一話「コスプレイベントで本物の勇者現る」byネットニュース



「おい昨日のネットニュース見たか!?」



ざわつく校内。



「あの勇者のコスプレイヤーでしょ!?

ネットニュースで『現世に勇者現る!』って記事になってたよね!」


「その日、SNSで画像見たよ!

片手でトラック止めたんだっけ?かっこいい!!」



廊下を歩いて教室に向かう途中、すれ違う生徒達はみんな同じ話題で盛り上がっていた。


全部日曜日…昨日のコスプレイベントの話だ。

勇者の



「あれ誰だったんだろうなー、すぐいなくなったんだろ?」


「腕力やばすぎるし、プロレスラーとかじゃねー?」


「そうでもなきゃ、走ってるトラック止められないよな!」



ワハハと笑う男子たち。


学校にいる9割以上の人間は、ハロウィンの時期以外でコスプレに興味を持つことはないだろう。


なのに、昨日のことをほとんどの生徒が知っているのは、

それだけ衝撃的事件だったことがわかる。



他にはどんな会話が繰り広げられているのか気になって、

歩きながら、周りの会話に耳を傾けていた。



それがいけなかったのだろう。



ガハハと笑って、教室から出てきた不良の彼らに気がつくのに遅れ



「いたっ」



ドンっと思いっきりぶつかって、僕は尻餅をついた。



「あ?誰だ!?イッテーな!」



ぶつかった相手である不良は、僕に対して暴言を吐く

体重が軽くてゆっくり歩いていた僕がぶつかったところで、

痛くも痒くもないはずだけど、相手はご立腹だ。


こう言う時はさっさと謝るに限る。



「ご、ごめんなさい」



謝罪を聞くと、

彼は僕に軽く足に蹴りを入れる



「チッなんだ、ぶつかってきたのかよ!」



「もやしのくせにぶつかってんじゃねーよ!気をつけろ!」



好き勝手言うだけ言うと、彼らは離れていく。


一部始終を見ていた奴らは、誰も僕を助けない。

それどころかクスクスと笑ってる始末。


いや、まだそいつらのがマシか。


絶対に見えてる、聞こえてる距離にいるはずなのに、

一切こっちを見ない人に比べたら、気にしてもらえてるってことだし。


見た目こんなだと、仲良かった時期がある奴からも助けてもらえないんだろうか。



「まぁ、…アイツらにドジやった奴助けたくないか。」



僕はボソリと誰にともなく呟くと

立ち上がって、服の誇りをパンパンと叩いて払った。


ちなみに僕の名前はでは無い。


勝手なあだ名をつけて揶揄うのはやめて欲しいものだ。


僕はもう一度ぶつかった不良の方に視線を向ける。



「ばか、流石にそんなの盛ってんだろ

多分誰か助けたとかじゃねー?」


「そう言うふうに見えるように、止まってるトラック使って写真撮ったんだろ?」



彼らは僕のことなんかさっさと忘れて、あの話で盛り上がっているようだ。





「どーせ、ごーせーだろごーせー」





ガハハと笑う不良共。




その背中を見て小さくため息を吐く。


だったらどれだけ良かっただろう。




彼らは気が付いていない。

今ぶつかった、すぐに忘れてしまうようなヒョロっこい僕が








あのコスプレ勇者本人だなんて。


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