第58話 幽霊さんと想いの正体2

58話 幽霊さんと想いの正体2



「太一への想い、か」


 思いの外ストレートに聞いてきたな、とすみれは内心驚きつつ、幽霊の話に耳を傾ける。


「はい。初めて会った時は、太一さんはただのお話し相手だったんです。一人でひっそりと暮らすのが寂しかった私は、私のことを簡単に受け入れてくれた太一さんと今の生活を始めました」


 すみれにとっては、それらは知らない出来事。幽霊がいかにして太一と出会い、仲を深め、今に至ったか。これまでの日々を断片的に、かつ要点だけをまとめて、幽霊は簡潔にまとめて話した。


 そのうえで、だ。


「でも、最近の私は変なんです。太一さんが私以外の誰かのことを褒めたり、すみれさんや大学のお友達の人と電話をしていたりするだけで……なんだか、こう……胸が、モヤモヤするんです」


「モヤモヤ?」


「あと、ふとした瞬間に太一さんの顔を見れなくなる時があります。急に顔が熱くなって、話すのに緊張してしまって。ドキドキが、止まらなくなるんです」


「ドキドキ……」


「すみれさん、教えてください。私は太一さんのことを……どう、思ってるんでしょうか……」


 少女漫画かな? すみれは自分の想像を遥かに超えた幽霊の″重症っぷり″に心の中でそう呟き、ぽかんと口を開けていた。


 自分以外の誰かと話しているところを見ると、モヤモヤ……つまり、嫉妬してしまう。ふとした瞬間に顔が熱くなって、言葉が詰まる。ドキドキとやらが止まらなくなり、相手の顔を見れなくなってしまう。


(凄いな。そこまでわかりやすい症状があって、まだ自覚が無いのか)


 いや、もしかしたら無いわけではないのかもしれない。少なくとも太一に対して普通ではない、特別な感情を自分が抱いてしまっているということはどこか気づいているのだろう。だからこそ、こうして今ここに相談をしに来ている。


 そしてその想いの正体を伝えることは、とても容易だ。すみれでなくとも、第三者の視点から見ればほとんどの者が同じ感情の名を口にすることだろう。


 しかし、それが最善かは別の話。本当に今ここでそれを伝えることが幽霊にとって良いことなのか、すみれは決めあぐねていた。


(きっとこれを伝えれば、幽霊ちゃんの心のモヤは消えて太一との関係も良好に進んでいく。でも……そのきっかけを他人の私が作ってしまって、本当にいいのか?)


 今幽霊は、自分で考え、悩んでいる。その時間こそが大切であり、答えはきっと自分で得るべきだ。きっとこれは勉強においてただ正解を教えてもらうのと、自分で調べて探し出すのでは学びに大きな差があるのと同じことだ。


 ならば、やはり簡単に想いの正体を教えるのは得策ではない。


「すみれさん……?」


「あ、あぁ。すまない。どう答えたものか、少し考えていた。でも今、答えは出たよ」


「本当ですか!? ぜひ! ぜひ教えてください!」


(幽霊ちゃんには悪いけど……私から言えることは、一つだけだな)


 すみれの言葉に身を乗り出す幽霊と目を合わせ、真剣な眼差しで。すみれは、言う。


「幽霊ちゃん、大変言いにくいんだけどな。……その思いが何なのか、私には分からない」


 チクりと、胸を針に刺されたような痛みが襲った。純粋な気持ちで、自分を信じて頼ってくれた子に対してついた嘘の、罪悪感からだ。


「そ、そんな……」


「でも安心してくれ。その気持ちを知る方法が、一つだけある」


「!?!?」


 すみれはその痛みを飲み込み、言葉を続ける。




 答えを教えることはできない。でも、頼られた者として導くことはできる。そう、信じて。

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