第21話

 どうしよう……。

 せっかくエリオットが声をあげてくれて、私は犯人ではないという雰囲気になりつつあったのに、マーシーの言葉で、再び私が彼女をいじめた犯人だという雰囲気になっていた。


 エリオットの言葉は、とても嬉しかった。

 絶望しそうな私を、ぎりぎりのところで踏み止まらせてくれた。


 しかし、さすがにこれは分が悪い。

 いじめていたとかいじめていないとか、そんなことは、当人たちが何とでも言える。

 しかし、彼女には頬の腫れ痕という物的な証拠がある。

 このアドバンテージは大きい。

 確かに彼女の言う通り、あの腫れ痕が、私が犯人だという動かぬ証拠になっている。

 

 それに、彼女は先生たちを扇動して、私を退学処分にしようとしている。

 こんなの、あまりに理不尽だ。

 しかし、いじめられているという彼女の言い分を、教師側は受け入れるほかないだろう。

 つまり、私の退学は決定的なものになったというわけだ。


 あぁ、なんでこんなことになったの……。

 この学園生活、結構気に入っていたのになぁ。

 クラスメイトや友達と過ごしたり、エリオットと一緒にお昼ご飯を食べたり、最近ではハワードとも親しくなれたのに……。


 それも全部、私が退学になれば消えてしまう。

 いじめていたマーシーが学園に残って、いじめられていた私は学園から去らなければならない。

 こんな理不尽があっていいのだろうか。


 涙が溢れそうになった。

 しかし、私は必死に堪えた。

 マーシーにそんな姿を見せるのだけは嫌だった。


 そのマーシーは、壇上からこちらを見下ろし、笑みを浮かべている。

 まるで、私の勝ちよ、とでも言っているみたいだ。

 いじめられていたというのなら、もう少し悲壮感を漂わせたらどうなの?

 そう思ったけれど、物的証拠がある以上、私に反論の余地はない。


 悔しかった。

 頬の腫れ痕という物的証拠がある以上、犯人は私であるという彼女の主張は、絶対的なものだ。

 この場にいる大勢の人も、それを信じている。

 もう、どうしようもない。


 そう諦めていたが、一人の人物が声をあげた。

 それは、ハワードだった。

 エリオットに続いて、彼も私の味方をしてくれるなんて、本当に嬉しかった。

 たとえ状況が最悪でも、その最悪の状況を打破できなかったとしても、私を信じてくれる人たちがいる。

 それだけで充分だった。

 そう思ったのだけれど、彼は意外な言葉を言い放った。


「確かにその頬の腫れ痕は、あなたの言う通り、動かぬ証拠としては充分ですね」


 え……、それって、マーシーの肩を持つような発言なのでは?

 いったい、どうして……。

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