第45話 占星術師の弟子が現る
あの後、幾つかの依頼を受けた。
モンスター退治。
ごく簡単なものだと言われて言ったら、小型の飛竜の巣だったり。
教会を発見したと言われて言ってみたら、人食い迷宮だったり。
どうやら占星術師は、俺たちに教会を見つけられると本当に困るらしい。
そしてライトダーク王国王都に、仕事達成の連絡をしに帰ってくる俺たち。
だが、どうも扱いがだんだん悪くなってきているようだ。
王の対応が仏頂面なものになってきたかと思うと、ついには謁見の間まで通してくれる事はなく、代理の騎士が話を聞いて、王に報告するというようになっていた。
「おかしいな。城の雰囲気もよそよそしくなっているぞ。こりゃあ教会どころじゃない」
「うむ。あの占星術師が黒幕なのだとしたら、城は徐々にあやつによって洗脳なりをされているのかも知れんな。拙者に任せれば、瞬く間に調べてみせるが」
「よし、ジュウザ頼むぞ。だが占星術師は魔将かも知れないから、一人で仕掛けることはやめてくれ。攻め込むなら全員で殴り込みだからな」
「心得た」
ジュウザがその場から跳躍し、城壁に着地する。
そのまま、垂直に見える壁に手をかけると、凄い早さで這い上がっていく。
「ほえー、ジュウザはなんでもできるんですねえ」
「ニンジャだからな」
「個人戦力としては最強じゃろうなー。相手が人間ならの話じゃが」
特に調査とかが向いていない俺たちは、用意された宿へ戻るのである。
すると、宿の主人から、待っている者がいると告げられた。
「待ち人? 誰だろうな。ライトダーク王国に知り合いはいないし」
「お城の人ですかね?」
「だったら城で声をかければいいじゃないか」
「おそらく城では声を掛けられない状態なのじゃろう」
「ということは内通者か。なんか楽しくなってきたな」
「吟遊詩人の語る物語みたいですねえー」
勝手なことを言いつつ、待ち人に会う俺たちである。
宿の奥の食堂に、彼はいた。
真面目そうな男性である。
まだ年若いから、成人したばかりかもしれない。
「エクセレントマイティの皆さんですね! 私は占星術師の弟子のスターズと言います!」
「こりゃご丁寧に。俺はマイティだ」
「勇者のエクセレンです!」
「魔将のディアボラじゃよ」
当たり前みたいな顔をして魔将と名乗るディアボラだが、見た目が小柄な女の子にしか見えないので、聞くものに全く危機感を与えない。
得なタイプだ。
「なるほど……。お話に聞いていた通り、凸凹なメンツ……! あとお一人いたと思いますが」
「調査に行ってる」
俺がそれだけ告げたら、スターズが察した顔をした。
「やはり気付かれましたか。実は、師がおかしくなっているのです」
「やっぱり」
俺も察した顔をした。
エクセレンは特に何も考えていない風で、ディアボラは気にしてもいない。
ここは俺が交渉役をやるべきだろう。駆け引きとか全くできないが。
とりあえず、飯を食いながら話をすることになる。
ライトダーク王国は山の幸が豊かであり、肉や香草を、野菜のスープに入れてチーズを浮かべていただいたりするのだ。
これにパンをつけて食っても美味い。
「うまいうまい」
「おいしいおいしい」
「いけるのじゃー」
「あの、皆さん……」
「あっ、すまんな! 食べる方に夢中になってしまった……」
残った三人、基本的に食べることが大好きなのだ。
だが、ゆっくり食事を楽しんでいてはスターズと会話もできない。
俺は素早く自分の分を平らげると、お喋りをできるような態勢を作った。
「話してくれ」
「あ、はい。凄い健啖ですねえ……。ええと、あの、城の様子がおかしくなっていることには気付かれたと思うのですが」
「ああ。露骨によそよそしくなっていたな」
「はい。城の皆は、なんだか重要なことから目を逸らされているようになっているのです」
「目を逸らす……?」
「はい……。皆、毎晩空を見上げては星を眺めて、あれは何々の予兆だとか、いついつに何があった時もあの星が瞬いていた、という話をしています。少し前まで、ナンポー帝国の黒騎士にどう対抗するかという話をしていたのに……」
そっちの方が、地に足のついた話題だよな。
「師が魔王星と呼んだものがやって来た時、全てが変わりました。師は、地上のことを気にしていてはライトダークが駄目になってしまうと。魔王星は魔王を乗せているもの。それに注意せねば国が危ないと言っていたのですが」
「おお、真面目に危機感を抱いている。その言葉は正しいよな」
「はい! ボクたち魔王星と戦って、魔王を棍棒で殴りましたもんね」
スターズが一瞬フリーズした。
「こりゃいかん。わしらの話をすると情報量が多くなりすぎるみたいじゃな。おーい! ミルクお替りじゃー!」
この国では料理にもミルクがたっぷり使われているので、頼めばすぐに持ってくる。
ここは王都よりもいいところだな。
「気にしないで続けてくれ」
「は、はい! 師は、最初こそ魔王星への危機を訴えていたのですが、だんだん口にする言葉が変わってきたのです。魔王に備えるという言葉がなりを潜めて、もっと不穏な言葉に……」
「どういう言葉だ」
「『彼は理解者だ。我が国は我が国らしくあることで、残っていくことができるだろう。我々は空を見なければならない。星見を続ければ、ライトダーク王国はずっと残っていくことができる』……と」
「夢を見てるような物言いだな。全然地に足がついてない」
俺は腕組みをして唸った。
どうやら、占星術師の物言いが変わってしまったのは、魔王星が空で爆発してかららしい。
当初は真面目だったのが、だんだんその言葉から、魔王星や魔王に対する脅威の論が消えていったとか。
「なんだろうな」
「なんでしょうね。魔王がお話にやって来て、お互い仲良くなっちゃったとか」
「まさか」
スターズが目を見開く。
だが、この場で誰よりも魔王というものに詳しいディアボラが、ミルクをグビグビやりながら応えるのである。
「ありうるのじゃ! 魔王なんぞ、人たらししかおらんのじゃ! 恐らく占星術師は、魔王によって主義主張を変えられたのじゃろうな。占星術師がこの国を守りたいと願っていたなら、魔王はそこだけは尊重しながら、他のすべてを自分に都合のいい思想へと誘導したに違いないのじゃ」
「ディアボラ詳しいですねえー」
「真の魔王様はそんなことはしなかったがな! 魔将どもでこういうのが得意なやつが何人もいたのじゃ! 今回の魔王は、多分自分から率先して人心を惑わしたり、思考を誘導したり書き換えたりしてくるやつなのじゃー」
そりゃあ厄介だな!
殴り合いとなれば勝機はあるだろうが、魔王に辿り着くためには、こういうおかしくなった国や人間を通過する必要があるというわけだ。
「ってことはまず、このライトダーク王国を救わなきゃならんわけだな。今のところは外見的にでかい影響は出てないようだが」
「はい。ですが、王国はずっと、病巣を抱えているのです。それを皆さんにお見せします」
スターズが立ち上がった。
俺たちも食事を終えており、どこかに向かうのも吝かではない。
ではでは、ライトダーク王国の病巣とやらを見せてもらうとしよう。
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