魔法学園の生徒たち
アーエル
第1話
ここは魔法の世界です。
はるか昔から、この世界では魔王に苦められてきた。
何度も魔王を元の世界へと押し返し人々の生活は守られてきたが、それでも200年に一度、強い魔王が姿を現しては人々の生活を脅かしていた。
その度に人々は勇敢に立ち向かい、多くの悲劇を重ねつつ世界を救ってきた。
しかし1,000年に一度、災厄ともいえる強さを身につけた魔王が現れて、人々は次々に倒れていった。
人々は世界の終わりを覚悟し、せめて最後は家族一緒に。
そう絶望に似た願いを胸に戦いを諦めた人々の前にある夫婦が現れた。
「魔王は強き魔力を持つ者をイケニエに望んでいます」
「イケニエには私たちの息子を。魔王もそれを認めました」
その息子は10歳。
たしかにこの少年の魔力は城の魔術師の誰より強いだろう。
革でできたサンダルを履いている彼の右足の甲には赤い
これがイケニエの証らしい。
「15歳の最後の日、この子はイケニエとなるために魔王のもとに向かい、世界を救います」
「その日まで、この子の魔力をさらに伸ばして頂ければ」
「「魔王は倒せなくても追い返すことはできます」」
その言葉を残して、夫婦は姿を消した。
人々は残された子供を守り育てることにした。
それが生きのびる
不思議なことに、魔王が現れてから闇に覆われていた空は、夫婦が去ってから回復していた。
どんなに晴れても膜で覆われたような薄曇りだった空だったが、それでも人々の心は明るくなり笑顔も戻っていた。
そして何より、魔王の被害もなくなった。
そしてイケニエに選ばれた少年が15歳の最後の日、残り2時間で日付けが変わるという時刻になると世界は一変した。
約束通り魔王が現れたのだ。
「それが約束の者か」
青年に成長したイケニエの足の紋様を確認すると、魔王はニタリと笑った。
✰ ✰ ✰
「それでどうなったの?」
パタンと本が閉じられて、ティーテーブルの上に置かれた。
膝に乗って本を読んでもらっていた幼な子は祖父を見上げる。
「知ってるか〜? 魔王はな〜、イケニエを頭からムシャムシャと食っちまうんだぞ〜」
「キャァァァ」
幼な子の前にしゃがんで目線を合わせた父が娘を脅かすように「がおー」と言いながら覆い被さろうとする。
それから逃れるように祖父に抱きつくと祖父は守るように大きな腕で優しく抱き返す。
必死に掴んだ祖父の長い髭は優しい植物の香りがして、ビックリして早鐘のような幼な子の鼓動が落ち着きを取り戻していく。
「なにバカなことを言って子供を脅かしているのよ!」
「イテッ!」
父の頭にゲンコツを落とした母が安心させるように娘の頭を優しく撫でる。
シャボンのような柔らかい香りは明るい朝の庭を思い出される。
「大丈夫よ。魔王はイケニエの少年を吸収して強大な魔力を得たの。そして魔王は元の自分の世界へ戻ったわ」
「そのこはどうなったの?」
「魔王が死ぬとその世界で人として生まれ変わったわ」
そんな話をしたのが、この家族が過ごした穏やかな最後の夜だった。
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