第124話 ドラゴ、駄々をこねる


異世界生活298日目-信仰度:1481pt


 開拓を開始してから、はや6日が経過していた。


 長屋の建設は順調に進んでるし、開墾した土地もかなりの広さになっている。これはもう、ケーモスの街ともいい勝負ができるんじゃないだろうか。

 ――まあ、流石にそれは言い過ぎたけど……土地の広さだけならいっぱしの街のようだ。そう思えるだけの壮大な景色がここにはある。



 今日も桜とペアを組んで伐採をしていると、昼を過ぎてすぐくらいにメリナードから念話が入った。



『村長、メリナードです。開拓のほうは順調ですか』

『ああ、おかげさんでな。毎日同じ作業の繰り返しだけど、みんな文句も言わずに頑張ってくれてるよ。――それで、今日はどうした?』


(滅多な用事でもない限り、普段メリナードから念話が来ることはない。さてはビストリア連合国で動きがあったな)


『実は今日の午前中、この街の領主と面談して参りました。その席で、ナナシ村の村長を招待するよう頼まれまして……』

『領主から? しかも召集じゃなくてか。それで具体的には?』

『建前上は、一度直接会って歓談したい。本当の目的は食糧の供給についてだと思われます』

『芋の販売量を増やせってことか。まあ議会からも、ずいぶん前から打診はあったもんな』

『ええ、私ものらりくらりとにごしてはいたのですが……。連合軍が北部へ集結したことで、軍への支給が追いつかなくなったようです。必ず招待するようにと、何度も念を押されました』


(んー、領主かぁ。全然会いたくないけど……せめてもうしばらくは、穏便に付き合っておきたいよな)


『よしわかった。いつ行けばいい?』

『可能であれば早めに。領主の要望では、明後日の午後でお願いしたいそうです』

『いいよ、その日の朝一番で向かうよ。――ああそうだ、ドラゴとマリアも連れていくと伝えて。本人たちが希望していると付け加えてくれ』

『なるほど……たしかに伝えておきます。私の一存で断ることができず、申し訳ありません』

『全然構わないよ。あーあと、商会の倉庫に転移の魔法陣を設置するつもりだから、スペースを確保しといてね』

かしこまりました』


(議会との取引もそろそろ潮時だな。奴隷も買えないし、街で買う物もたいして無い)


「桜、今の念話聞いてたろ?」

「はい、いきなり繋がったから驚いたけど……ついに領主と対面ですか。啓介さんも、異世界ファンタジーの主人公らしくなってきましたね!」

「なんだったら桜も一緒に行くか? 領主と会うなんて王道だろ?」

「もちろん行きません。だってそれに、私たちには魔物狩りをさせるつもりでしょ?」

「さすがは桜、何でもわかっちゃうな。明日から数日は、『転移の魔法陣』のポイント稼ぎを頼むよ」

「遺跡ダンジョンへ行ってもいいよね?」

「ああ、パーティ編成も含めて全部任せる」


 何も言わなくても理解しちゃうんだから、桜の洞察力には恐れ入る。

 ただ、しばらくダンジョンに行ってないからな……。相当無茶をするんだろうけど、そこは目をつぶるしかあるまい。


(こうなると問題なのは――アイツだよな)



 その日の晩、魔物狩り再開のことを話したら、案の定ドラゴがねだした。お菓子売り場の前で、子どもが駄々をこねている姿を想像してほしい。まさにそんな感じだった。

 恥ずかしげもなく地団駄を踏み、説得の末、明日一日は魔物狩りに参加すること。帰ってから数日はダンジョンへ行く許可を出すことで、やっと収まった。


 ちなみに、マリアはすんなりと引き受けてくれたよ。彼女は魔物狩りに興味がないしね。「街で買い物がしたいわ!」と言って楽しそうにしていた。




◇◇◇


異世界生活300日-信仰度:2202pt



 領主会談の当日、今はちょうど、ドラゴとマリアを引き連れてメリー商会へ到着したところだ。


 昨日は結局、たった一日で500pt以上の信仰度を獲得。遺跡ダンジョン班なんかは、夜暗くなる寸前までこもっていた。もちろん、その首謀者はドラゴに決まっている。

 でもそのおかげで、今日の晩には魔法陣が設置できそうだ。本人も満足顔だったので、結果的には良かったんじゃなかろうか。



「みなさん、お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください」

「ああ、遠慮なくお邪魔するよ」


 メリナードに案内されて、私ひとりが来客室へと向かった。


 ドラゴは街にいる知人と会うらしく、マリアもさっそく買い物に出かけていった。昼食までには戻るみたいだし、あの二人なら放っておいても大丈夫だろう。



「さて――。今日の会談のことは昨日も伝えたけど、念のためもう一度確認しとこうか」

「はい、お願いします」

「まずは今後の取引についてだ。今日は適当にあしらうつもりだけど、場合によっては販売中止を匂わすかもしれん」

「いずれにせよ、芋の供給は止めるおつもりですね。こちらには、金銭以外のメリットがないですし」

「ああ、向こうの出す条件次第だな。獣人国を助ける義理もない」

「承知しました」


 これについては規定路線だ。連合軍が食糧に困ってくれた方が、こちらには都合がいい。あぶれた困窮こんきゅう者が流れてくるかもだし。


 大森林を完全封鎖した今となっては、ビストリア連合国を盾に利用する必要もなくなった。もう食糧を提供する意味もない。


「次に商会の店員についてだ。明日から交代でレベルを上げてもらう。街との関係がこじれたとき、どんなちょっかいを出されるかわからん」

「どの程度を考えていますか?」

「最低でもレベル40にはしたいかな。……多少危険だが、ミノ狩りに同行すればすぐ上がるはずだ。当然、これ以上ない万全のサポートをするからな、身の安全は保障するよ」

「なるほど、ではこのあとすぐに伝えておきます。みなも喜ぶでしょう」


 このまえ武士たけしと話したとき、街に残った特務隊のレベルは35以下だと言っていた。オーク狩りで上がってるだろうけど――40もあれば、身を守ることはじゅうぶん可能だ。


「あとは、布生地を大量に仕入れといてほしいかな」

「はい、すでに手配しておりますよ。追加分も、全ての工房に発注しています」

「それは助かる。村で作ってる分はストックしておきたいからね。私からは以上だ」


 布生地は、難民用の衣類や寝具にたくさん使う。それに、間仕切り用のたれ幕としても利用する予定でいる。長屋で雑魚寝させるといっても、ある程度のプライベートスペースは確保しないとダメだろう。

 他にも使い道はいくらでもある。在庫がいくらあっても腐るもんじゃない。


「それでは村長、ウルガンとウルークを呼んでもいいですか?」

「ああ、そうだった。ふたりのみやげを忘れてたよ」


 それからすぐドアが開いて、ふたりが入室してきた。


 今回持ってきたのは、『魔鉄の槍』と『魔鉄の剣』だ。ウルガンとウルークの兄弟には随分世話になってるからね。村長からの褒章ってことで渡すことにしたんだ。


「「村長、ありがたく頂戴します!」」


「この剣と槍で、より一層活躍してくれ。ああそれとさ、転移の魔法陣が置けたら、暇を見てダンジョンにも行っていいぞ」


 ふたりは抱き合って喜んでいる。いつでもダンジョンに行けるのだ、その喜びも相当なものだろう。

 隣にいたメリナードが「そのときは私もお忘れなく!」と、食い気味だったのには笑ってしまった。



「さて、いよいよ領主との対面だ。気合入れていきますか!」













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