第156話 トンデモない土産話


異世界生活375日目-50,881pt

 秘密会議から3日後


 

 今日もナナシ村はすこぶる平和だ。いつものように朝が来て、みんなが仕事へと出かけていく。



 メリー商会も閉店して、みんなこっちへ移り住んできた。倉庫だけでなく、商店のほうにも結界を張っておいたので店が荒らされる心配もない。

 メリナードやメリマスも家族とともに暮らすようになり、憧れていた冒険者生活を始めて、今日もウキウキしながら出かけていった。


(何か忘れてる気がするんだけど……まあいいか、そのうち思い出すだろう)



 開拓地のほうも相変わらず順調だ。唯一の変化と言えば、長屋地帯を結界で囲ったことくらいか。これはラドの提案によるもので、入口を1か所だけにして、夜間の警備を手厚くするための措置だった。

 開拓した場所には魔物が湧かないけど、周囲の森から侵入してくる可能性はある。開拓民の安心にもつながるし、いざというときの避難所として利用するためだった。



 と、そんな感じでみんなを見送り、「今日はどこから見に行こうかな」なんてことを考えながら転移陣のほうへと歩いているときだった――。



 まだ遠くに見える転移陣から、思いもよらぬ人物が姿を現した。


 そいつは私に気づくと、手を振りながら全力で駆け寄ってくる。しかも、トンデモないみやげ話を持参していた。



「村長、お久しぶりっす!」

「お、やっぱり武士だったか。もう仲間との別れは済んだのか? ていうか、転移陣の使い方なんて教えたっけ?」

「もう完ペキに自由の身っすよ。それに転移陣はダンジョンで何度もね。あと、誰も店にいなかったんで、勝手に使わせてもらいました」

「あー、そりゃ悪かったな。決して忘れてたんじゃないからな……」


 前に別れてから20日くらい経つのかな? ここを見ても全然驚かないし、鈍いのか肝が据わってるのか……相変わらず個性的なヤツだった。



「そんなことより、マジでヤバいっすよ」

「お、やっと気づいてくれたか。どうよ、なかなか発展してるだろ? 武士も今日から頑張ってくれよな」

「いやいやそうじゃなくて……ヤバいのは街のこと。ついさっき、帝国のヤツらが大軍で現れたんすよ」

「え……それって北部の街にか? それとも首都ビストリアか? まさかと思うけど……ケーモスじゃないよな?」

「もちろんケーモスに決まってるじゃないですか。オレ、それを伝えに慌ててきたんすから」


(帝国がケーモスに来た……? しかも大軍で? いったい全体、どういうことだってばよ……)


 まさか北部の領や首都を飛び越えてくるとは……。思いもよらない展開に、武士の話が頭に入ってこなかった。


 ――ようやく少し冷静になると、なんとなくだが状況を把握することができた。


 武士の知りえた情報によると、


・帝国軍が現れたのは今日の明け方。どこから来たのかは不明だが、今は領主館を拠点にしているらしい。(武士本人は未確認)


・おびただしい数の武装した日本人により、街の南北にある門を制圧、住民たちは北の門に集められている最中だった。


・街に住んでいた日本人は、領主館のほうへ案内されているらしい。抵抗する者以外は、拘束もされず割と穏便な対応だった。武士も声をかけられたが、領主館へ向かうように指示されただけ。


・街の衛兵や冒険者も抵抗を見せたが、あまりの人数差に降伏、ほとんどの者は生かされたまま捕えているらしい。



「……なるほど、それはマジでヤバいわ。ヘタすりゃ帝国にいるヤツら全部が来るのかもしれん」

「とにかく、とんでもない人数でした。あんなに集まってるのは、日本でもそうは見ないっすよ。大規模のイベント会場さながらっす」

「なあ武士、来て早々悪いけど、今から村のみんなを呼ぶからさ。あとでもう一度説明してくれ」

「全然オッケー、オレに任せてくださいっ」


 


◇◇◇


 それから30分後――


 ダンジョン班を念話で引き戻し、主要メンバーを集めて緊急会議を開いているところだった。


「――って感じだったんすよ。オレの知ってることはこれで全部ですかね」


 武士の説明がひと通りおわったところで、すぐにラドから声がかかる。


「村長、まずは森の入口に斥候を送るぞ。それと警備隊は開拓地へ配備。開拓民は念のため長屋へ待機させておこう」

「そうだな、すぐに手配してくれ。いきなりこっちまで来ないと思うが……万が一ってこともあるからな」

「開拓地で何かあれば念話を入れよう。では先に失礼するぞ」


 結界により、全域が覆われてる村とは違って開拓地は外周だけだ。可能性は薄いが、賢者たちが転移してこないとも限らない。まあラドに任せておけば大丈夫、必ず上手くやってくれる。長屋に結界を張っといてよかった。


「さて、と――。これにはさすがに驚いたが、どう動くのが賢いかな。慌てなくてもいいから、みんなもじっくり考えてみてくれ」


 そう簡単に答えが出る問題ではない。いったん冷静になるのが正解だと思い、しばらく考える時間をとることにした。


「村長村長。新参者の意見とかって、言っても大丈夫っすかね。ダメなら黙っときますけど」

「いや、全然構わないよ。むしろ現地のことを一番よく知ってるのは武士だ。私からお願いしたいくらいだよ」

「そうっすか、じゃあ遠慮なく。まずは――」


 武士曰く、まずは現地の偵察が最優先だということだった。


 この村に探索系スキル、もしくは隠密系スキル持ちがいるのか。もしいるならその者と同行して、少数の精鋭で現地を見に行くこと。

 とくに隠密系のスキルは、発動中に触れている対象にも効果があるので、偵察するのにもって来いらしい。理想の編成は隠密と鑑定、それに村の主力1名、聞き耳スキル持ちがいるとなお良い、って感じだ。


 武士には、まだ村のスキル所持者については何も話してない。だというのに、まるで知っていたかのような話しぶりだった。これは後で聞いたことなんだが……毎日毎晩、村のことを、そして自分が活躍することを妄想しまくっていた結果らしい。


(口調と見た目は軽そうなヤツだけど、実はかなりの策士だったり?)

 

「まあこんなもんかな。――色々考えるのも大事だけど、相手の初動を把握できるのは今だけっす。手を出す出さない関係なく、情報を集めるのが一番だと思うんすよね」


 武士はそう言いながら、みんなの反応を待っている。その顔は平然としてるし、臆している感じも全くない。


「いやぁ、武士くんお見事ですね。私も彼の意見に賛成です。領主館には転移陣もありますし、天幕があるから完璧かと。……冬也くんはどう?」

「桜さん、オレも賛成だ。村長と香菜さん、それにロアさんが適任だと思うよ。隠密の人数制限にもよるけど、可能ならオレも連れてってくれ」


 総司令と軍団長のお墨付きもあり、武士の作戦はすぐに実行されることになる。



「よし、香菜に詳しく聞き取りをしてから人数は決めよう。私たちが現地に行ってる間に、増援部隊の準備を頼む!」














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