第117話 勇人、お前やっちまったな


異世界生活272日目



 次の日、椿と夏希を引き連れて街へと向かっていた。


 目的は勇人ゆうとたちに会うためだ。昨日の時点で連絡をとってもらい、3人とはメリー商会で落ち合う約束もしてある。




「ねえねえ、闇堕ち村長ー。あれから結局どうなったの? 街の近くでミノちゃんを湧かせるってヤツ」

「おい夏希、闇堕ちって言うなっ! あのときは、ほんの少しだけ調子に乗ってたんだよ……」

「ダンジョンを攻略してミノちゃんを湧かす計画してたじゃん。たしか、俺の暗黒面が……クッ、抑えきれないかもしれん、だっけ? んん?」


 たしかに昨日、ついついそんなことを口走っていた。「街から逃げ出した難民を受け入れれば、村人をどんどん増やせる。これでポイントもガンガン貯まるぞー!」ってね……。


「そんな方法もあるよなって……。一瞬頭によぎっただけで、本当にするつもりはない」

「ふーん。じゃあ、『俺が世界の王となる。もしや、俺が魔王なんじゃないか』ってのは何だったの? ねえ魔王村長ー、何だったのー?」

「うっ、頭が……もう、やめてくれ……。昨日はつい飲みすぎちゃっておかしかったんだ」

「まあまあ夏希ちゃん、それくらいにしてあげましょう。そのうち、違う方面に闇堕ちしちゃうかもだし、魔王啓介も反省してますよきっと」

「椿まで……。ふたりとも頼む、昨日のことは他の連中には内緒にしてくれ、下さい、お願いします」


 夏希と椿に爆笑されながら、馬車を操り街へと到着したのだった。



 街の門番はスルーパス、メリー商会の使いだと説明すると、笑顔で通してくれた。もちろん、処分品という名目の芋はお配りしてある。


 相変わらず賑やかな街の風景を眺めながら、寄り道をせずメリー商会へとたどり着いた。



「メリナード、久しぶりだね。予定より少し遅れたかもしれん、悪いな」

「いえいえ、無事に到着されて良かったです。勇人さんたちも先ほどお見えになりましたよ。来客室におられますので、皆さんもどうぞおあがりください」


「お邪魔しまーす!」「失礼します」


 メリナードの出迎えをうけて、商会の客間へと一緒に向かっていく。ウルガンやウルークは既に客間で待機しているようだ。

 勇人たちと会うのは実に3か月ぶりとなるので、どんな成長を遂げているか楽しみだ。色々あったらしいけど、割と元気にしてたと聞いていたのでそれほど心配はしてなかった。



 階段をのぼって4階まで行くと、ドアの前に勇人が立っていた。どうやら、私たちが来たのを窓から見ていたようだ。待ちきれずに部屋の外まで出てきたんだと後で語っていた。



「啓介さん! お久しぶりです!」

「やあ勇人、元気そうじゃないか。――なんか随分雰囲気が変わったな? さては相当もまれてきただろ」

「ええ、まあ色々ありましてね。そういう啓介さんも、あの時よりさらに若返ってません?」

「ああ実はな。村の恩恵でそんな効果があるとわかってさ。この若さを保っていられるんだ、寿命は変わらんけどな」

「それは凄いですね……。あ、メリナードさんすみません。部屋に戻ります、失礼しました」

「久しぶりに会われたのです、今日は存分にお話しください。夕食の準備も致しますので、ゆっくりとご歓談を」


 そう言ってくれたメリナードは、ウルガンとウルークを扉の外に立たせ、事務室へと戻っていく。用事があれば護衛に、と付け加えていた。



「改めまして、久しぶりに会えて嬉しいです」

「私もだよ。ふたりも元気そうでなによりだ。椿と夏希も、ふたりに街のことなんかを聞くといいさ。村のこともしっかり伝えといてくれ」

「じゃあ村長、わたしたち街に出かけてきてもいい? お店とかも教えて欲しいし、買い物でもしながらゆっくり話してくる!」

立花りっかさんと葉月はづきさんが良ければな? ただし、護衛のふたりは連れてってもらうぞ」


 私がそう言うと、立花と葉月が一瞬だけ迷う素振りを見せた……が、すぐ笑顔に戻り、そそくさとみんなで出かけて行った。Sランク冒険者並みのウルガンとウルークもいるし、剣聖と聖女だっているのだ。『結界のネックレス』も持たせてあるので、なんの心配もないだろう。



「なあ勇人、さっきふたりが見せた表情。アレって例の妨害が原因だよな?」

「そうですね。僕はもう慣れましたけど、入店を拒否される店も未だに結構あります」


 勇人たちが街にきて以来、「ずっと陰湿な妨害行為を受けている」と、メリナードからちょくちょく聞いていた。


「とくに日本商会の系列だっけ? ああそれと、ギルドでも不当な扱いを受けているらしいな」

「適正なクエストを受注できなかったり、換金を誤魔化ごまかされたりですね」

「それが隆之介の手引きだってことは、流石にわかってるんだろ?」

「はい。あそこまで露骨にされれば、誰にだってわかります。周りの冒険者もそれを知った上で見て見ぬふりです。……まあ、それも仕方ないことですけどね」

「ギルドには逆らえんわな。――それでも折れずに頑張ってるんだから、勇人はたいしたもんだよ、マジで」

「ひとまず、強くなるにはダンジョンに行くしかないですし、そのためには冒険者登録しないとダメですから……まあ何とかって感じです」


 どうやら冒険者以外はダンジョンへ入れないようだ。しかも16階層以降は立ち入り禁止らしい。オークが溢れて以来、議会から禁止令がでており、全てのダンジョンで規制、破れば即処断される徹底ぶりだった。


「オークが地上に出てきてからだいぶ経つし、流石に獣人領でも原因は把握してるよな」

「なのでレベルも上がりづらくって……」

「停滞してマンネリ化してるって感じか。――なあ勇人、ここだけの話だぞ。もしミノタウロスや、さらに格上の魔物がいるダンジョンへ行けるって言ったらどうする?」

「ええ!? ほんとですか? そんなところがあるなら是非行きたいです! だけど、一体どこにそんな場所が……」

「実はな……うちの村にあるんだ。あ、この話は村人しか知らないから、絶対秘密にしてくれよな」


 若干わざとらしい誘導になったが、勇人にはそんなこと関係ない。効果は抜群、今も目をギラギラさせていた。


「村の方たちはそこで狩りを?」

「ああ、毎日ガンガン狩ってるぞ。レベルも60超えてるのがザラにいる」

「あっそうだ、冬也くん! 冬也くんのレベルはいくつなんですか! 教えてくださいっ!」


 勇人と冬也はずいぶん仲良くなってたし、ライバルみたいな関係でもあったからな。相手の成長が気になるのも当然だ。


 私はそのあと、みんなのレベルのことや、狩っている魔物のこと、遺跡のダンジョンについても説明した。

 どうせ村人に誘うつもりで来たんだ。村の特性やら私のスキルについても、包み隠さず伝えた結果――――



「なんてことだ。そんな夢のような環境が目の前にあったなんて……」

「今まで伝えられなくて悪かった。そこは素直に謝るよ、ごめんな」

「いえ、それは当然のことだからいいんです。それより――今の僕、僕たちなら、村に受け入れてもらえますか?」

「今日はそのためにここへ来たんだ。さっき話した。それも含めて、勇人たち3人の力が欲しい」

「っ、僕は行きたい。立花や葉月も必ず説得して見せます、どうかよろしくお願いします」


 ひとまずこの件は上手くいったようだ。あとは女性陣が帰ってきてから改めて話すことになり、楽し気な雑談がしばらく続いていった。



 ユニークスキル所持者が村人になることで、私の能力が強化されることや、3人のスキルをコピーできること、冬也たちが派生職に転職していることなんかもしっかり説明した。


 勇者が仲間になることで、厄介ごとに巻き込まれる心配をしていたことも正直に話した。勇者ハーレムによる不和のこともだ。今はもう立花と葉月の2人だけだし、何も問題はないと思う。他に増やした形跡もないようだし……。


「あ、そのことなんですけど」

「ん? ハーレムのことか?」

「もうハーレムじゃありません! ふたりとは結婚しました。真剣に愛し合ってますので、そこのところよろしく」

「マジか。お前やっちまったな……」

「ちょ、そこはでしょう? やっちまったって……ひどいじゃないですかぁ」

「あ、いやすまん……つい本音が出ちゃった。うん、おめでとう勇人、心から祝福するよ」

「完全に嘘じゃないですか! まあいいですけど……。ところで、嘘ついでに聞いちゃいますけど」


 まだ何か言いたいことがあるようだ。


「僕たちがこうなることって、大体予想してました? 頃合いを見て村人になるよう誘導してたとか」

「ああ、ほぼ予想通りだったな。ダンジョン関連は別としてだが」

「やっぱりか……。全ては啓介さんの手のひらだったんですね。不思議と嫌な気はしませんけど」

「そりゃそうだ。だって自分たちで選んだ道だろ? 今回の決断だってそうだぞ、全部自己責任だ」

「そう言われると反論できません」

「だが、村人になるからには……そして全てを知ったからには、もう逃がさんぞ! 私と村のために貢献してもらうからな」

「それはもちろんです。あなたと出会えたことに、昔も今もずっと感謝していますから」


「よし――じゃあそろそろ、久しぶりの本題に入ろうか」

「本題、ですか?」

「まずは、街に来た勇者のモテっぷりについてだ。浮気も含めて詳しく頼むぞ!」

「またソレですか? ってか、浮気なんてしてませんっ。ふたりの前で変なこと言わないでくださいよ!」

「わかったわかった。それで?」

「はぁ……そうですね。まずは――」



 そのあとは冗談を交えつつ、男だけの会話を楽しみながら女性たちの帰宅を待つのであった。


 勇人の武勇伝については……ご想像におまかせするよ。私が言えるのはただひとつ。


「さすがは勇者、お前が主役だ」















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