七州略史
デウアルト家による国家、もしくはデウアルト朝と呼ばれる国は大陸の東端に位置し、国を分割している州の数から、その地に住む人々は七州と自称していた。
七州は、西南州、東南州、東部州、近北州、遠北州、近西州、遠西州であり、都であるコステラは西南州に置かれている。
唯一国土を接している異国はウストリレのみであり、この西方の老国と領土を接しているのが遠西州であった。
強力な中央集権国家であったデウアルト朝も、デウアルト家がその権力を徐々に失っていく中で、新暦八世紀に入ると各州の州馭使(※1)が自立し、争い合う状況になった。「長い内乱」と呼ばれる時代のはじまりである。
それを、九世紀後半に東南州より台頭し、遠西州を除く六州を手中に収め、「短い春」と呼ばれる安定期を生み出したのが、前の大公[ムゲリ・スラザーラ](※2)であった。
「長期化している遠西州に対する降服交渉を打ち切り、遠西州のゼルベルチ・エンドラ(※3)を討伐して百年ぶりの七州統一を果たし、その余勢を駆ってウストレリへ進攻する」
大公の西征の実施に対し、遠西州への武力行使については、側近たちの中で異を唱える者は少数であった。
しかし、ウストレリ国への進攻については総じて反対であり、百有余年の戦乱で荒廃した国土を復興しつつ、ウストレリの国情をよく調べたのちに、事の判断をすべきだという意見が大勢であった。
しかしながら、大公の股肱の臣であり、その右腕と呼ばれていたバージェ候[ガーグ・オンデルサン]が、西征への消極性のため、強制的に隠居させられたのみならず、その家督が望んでいた長男ホアビウではなく、大公と意を一にしていた次男に譲られると、だれも大公の計画に対して、面前で異を唱える者はいなくなった。
「大公は五十を過ぎて、一代で大事をなそうと急がれているのではないか」
側近たちはそう思わざるを得なかった。
そして、周りの反対を押し切り、西征を開始した大公が、近西州で横死すると、「短い春」は去り、「短い内乱」が勃発し、ホアラ候[ノルセン・サレ]が歴史の表舞台に登壇することになる。
※1 州馭使
もともとはデウアルト家から各地に派遣された官僚に過ぎなかったが、やがて土着し、デウアルト家の統制を離れていった。
※2 前の大公[ムゲリ・スラザーラ]
ムゲリ・スラザーラは、西南州州馭使の役職を配下のスザレ・マウロに譲り、自らは州馭監についていた。
州馭監は国家の一大事に臨時で置かれる職であったが、その権能は明確さを欠き、しばしば独裁者に悪用された。
大公は州馭監の異称。
※3 ゼルベルチ・エンドラ
遠西州の支配者。政務・軍務ともに長けた人物。祖父・父・ゼルベルチの三代をかけ、主家を乗っ取って州馭使に就いた。
交易を目的として、ウストレリ国に朝貢を行っていたのが露見し、これをもって、大公の意を受けたデウアルト家の摂政ジヴァ・デウアルトにより、州馭使の地位を剥奪されたが、その後も州馭使を僭称しつづけた。
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