六話 電子の妖精の願い
「まさか…魔女なんか本当にいるわけ…
見た目がそれっぽいってことじゃなくて?」
「あーまた信じてくれない!
こうして目の前に妖精がいるのにぃ!」
妖精は『(# ゚д゚)』という顔文字を画面に表示させる。
そう簡単に信じるのもどうかとは思うけど、
この現状、信じないと先に話が進まない。
「ま、魔女って…まじもん?」
「マジもん。」
真偽はともかく、
一回あの店主魔女だということを認めよう。
確かに魔女っぽいといえば魔女っぽいし。
「わかったよ、一回信じる。
でも、店主はなんで君をアプリに閉じ込めたりしたのさ。」
魔女だと言うことを信じたとしても、
アプリにわざわざ妖精を閉じ込めなきゃいけない理由がよくわからなかった。
だから詳しい話を聞こうと質問をすると
妖精は腕を組みながら少しだけ頭を捻ると、不機嫌そうに説明する。
「衣装屋繁盛させるために考えた戦略で、妖精の力が必要だったんだって」
「どう言うこと?」
要請の説明は、なんとなくはわかったけど、ピンとは来ない。
妖精は頬杖をしながら、説明を続けた。
「コスプレ衣装屋として繁盛しないから、売りを考えたんだって。
それで最近の漫画読んでて気づいたらしいんだけど…
異世界転生系かつ魔法使える系の話って人気あるでしょ?」
「人気だね。」
「それで若者はそう言うものに憧れるってことに気がついたみたいで、
コスプレすることで二次元キャラになりきれると言う触れ込みを思いついたみたいなの」
「はぁ…」
やたら詳しく説明をしてくれたけど、やっぱりよくわからない。
人によってコスプレする理由は違うものだろうけど…それの何が売りになるというのか…よくわからない。
「…コスプレって…その…
キャラクターに憧れて始めるのが普通というか…」
だからキャラクターになりきりたいとか、
二次元を三次元で再現したいとか、そういう欲が少なからずあるからするわけで…
だから、なりきるって…別に特別な売りではなくむしろ最低条件な気がしてしまう。
でも僕の言いたいことを察したのか、妖精は僕の方に指を突き立てて「見た目の話じゃなくて!」と口を挟んだ。
「あの店でアプリをダウンロードさせられたでしょ?
その状況であの店の衣装でコスプレしたら、本当にキャラになりきれるの!
もっと言おうか?キャラクターの能力をコスプレした本人も使えるの!」
「え…それって…」
「魔法使いのキャラクターのコスプレをすれば、魔法が使えるようになるし、
スポーツ万能のキャラのコスプレをすれば、スポーツができるようになるし、
頭のいいキャラになれば、テストの点数はよくなる。」
「マジで!?」
「もちろん!それを君はすでに体感したはずだよ?」
そう妖精に言われて、当然日曜日の件。
やっぱり、トラックを片手で止めるなんて人間技じゃないことができたのは、
この店で買った勇者のコスプレ衣装を着てたからなんだ!
妖精は僕の様子を見て頷くと、
「そう言うこと。
しかもあれ、ラスボス戦の勇者の格好だったでしょ?
魔力体力はチート級のレベル、トラックくらい止めれて当然。」
と自信満々に答えた。
「これが、店を繁盛させるために考えたおばばの魔法。
コスプレしただけでキャラクターと同じことができるようになるっていうね。
広まれば、結構いい売りになるでしょ?」
妖精は自分の手柄のように明るく「おばばは君に感謝してると思うよ〜」とか、
「いい宣伝になったって思ってると思う!」と言うが、
その口調はあまり明るくない。
その様子を見て、少し察した。
そういえば…『店を繁盛させる』ため『妖精の力』がいるって…
「もしかして、コスプレして能力が使えるようになる理由って…
君がアプリに閉じ込められてるから…?」
僕が妖精にそう聞くと、ゆっくりとうなずいて答えた。
「そう…企画したまではいいんだけど、おばばの魔力じゃ足りなくて、
どうしても妖精の力が必要だったんだって…それでこんなことに…。」
なるほどな…、それが閉じ込められてる理由か。
なんか少し可哀想になってきた。
「窮屈じゃないの?こんなところに…」
「窮屈だよ!出たいよ!
でも…ここから出るにはレベル100にしないといけないの。」
「レベル?」
「顧客満足度レベルのこと。画面右上に『レベル』って書いてあるでしょ」
そう言われて画面右上を見る、そこにはいつの間にか『レベル2』と書かれた文字が表示されていた。
「これを100にしたら、私はアプリから出られるの。」
なるほど、レベルってタグがあった理由はこれか。
「レベル上げるにはどうするの?」
僕がそう聞くと、妖精は指で数字を作りながら説明をする。
「その1コスプレ衣装いっぱい買うこと!
その2コスプレ着ていっぱい能力使うこと!
その3ユーザーの願い叶えること!」
「なんか急に現金な話だね…何?願い叶うからコスプレ買えって?」
「いいでしょ?キャラクターの能力が使えるんだよ!?
まぁ、ずっとってわけじゃなくて、私がここにいるレベル100になるまでの間だけにはなるけど…
悪い話じゃないでしょ?」
まぁ…別に叶えたい願いがあるわけじゃないけど、確かに悪い話じゃない。
制限があるのは期限とコスプレした時と言う条件はつくけど、願いの数は決まってない。
まぁ…デメリットは金銭面くらいか…
うーんと悩んでいると、妖精は真剣な顔をする。
「金銭的に難しいお願いしてることはわかってる。
その代わり、私がここからいなくなるまで、なんでもいくつでもお願い聞くから
私がここから出て自由になれるよう協力してください!」
よほど外に出たいのか、妖精はわざわざ画面の中で土下座してお願いした。
さっきまでのおちゃらけた様子はない。
本気らしい。
「わかった、僕にとっても7割いいことだらけだし
できる範囲内にはなるけど協力するよ。」
「あ、ありがとう!」
こうして僕は願いを叶えるため、利ベルだは外に出るための契約関係を結んだ。
ちなみに、外に投げ出された妖精の靴は、
どんなに返そうと画面に押し付けても戻すことができず、
この日、妖精はふて寝をしてしまった。
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