第48話 すみれと幽霊、お風呂のふれあい1
48話 すみれと幽霊、お風呂のふれあい1
「うぅ……なんでこんな事に……」
「ふふふっ、観念したかね? 幽霊ちゃん」
脱衣所に放り込まれ、ちょこんっ、と床に座らされた幽霊はぶつぶつと小言を呟く。だがそこに、もう反抗の意思はな無かった。
たとえ無理やりここから出ようとしてもすみれに勝てる気はしないし、叫んで太一の助けを呼んでも恐らく状況は変わらないと理解していた。買収されているという考えまでは行きつかないが、それに近い事を想像して諦めている。
「あの、本当に一緒に入るんですか? その……女の子同士とはいえ、裸を見せるのは少し恥ずかしいんですが……って、すみれさん!?」
「ん? どうしたー?」
ぬぎぬぎ、ぶるんっ。
ぶつぶつと言葉を垂れる幽霊に決心をつけさせるためか。すみれは一瞬にして衣服を脱ぎ、下着姿になっていた。
(ぐぬぬ、なんて綺麗な身体……)
身長百六十センチ後半と女子としては高身長なすみれの手脚はスラりと長く、肌もシミ一つない艶やかな白をしている。そしてそんな白い肌とは対照的な黒い大人の下着が、幽霊の視線を釘付けにする。
骨格から違う、大人の女性。胸元のサイズは勝っていても、根本的な″女性としての魅力″の違いを見せつけられ、幽霊は自分もそうなりたいと羨望の眼差しと嫉妬の炎を向け、質問した。
「すみれさん! 一体何を食べていたら、そんな綺麗な大人の身体になれるんですか!?」
決して幽霊が太っているということはなく、むしろ身体は細く華奢な方ではあるのだが、すみれの腹部は引き締まり、しっかりとしたくびれがある。
そしてその上、しっかりと主張もしている胸元。バランスが良すぎて、三次元の人間では無いのではないかと思うほどだ。
「食べ物、か? 特に意識したことはないな。私の場合はそっちよりも運動だな。昔空手をやっていたこともあって、定期的に身体を動かさないと落ち着かなくなってしまった」
「運動……。家の中でも、できますか?」
「無難なところなら腹筋とか腕立て伏せとかだな。家の床でも充分出来るぞ?」
幽霊は普段から、運動など全くと言っていいほどしない。太一がいない間は家事とパソコン、帰ってきてからは一緒にゲームやお話。家から出れない彼女にとって、運動をするという発想はなかった。
「なるほど。それが、大人になる秘訣!」
これからは運動しよう。幽霊は心に誓った。
「さて、幽霊ちゃんそろそろいいか? いくら夏とはいえ裸同然の姿でずっと動かないと流石に寒い。早くお風呂場に行こう。さあ、くまさん衣装を脱いで」
「あっ、ちょっと待ってください! まだ身体に巻くタオルの準備がっ……!!」
「そんなもの、必要ない! シャワーを浴びるだけなのだから邪魔にしかならん!」
「ひあぁ!?」
すみれを止めようとするも、二人の力の差は歴然。幽霊は簡単にくまパーカーとズボンを脱がされ、サラシとパンツのみの下着姿へ。そのまま下着まで剥がれそうな勢いだったので、必死に手で最終防衛ラインだけは守り抜いた幽霊である。
「なんだ、幽霊ちゃんも細いじゃないか」
「いきなり何するんですかァ!! あとすみれさんみたいな体型の人に言われても嬉しくないです!!」
細いと引き締まっているは違う。例え二人の節々の細沙が同じだとしても、十五センチほどの身長差を考えると話は別なのだ。あと、身体を触った時の柔らかさ加減も全然と言っていいほど違いがある。
「幽霊ちゃん、いいことを教えてやろう。……男の子は、柔らかくて細い子が好きらしいぞ?」
「ぴっ!?」
「つまり、男子目線で言えば幽霊ちゃんの方が私より魅力的に映るということだ。勿論弟にも、な」
「わ、私は別にそういう意味で大人になろうとしていたわけでは……」
「ほーう? まあ、そういうことにしといてあげようか」
ニヤニヤとした顔。太一が揶揄ってくる時と同じ顔だ。でも同性な分、すみれの方が踏み込んできて幽霊の心を掻き乱してくる。
「本当、幽霊ちゃんは可愛いなぁ」
「むぐぐ……むぐぐぐっ……」
太一が敵わない相手に、幽霊が敵うはずがない。人を揶揄う才能が群を抜いているすみれへの完全敗北は、決まっている未来だったのだ。
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