25

 吐き出した血と傷口からの流血で、地面が赤く染まる。

 激痛に苛まれながら首を後ろに回すと、そこには――

「新……手!?」

 少し離れた場所で地面に手をつき、観音寺紗希がいる場所まで地面から幾多の鋼鉄棘を生み出した男がいた。大きく見開いた目が特徴の黒髪をツンツンに逆立てた男だ。その双眸と身体は白銀色に輝いている。

 氷のデビルコンタクトが下卑た笑みを浮かべる。

「ヒヒヒ! まんまと引っ掛かりましたね! 『氷檻アイスケイジ』!」

 観音寺紗希の全身が巨大な氷で覆われていく。武器を警戒してか、まず右手を覆った上で、足元から順に残りを氷で包んで行った。

「単独……犯が……基本の……デビル……コンタクトが……徒党を……組む……なんて……!」

「確かにデビルコンタクトは群れるのを嫌いますが、今回は特別です。最近益々武装が派手になってきた貴方を、そろそろ消しておかないと危険だと思いましてね」

 そう言うと、氷のデビルコンタクトは鋼鉄のデビルコンタクトに声を掛けた。

「ありがとうございます、助かりました。後はワタシがやるので、腹部を刺した鋼鉄が燃やされたり抜けたりしないように、それだけ注意しておいて下さい」

「了解」

 首から下を巨大な氷で覆われた観音寺紗希は、左手の火炎放射器は鋼鉄のデビルコンタクトに壊されたため、

「こんな……もの……! 『四重……火炎クアドルプル……フレイム』!」

 と、右手の炎で溶かそうとするが――

「おっと、それは無理ですよ。今もこうして貴方の右手を新たな氷で覆い続けていますから。それに、氷漬けにした際、貴方の両手は離れていた。貴方の炎は確かに強い。けれど、それは一番強力なあの技だからこそです。片腕ずつバラバラの状態では、このワタシの氷を溶かし切るのは不可能です」

 それなら、と、観音寺紗希は密かに足元に神経を集中させる。

 実は手袋部分だけでなく、ブーツ部分も火炎放射器だったのだ。

 両足の爪先から火炎を噴射する。

 ――が、何故か一向に氷が溶ける気配がしない。

 そんな観音寺紗希を、氷のデビルコンタクトが冷たく見下ろす。

「甘く見られたものですねぇ。この氷はワタシが生み出したものですよ? 特定の部位の熱が高まれば、その場所も把握出来ます。足元にも武器があるのは把握済みです」

 唇を噛む観音寺紗希。

 だが、諦めない。

 それでも彼女は右手と両足から火炎を放ち続ける。

 しかし無情にも、氷の檻は毫も溶けず――

「お別れの時間です。そろそろ死になさい」

 氷のデビルコンタクトが手を翳すと、観音寺紗希の首下の氷が上の方まで這い上がって来た。

 顎、そして口と、徐々に顔全体が氷で覆われて行く。

「あ、そうそう。先程の貴方の言葉で思い出しました。父親と母親、それに兄。貴方、八年前に車でドライブしていた家族の娘ですね?」

「!」

「いやぁ、あれは滑稽でしたねぇ。何も分からないままに無残に殺された母親。車なら大丈夫だろうと浅はかな考えで眼鏡をしたまま家族を連れ出し危険に晒した挙句、胸を貫かれ、逃げろというただそれだけの言葉さえも最後まで言えずに死んだ父親。そして極め付きは、妹を守ろうと勇猛果敢に敵に挑むものの、見事に返り討ちに遭い、氷像になって間抜けな笑顔のまま息絶えた兄。そして兄譲りの馬鹿な妹が、敵討ちをしようとして、これまた惚れ惚れするほど見事に罠に嵌り、今こうして兄と同じ方法で絶命する。何とも救いようが無い家族ですねぇ。ヒヒヒ! ヒヒヒヒヒ!」

 路地裏に響く男の嘲笑。

 悔しさが溢れ出し、観音寺紗希の頬を涙が伝う。

 その口は既に氷で覆われ、次に鼻、そして眼鏡を掛けた目元へと迫る。

 父さん……母さん……兄さん……

 仇……討てなかった……

 ごめんなさい……

「では、これで終わりです」

 氷のデビルコンタクトの声と共に、観音寺紗希は頭の先まで、完全に氷で覆われてしまった。

「やはり楽しいですね。これだから眼鏡狩りはやめられないのです」

 氷のデビルコンタクトが口角を上げた瞬間――

「がぁっ!」

 少し離れた位置にいる鋼鉄のデビルコンタクトが、悲鳴を上げる。

「!?」

 見ると、その腹部が背後から剣で貫かれていた。その剣を握るのは――

「なっ!? 貴方は一体!?」

「ハッ! てめぇをぶった斬る男だ!」

 即座に眼鏡剣を引き抜き、鋼鉄のデビルコンタクトが倒れるよりも早く跳躍したリュウが、氷のデビルコンタクトに対して啖呵を切りながら、一気に距離を詰める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る