ノベルバー2021

みたか

Day1〜Day5

Day1 鍵


 私の心には、ずっと鍵がかかっている。隙間なく閉ざされているその扉を、何度も開けようとしてみたけれど、だめだった。私の力では開かなかった。

 自分以外の誰かでないと開けられないのだと、本当は分かっていた。だけど、誰かに頼ろうとは思えなかった。彼以外が開けられるとは考えられなかったし、彼以外の人にその鍵を触れさせたくなかった。

 ぜんぶぜんぶ、分かっていたのに。

 動こうとは何ひとつ思えなかった。




Day2 屋上


 カーテンを開けると、ガラス越しに大きな月が見えた。窓についた土埃で、掠れているように見える。

 綺麗な満月でも三日月でもない不恰好な月は、学校の屋上の上にぽっかりと浮かんでいる。まるで今にも屋上に降り立ちそうだ。

 私の部屋からは中学校が見える。大学進学とともに引っ越して来た町だから、私が通っていた中学ではない。それでも学校を見るたびに、私は彼のことを強く思った。




Day3 かぼちゃ


 醜い自分の顔が嫌いだった。ぼってりと丸くて頬骨が大きく膨らんだ顔は、どう見てもかわいいとは思えなかった。顔を隠すために前髪を伸ばして、毎日マスクをして学校に行った。

 私はどうしてもあの子にはなれない。かわいいとみんなから言われるリサちゃん、クラスの人気者のカオリちゃん。あの子みたいになれたらと、何度思ったことだろう。

 ただ生まれてきただけなのに、かわいくないだけで不利だと思った。かわいい子たちは、それだけで学校の上位にいられる。みんなに注目されて、何をしても許される。

 自分ではどうしようもないことなのに、顔の作りが違うだけでこんなにも苦しい思いをするのかと思った。

 自分の顔が憎かった。




Day4 紙飛行機


 彼はまるで、青空を切り取る紙飛行機みたいだった。ふわふわとして頼りない。なのに、私が思っているよりも、どんどん遠くへ行ってしまう。風に乗って気持ち良さそうに。そんな人だった。

 石井くんと初めて話したのは、放課後の掃除の時間だった。その日、石井くんと私は掃除当番だった。他にも数人いたけれど、誰がいたのかは覚えていない。中学に入ってから、真面目に掃除する人は少なくなっていた。

 下を向いて掃き掃除をする私の前を、秋の風が撫でていった。前髪がふわりと浮いて、私は慌てて手で押さえようとしたけれど、彼には見られていた。

「瀬尾さんって、綺麗な目してるんだな」

 私の顔を覗き込むようにして、石井くんは言った。重く伸びた前髪を押さえるのも忘れて、私は石井くんの笑顔を見ていた。




Day5 秋灯


 私の心にあかりが灯ったような気がした。誰かが私の外見を褒めてくれるなんてそれまでなかったから、たった一言だけでも本当に嬉しかった。

 暗くて長い夜を、石井くんが照らしてくれた。私は少しだけ、自分の周りも自分自身も、もう少し見つめてみようと思えた。



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