メガネの騎士~デビルコンタクトに対して眼鏡の力で戦いを挑む異能バトル~

お餅ミトコンドリア@悪役ムーブ下手が転生

 プロローグ

               

 西暦20XX年。

 コンタクト派による弾圧により、眼鏡派は絶滅寸前だった。

 日本の地方都市であるN市は特に眼鏡差別が激しく、眼鏡狩りが毎日横行しており、眼鏡を掛けた人々は日々怯えて暮らしていた。

 ただ、そんな中、闇を照らす一筋の光があった。

 いつの頃からか、眼鏡を掛けた一人の男が眼鏡派の人々を守ってくれているという噂が流れ出したのだ。

 そんなのは絶望し過ぎた者が見た幻覚だ、単なる妄想だ、都市伝説だと笑う者も勿論いた。だが、彼に救われたと訴える者は日に日に増えて行った。

 信じる者、信じない者、色々ではあったが。

 彼は巷ではこう呼ばれていた。

 ――『メガネの騎士』と。


※―※―※


「えっと、あの……では、宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しく。わざわざ事前に挨拶に来てくれてありがとう」

 そうやり取りをした後深々とお辞儀をして、校長室から出て行きかけた学生に対して、もうそろそろ還暦に届こうかという校長が声を掛けた。

「時に、青塚君」

「は、はい……何でしょう、校長先生?」

 声を掛けられたことでビクッと肩を震わせ、おどおどしながら振り返り校長を見る黒髪眼鏡の学生。十月という異例の時期に注文したこの高校の制服はどうやら間に合ったようで、サイズもぴったりのはずだが、ブレザーの制服と青のネクタイは童顔の彼には余り似合わず、小さな子供に無理矢理着せたようなチグハグさを感じさせる。猫背であることが原因で、中肉中背にも拘らず見た目よりも小さく見える青塚あおつか光龍こうりゅうは、たった今会ったばかりの校長に、内心で「『龍』のイメージから掛け離れた少年だ」と思われていた。

「いや、特に大したことでは無いんだけどね……」

 先ほどまで学校の長らしく威厳を持って話していたにも関わらず、何故か少し言いよどんだ後に、校長はこう言った。

「知っての通り、うちはトップクラスの進学校だ。まぁ、進学校且つ名門校ではあるが、伸び伸びとした教育で成績を伸ばそう、という教育方針であり、他校と同様制服はあるものの、髪型などは比較的自由な方だ。ただ、一つだけ……君が今装着している……視力矯正器具というか……まぁ、なんだ……眼鏡だな。それに対してだけは、学内で、あまり歓迎されないかもしれない。無論、世界中で起きている眼鏡派への弾圧に我が学園が屈するという訳ではない。そんなことは断じてあってはならないことだ。それに、そういった弾圧があろうがなかろうが、眼鏡をやめろだなどと生徒に強制することなど出来ない。が、もしかしたら、その方が青塚君の学生生活にとっても良いかもしれないと思ってだな……」

 そこまで聞くと、青塚は丁寧に返答した。

「僕のことをお気遣い頂きまして、ありがとうございます」

「おお、そうか! それなら、眼鏡はやめて――」

 明らかに明るい声で校長がそう言い掛けるが。

「ただ、僕は、眼鏡であることを誇りに思っていますので。すいませんが、このまま生活させて貰えればと思います」

 先ほどまでの小動物然とした気弱な態度はどこへ行ったのか、青塚は胸を張り、毅然と答えた。

 その言葉に、肩を落として、何かを諦めたかのような表情をした校長は。

「……そうか、分かった。充実した学生生活になると良いね。くれぐれも、無理はしないようにね……」

 と、可哀想な者を見るような眼差しを向けつつ、部屋を出る青塚を見送った。


 ここは将来を嘱望されるエリートたちが集う名門校、私立紺多区戸コンタクト学園。世界中で起きている弾圧の影響か、元々そうだったのかは定かでは無いが、ここでは、コンタクトで無ければ人に非ず、という考えが黙認されていた。よって、入学時に眼鏡を掛けていた者も、一週間もしない内にコンタクトに変えて行った。そして、数日前の時点で、全校生徒千人中、眼鏡を掛けている生徒は一人だけ、となっていた。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※


(※お読みいただきありがとうございました! お餅ミトコンドリアです。


新しく以下の作品を書き始めました。


【もしも世界一悪役ムーブが下手な男が悪役貴族に転生したら】

https://kakuyomu.jp/works/822139838006385105


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