第22話


魔法使いは魔法使いらしく竹箒に乗って空を飛ぶ。

なんていうのは遥か昔のこと。

乗れるものに浮遊術をかけて空を飛ぶ。

それは主流になっている方法。


「うっわああああああ!!!」

「バランスをとれ!」

「む……りぃぃぃ……」


今は自分に浮遊術をかけて空を飛ぶ。

自分にかけるのではなく靴にかけることで少量の魔力を消費するだけで済み、階段のように空中を上がることもできれば坂のように登っていくこともできる。

ただしバランス良く立てることが大事なのだが……


「うわーっ! 靴が脱げたぁぁぁ!」

「靴だけ飛んでるー!」

「戻ってこーい!」

「た〜す〜け〜てぇぇぇ!」


ショートの編み上げ靴を履いている生徒たちだったが、スルスルと編み上げたはずの紐が意思を持ったように抜けていくと、生徒の足を「ペッ」と靴から吐き出す。

左右の紐同士が手を繋ぐように固く結び合うと、大空を逢い引きランデブーよろしく高く飛び上がっていく。

中には固結びになった靴の両側から別の靴が寄ってきて、半回転した生徒をそのまま引き摺って大空へと飛んでいく。


「……たのしそう」

「私も間違えればよかったな」

「あーあ。‪発音を間違えたんだねえ」


アリシアの言うとおり、aとae を間違えていた。

正しい発音で発した古語の語訳は『我が靴に意思を与える。我が意思を読みとり、我が身体を浮かせよ』となる。

しかし発音や単語を間違えた結果、『我が靴に意思を与える。我が魔力をとり込み自由に飛ぶがいい』となってしまった。

意思を持った靴は命じられたまま自由に空を飛んでいる。

その結果、間違って命令したことに気付いていない当の本人たちは大変な状況下にもかかわらず、正しい発音をして上手くバランスをとって浮かんでいる生徒たちからは楽しそうに見えている始末。

しかしこれは実習であり、ポイント制の選択授業でもある。

今学期でポイントを下げてしまえば、「授業を受ける資格はない」と判断されて後期の授業を受けられない。

選択授業だから落第や留年はないものの、来年度まで魔法学の受講は許されない。


「それでもいいなら彼らの仲間に加わってきなさい」


魔法呪文学を教えるクラッフィの言葉に、浮かんでいる生徒たちは首を左右に振る。

決められた時間内で成功した生徒たちには5ポイントが与えられている。

それを放棄したい生徒はいない。

今回は時間内にできたが、次の呪文も魔法が上手く発動するとは限らない。

次は向こうで慌てて騒いでいる仲間ひとりかもしれないのだ。


今度から靴は意思をもつため、動かない階段でも勝手に上の階まで運んでくれるようになる。

中には向かう教室まで歩く速度で廊下を運んでくれる。

それには、最初の魔法『我が靴に意思を与える』が大切になる。

一部の生徒は浮いてもおらず、靴だけが空を飛び回っている様子でもない。

自分の靴にうまく魔法がかけられない生徒たちだ。

この靴にかける最初の魔法は、使用者自らがかけて成功しないといけない。


「スペルで魔法をかけたら?」

「…………ムリ」

「私も覚えていない」


発音が無理ならスペルで魔法をかける方法もある。

育った国や地方によって共通語でも発音やイントネーションが違う場合もある。

特に新入生の前期では発音で躓く生徒が多い。

そんな生徒は発音で魔法が発動するまでの間、くうに杖でスペルを書いて魔法をかけるのだ。


「そこで教本をひらこうとしないのは何故ですか? まさか実践だから教本を持って来なかったとは言いませんよね?」


無言で俯く生徒たちは教本を持って来ていない。

教本を持って授業にでた生徒たちの方が多い。

その中には発音ではなくスペルを書いて魔法を発動させた生徒たちもいる。

その生徒たちはこの場で浮かんでいる。

発音ではないため、スペルを間違いなく書ければ発動するのだ。

間違えたスペルを書けば、それまで書いた古語すべてが消滅する。


「教本を持って来なかっただけでなく発動もさせられなかったあなたたちは減点5」


実践だからと教本を持って来ない生徒は『授業を受ける気がない』と判断されたのだった。

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