その日の午後。

 五時間目は、体育だった。

 男子はサッカー、女子は体育館でバレーを行う予定だったのが――

 何故か男女ともグラウンドに集合することになり、更に内容は「陸上競技に関するものなら何でも可」と、生徒が自主的に行うこととされた。ただジョギングするだけでも良いらしい。

 戸惑う紫ジャージ姿の生徒たち。見ると、運動場の隅にハードルやメジャーなど、陸上関連の用具が置いてある。

 既に授業開始のチャイムは鳴っていたが、担当の体育教師もおらず、生徒たちはただざわついていた。

 すると――

「青塚光龍はいるかしら?」

 声がした方を見ると、運動場へ下りるための階段の上に仁王立ちしている女子がいた。

 金髪縦ロールでツインテールかつ巨乳の女子生徒。ピンクジャージ姿の彼女は、女子二人男子二人合計四人の取り巻きを引き連れ階段を下りて運動場に入って来た。女子にしては少し背が高く、その堂々とした態度と相俟って、更に大きく見える。

「えっと……僕……ですけど……」

(また知らない女子だ!)

 おずおずと前へ出て来たものの、目を泳がせる青塚。

「何で三年生が二年生の授業に!?」

 長浦芽衣の言葉からすると、どうやら三年生の女子生徒らしい。

 その女子生徒はツカツカと青塚の前まで来て仁王立ちし、金色の瞳で青塚を睥睨した。

わたくしは、この学園の理事長の娘、生徒会長の東枇杷島ひがしびわじま舞子まいこですわ。青塚光龍、昨日は私の部下二人がお世話になったようですわね」

 よく見ると、紫ジャージ姿の取り巻き四人の内男子二人は、昨日青塚が撃退した男子生徒たちだった。身体中に包帯を巻いた二人は、東枇杷島舞子の後ろから青塚を睨んでいた。

 青塚が東枇杷島舞子に視線を戻すと、冷酷な双眸が待っていた。

「ですが、調子に乗るんじゃありませんわ。この学校では私が絶対。私に逆らったらどうなるか、分かっていますの?」

 東枇杷島舞子の噂は学園の誰もが知っている。

 彼女の言葉通り、この学園では彼女がルールであり、何か気に食わないことがあれば白でも黒にしてしまう傍若無人振りだった。長浦芽衣が入学した当時、他にも眼鏡を掛けた生徒がまだ数名はいたのだが、全員東枇杷島舞子の部下達によって粛清されてしまった。

 何をするか分からない怖さがある東枇杷島舞子が、今青塚の目の前に立ち塞がっている。

 それを見て、長浦芽衣は慌てて二人に駆け寄って言った。

「ち、違うんです! 青塚君は私を助けようとしてくれただけで――」

「お黙りなさい、小娘。今私はこの男に話し掛けているのですわ」

 氷のように冷たい視線で射られて、長浦芽衣は思わず言葉を無くす。

「長浦さん、ありがとう。僕は大丈夫だから」

「青塚君……」

 眼鏡を掛けた女子が自分を窮地から救おうと動いてくれたという事実で、先程までの挙動不審な態度が消えて、落ち着いた様子の青塚が微笑む。

 そんな二人を見て、東枇杷島舞子が苛立ちから顔を歪める。

「私の許可無しに話すなどと、言語道断。お仕置きが必要なようですわね」

 そう言うと、右手を後方へと引き、平手打ちをした。

「おっと」

 それを避けて数メートル後ろへと跳躍して距離を取る青塚。

 素早い動きだったが、普段から極限まで鍛えている青塚にとっては、避けるのは造作も無いことだった。

 だが、東枇杷島舞子は気にする様子も無く、その場で平手打ちの動作を繰り返す。

(何してるんだろう?)

 最初はただ繰り返しているだけかと思えたが、回数を重ねる度に平手打ちの速度が上がり、風を切る音が聞こえて来た。

 それを何度か繰り返した後、再度手を後方へとテイクバックした直後――

 ――東枇杷島舞子は、青塚の目の前に現れた。

「なっ!?」

 慌てて頭を後方へと逸らし、猛スピードで迫る平手打ちをスウェーバックで避ける――

 ――が、避けきれずに頬が軽く切れて出血する。

 青塚は思わず距離を取るが、またも一瞬で距離を詰められて、今度は上段右回し蹴りが襲い掛かる。

「くっ!」

 それを弾き飛ばそうと青塚も全力で右回し蹴りを食らわせるが、東枇杷島舞子の右足にぶつかり鈍い音がするも、全く動かすことが出来なかった。再び距離を取る青塚。

(『身体強化』のコンタクトだろうけど、強い! あの男たち二人よりも格段に! でも、このくらいなら……!)

 東枇杷島舞子は、追撃せずに冷たい眼差しで青塚を見遣る。

「あの二人を倒しただけあって、眼鏡の癖になかなかやりますわね」

「あなたこそ。でも、この程度なら、全力で倒そうとすれば倒せますよ。出来れば女性は傷付けたくないので、もう止めて貰えますか?」

 青塚の言葉に俯く東枇杷島舞子。

(分かってくれたかな?)

 だが、顔を上げた東枇杷島舞子は――

「ふふふ。アハハハハハハ!」

 高笑いをした。

「止めろですって? 分かっていないようですわね! 私のコンタクトの属性は身体強化ではなくてよ。私のコンタクトは『身体強化』と――」

 手を掲げた東枇杷島舞子の頭上に砲丸、円盤、ハンマー、槍が大量に浮かぶ。

「なっ!?」

「――『物体操作』の『ダブル』、ハイブリッド型ですわ!」

 双眸が虹色に輝き、身体も虹色の光に包まれた東枇杷島舞子が翳した手を振り下ろすと同時に、陸上道具が凶器となり青塚へと勢い良く飛んで来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る