悪魔封じの神仕い―最兇の死神さまを克服せよ―

碧居満月

Ⅰ 神仕い誕生

第1話 そうだ 聖堂へ行こう

 縦浜市たてはまし海ヶ丘町うみがおかちょう十五番地。最強で邪悪な魔物をもね退ける“強力な魔除けの結界”に覆われた聖堂が、この町に存在している。

 かつて、強大な神力しんりょくを持つ、シスターマリアンヌが管理をしていだが、高齢による現役引退に伴い、もっとも信頼を寄せる神崎清華かんざきせいかが跡を継いだ。

 聖堂には甲冑に身を包み、勇ましく旗を掲げた等身大のジャンヌ・ダルクと、刃の先端が下に向いている剣の柄に両手を重ねて佇む、クリスティーヌ・ジュレスの白い像が安置されている。

 聖堂に古くから伝わる伝書によると、十五世紀の大昔。ジャンヌとクリスティーヌは神のお告げを受け、女騎士としてフランス軍を率い、苦楽を共にし、互いに支え合うように剣を振るっていた。

 当時、イギリスの占領統治下にあったルーアンの地にて異端審問裁判にかけられたジャンヌは異端の罪で処刑され、クリスティーヌはイングランド連合軍からオルレアンを解放するための戦争で戦死したと記されている。

 時を経て、二十一世紀となった今、重厚感漂う白い像となった彼女達は、遠い外国の地にて、世界の平和と、人々の暮らしを見守っているのだった。



 三箇日さんがにちが過ぎ、冬休みも残り僅かとなった、一月六日。自宅にて、杉浦美果子すぎうらみかこは暇を持て余していた。

 家族や友人らと一緒にクリスマス。まだ夜が明けきらないうちから高台にある三嶋神社に赴き、感動の初日の出を眺めて心機一転。

 その後は神社の神様に新年の挨拶をして、三箇日お正月を堪能。そして今に至る。

 冬のイベントがあっという間に過ぎ去り、加えて、今日は誰とも約束をしていない。

 急に暇となった美果子は朝からリビングでテレビをつけつつ、ぼんやりしていた。

 朝からなにもやることがない。え?冬休みの宿題があるだろうって?そんなもの、とっくに終わらしちゃったわよ。ついでに予習復習もばっちりやってるから大丈夫。

 暇そうに朝のワイドショーを見ながら、美果子はふと思い立った。そうだ。あそこへ行こう。

 部屋着から清楚なおしゃれ着に着替えた美果子は、ベージュのダッフルコートを着て、貴重品を入れた白色のハンドバッグを手に外出した。

「美果子」

 出かける直前。玄関で靴を履いていた美果子に、母親の由梨絵ゆりえと一緒に顔を出した祖母、マリアンヌが声を掛ける。

「出かけるのかい?」

「うん。暇だから、聖堂に行こうと思って」

「そうかい……」

 朗らかに返事をした美果子にマリアンヌは

「美果子、行く前にコレを持ってお行き」

 手に持っていたあるものを、美果子に手渡した。それは、マリアンヌが普段から首にかけている金の十字架のネックレスだった。

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