第17話 気さくな貴族が色々事情を教えてくれるのが助かる

「ほええええ、でっかいですねえ」


「ああ、でかいな。王城よりも縦にでかい」


 ドラクオーン城に招かれた俺たちは、ゆったりと旅をしてリューダー公爵領までやって来た。

 王都と山一つ隔てた平野にあるところで、一面の田園風景が美しいところだ。

 土地が豊かなんだな。


 その中央部に、天を衝く用にしてそびえ立っているのがドラクオーン城だ。

 何本もの尖塔があり、それがまるで空に向かって首を伸ばす何匹ものドラゴンに見える。


「王城よりも大きくていいんですか? ほら、王様のプライドとかいろいろと……」


「ああ、エクセレンは詳しくないんだったな。この国はな、選王制って言って、五つの上級貴族が王様を輩出するシステムなんだ。国王が死ぬか、三十年ごとに選王家それぞれが代表を出して、他の貴族たちの選挙が行われる」


「へえー」


「もちろん、毎回国王候補を出せるとは限らないから、候補者欠員の選王家は他の家の応援に回るんだ。ちょうどエクセレンの年だと、選王戦が終わった頃に生まれてるんだな。ありゃあお祭りだぞ」


「ほえー。見てみたいです!」


「その頃には、エクセレンも妙齢のお姉さまになってるな!」


「そうかもですね!」


 二人でお城を眺めながら談笑していたら、近づいてくる男がいる。

 明らかに身なりがよくて、育ちも良さそうだ。

 茶色の髪をオールバックにした、体格のいい男である。


「失礼ですが、エクセレントマイティのお二人ではありませんか」


「ああ、そうです」


 俺も一応敬語は使えるので、自分なりの丁寧さで応じた。


「良かった。私はボーハイムと申します。リューダー公爵家の次女、アンジェラの婚約者でして」


「ほう! ってことは、次の公爵様じゃないですか。こいつはどうも」


 俺はボーハイム氏と握手した。

 力強いな。

 これは本人も腕に覚えがあると見た。


「あ、どうもご丁寧に……。次女の方のお婿さんが、次の公爵なんですか?」


 エクセレンはボーハイム氏と握手しつつ、素朴な疑問を投げかけた。

 なかなか不躾な質問なので、ボーハイム氏の護衛がちょっとざわめいた。


「いいんだ。事情を知らない者には不思議に思えるだろうからね。実はですね、お嬢さん。国を揺るがす大騒ぎがありまして、その時にご長女のデモネア様は関わっておられたんです。これは家としても放置してはおけないということで、デモネア様はあの監獄塔にいるのですよ」


「へえー! あの塔って監獄だったんですか!」


 エクセレンは、どんなことにもびっくりしているな。

 知的好奇心旺盛でよろしい。

 そういうのは強くなるためにも大事だからな。


 俺が頷いていたら、ボーハイム氏がにっこり笑って提案をしてきた。


「そうだ。噂のエクセレントマイティの力を見せて下さい。私はこう見えても腕に覚えがありましてね。私の部下が見たというあなたの活躍を、目の前で確かめておきたいのです。つまり、試合ですよ」


 そういうことになったのだった。


 練習用の鎧と盾を借りた俺。

 剣も貸してもらったが、これは使えないのだ。

 腰にぶら下げておくだけにする。


「うちの城で一番大きいサイズの鎧なのに、ピチピチだあ」


 鎧を着せてくれた兵士が驚いている。

 俺は肉の厚みがあるからなあ。


 自前の鎧は特別製で、オーダーメイドなのだ。


 対するのは、白銀の鎧に身を包んだボーハイム氏。

 練習用の大剣を手にしている。


「がんばって、ボーハイム!」


 たくさんの観客がいるわけだ。

 その中で、先頭に立って声援を送っているのは、黒髪の小柄な女の子。

 えらく可愛い。多分この人が、公爵家の次女であるアンジェラだろう。


「あなたにこの剣を捧げよう、アンジェラ!」


 ボーハイムが宣言したので、観客がわーっと沸いた。

 客の中には、貴族や大商人、聖職者に騎士なんかがいる。


 お城で行われるパーティみたいなものに呼ばれたんだろう。

 俺とボーハイムのやり取りは、彼らにとっての昼の娯楽か。


「マイティはガード専門なのに、どうやって決着つけるんですか?」


 エクセレンから素朴な疑問が飛んだ。


「その方が好都合だろう? ボーハイム氏は色々な攻めを見せられるし、俺が彼を傷つける心配も少ない」


「なるほどー!」


 ということで、試合開始だ。


「イヤーッ!」


 切り込んでくるボーハイム氏。

 おお、一撃が想像以上に鋭い。

 盾で受け止めてみたが、これはAランク冒険者級の腕前だ。


 連続攻撃が襲ってくる。

 上段からの攻撃と、中段からの薙ぎ払い。


 結構な長さの大剣を、全身を使って自由自在に操っているな。

 こりゃあ強いぞ。


 息をつく間も与えぬボーハイム氏の連続攻撃に、会場はワーッと沸いた。

 俺がこれを、至近距離で受け止め、受け止め、受け止め、受け止める。


 激しく武器と盾が打ち合わされる音が鳴り響く。

 なかなか見応えがあるだろう。


 では俺も、慣れない攻めをしてちょっと盛り上げるとしよう。


 俺は一歩進み、盾を叩きつけるようにした。


「ぬうっ!!」


 ボーハイム氏はこれを、大剣の腹で受け止めた。

 だが、その場から弾き飛ばされて後方へ。

 辛うじて片膝を突いて着地した。


 目を丸くしながら俺を見ている。

 その顔が、笑みを浮かべた。

 嬉しそうだ。


「やはり本物だ」


 何の本物だろう?

 いつまでも試合をやっていても、周りは飽きてしまうだろう。


 俺はわざと、防御が甘いところを作った。

 ここに攻めてきてくれ、と攻撃を誘う技である。


 ボーハイム氏はこれに乗ったのか、引っかかったのか。

 鋭い突きを放ってきた。


 俺はまるで、これを受けそこねた! みたいな感じで盾をすり抜けさせると、派手に尻もちを突いてみせた。


「勝負あり! ボーハイム卿お見事!」


 観客席から声が上がり、周囲は大歓声に包まれた。

 汗だくのボーハイム氏が、苦笑している。


「手加減しましたね、マイティ」


「ボーハイム氏の攻撃が素晴らしかっただけですよ」


 ひょいっと立ち上がった。

 これを見ていた騎士たちがざわめく。


「あのでかさの鎧と盾を身に着けて、何も着てないような動き方したぞ」


「どういう鍛え方をしてるんだあの男……」


 どういうも何も、俺の普段の鎧と盾よりも軽装だからな。

 軽装なりの動き方をしただけだ。


「マイティ! お姫様と仲良くなりました! 一緒にお茶しようって言ってくれてます!」


 エクセレンが、アンジェラと手をつなぎながらそんな事を言ってきた。

 いつの間に!

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