三、

 手を伸ばしたまま固まる僕と、自転車を押し退けて座り込む女の子との間に緊張感をふんだんに含んだ空気が張り詰める。


「何か用ですか?」


 緊迫した空気を破る声に、我に返った僕が視線を下に向けると、女の子は視線を上に向け視線がぶつかり合う。


 その瞳には警戒が強く宿り、僕を拒絶している。


 その警戒の色に耐えられなくなる以前に、女の子とこんなに真っ直ぐ見詰め合った経験のない僕は、思わず目を逸らして下を向いてしまう。


 視線を逸らしたことで、この女の子のジャージが有名メーカーのものであることを知る。そして同時に体のラインが分かるそのジャージ姿にドキッとしてしまう。


 その視線と邪念がいけなかった。


「じろじろ見るのやめてもらえませんか」


 冷たい声色で言うそれは明らかな警戒の音。


 いや、卑しい気持ちが出ていたのかも知れないが、さすがにこのまま、変態呼ばわりされてはいけない。


「あ、違う、違うんだ。その倒れたから手を貸そうって……不快な思いさせたらごめん」


 必死で弁明した挙げ句、結局謝る僕を女の子はジッと見詰める。その視線を今度は逸らさないように意識して必死で見詰め返す。


 緊張感で背中に流れる汗を感じる。


「そうですか」


 それだけ言うと女の子は立ち上がり、自転車を起こし始める。

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