて弾き飛ばした。

 一斉に尻もちをつき、剣を取り落とす。


 すると騎士たちは、目を瞬かせて周囲をきょろきょろする。


「ボクが叩いてないのに正気になりましたよ」


「今のエクセレンにぶっ叩かれたら正気どころか冥府にぶっ飛びそうだな」


「そうですかねー」


「お前さん、自分の力を知らんのはいかんぞ。正しく己の強さは知れば過ちを犯す心配はなくなるんだ」


「なるほど……ボク、強くなってるんですね!」


「そういうことだ」


 わっはっは、あはははは、と笑い合う俺たちの前で、ディアボラが騎士たちの頭をペシペシしたり、地面をペシペシしたりして回っている。


「ははーん、単純明快な魔法じゃなこりゃ。体の大部分が地面にくっついたら目覚める。こいつら、二階で寝泊まりしとったじゃろ。一階に降りてきてぶっ倒れたから正気になったんじゃな。地面から遠いほど効果が高い洗脳が掛かり、近いほど洗脳が薄まって解ける。なーるほど、占星術師らしい魔法じゃ」


「変わった魔法だな」


「魔法と言うか、能力じゃな。そういう魔将なんじゃろう」


 星空に近い所にいるやつの思考を操作する能力か。

 これで決まりではないか。

 

 騎士たちは、どうやら操られていた間の記憶が無いようだ。


「ああ、何が起こったんだ? 目が醒めたら地面に倒れてるなんて……」


「我々の剣が跳ね飛ばされている……。というか、これじゃあまるで我々が城内で抜剣したみたいじゃないか」


 彼らからは手がかりを得られないかも知れないな。

 先を急ぐとしよう。


「どこに向かえばいいんです?」


「簡単だエクセレン。占星術師はこの国のどこよりも、星に近い場所にいる」


「星に近い場所……あっ、星見の塔ですね!」


「その通り! さあ行こう!」


 俺たちは階段を登っていく。

 途中からどんどん騎士みたいなのが出てくるので、彼らの突撃をガードしては階下に放り投げていく。


「ウグワー!」


 これを兵士たちがキャッチして、地面にぎゅっと押し付けるのだ。

 そうすると彼らは正気に返る。


 ガードして跳ね飛ばす。

 兵士たちがキャッチする。

 地面に押し付けて正気に戻す。


 ガードして跳ね飛ばして兵士にキャッチさせて地面に押し付けて……。

 ひたすらひたすら流れ作業だ。


 騎士たちの流れが大体尽きた頃合いで、今度は大臣やら王国の偉い人たちが次々現れた。

 この人たちも掴みかかってくるな。


「きりがないな」


「よし、任せるのじゃ! 魔法陣を階段に書いておいたのじゃ! そーれ! ランドスライダー!」


 いつの間に!

 階段が光り輝くと、それが下に向かって動き始めた。

 階が降りきると、上から新しい階段が生まれて、また下に向かってスライドし始める。


 面白い魔法だなこれ。


「魔王城に人を立ち入らせぬための嫌がらせの魔法じゃな。こんな風に役立つのじゃ!」


 ということで……。

 上に引き上げた兵士たちが、ここで城で働く人々を引き受け、スライドする階段に押し付けて階下に流して正気に返す作業となった。


「ではみんな、任せたぞ。俺たちは先を急ぐ」


「拙者の出番がないな……。まあ、洗脳されているだけの者たちをクリティカルヒットで屠るわけにはいかぬからな……」


 城の人と兵士がわあわあと揉み合う光景を背後に、俺たちは謁見の間へ。

 国王陛下を正気に戻すとしよう。

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