第65話 南の勇者ーep.1


 その日の夜、布団に入ってこの世界のことを考える。


 今回のことで、南の獣人族領にも勇者たちの存在を確認した。北にいる人族の勇者だけだと思っていたところにこれだ。


 結局、勇者の使命とか目的はわからないままだし、私たちが巻き込まれ転移なのかも不明だ。とんでもない数の日本人がこの世界に連れてこられた理由も全くわからない。


 よくある展開だと、王やら神やら管理者に召喚されたり、追放されるってのがあるけど、少なくとも南にいた勇者は状況が全然違っていた。

 それこそ目的も知らされず放置状態だ。サバイバルものと言ったほうがまだしっくりくる。


(どこかに真相を知っている存在がいないもんかね……)


 仮に真相が判明したところで、私にどうこうできるはずもないが、気持ちの上だけでもスッキリさせておきたかった。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに就いていた。




◇◇◇


<大森林南の勇者たち>

 啓介と2回目の会合後



 啓介さんたちが自分の村へ帰っていった。


 姿が見えなくなってから2時間もしないうちに、結界と言っていたものが消えて森も元に戻っている。事前に聞いてはいたが、本当にすっかり元通りになったので驚いていた。


 今は日暮れ前、昼に食べきれなかったパンやおにぎりを主食に、みんなで夕食を囲んでいるところだった――。



「勇人さん、食べないんですか?」

「うん? 食べてるよ。ちょっと考え事をしてたんだ」

「あの人たちのことですか?」


 今日、鍛冶スキルを所持していることが判明した佳奈が、心配そうに声を掛けてくれた。


「とても良い人たちだったな、ってね」

「そうですね。でも私たちは勇人さんがいればそれで充分ですよ」

「うんうん!」「そうだよー!」

「ありがとう。僕も皆と出会えて良かったと思っているよ」


 杏子さんからハーレムという言葉が出たときは、正直後ろめたい気持ちになった。ほとんどの子とそういう関係にもなってるから、実際その通りなんだけど……。


 でも啓介さんは、それを蔑んだり否定したりしなかった。むしろ、良くやってると褒めてくれたんだ。

 普段、皆が頼ってくれるのもすごく嬉しいけど、彼のような大人の男性にああ言われると、今までの僕の行動が肯定されたようで――。都合のいい解釈とはわかっていても、とても心が落ち着いた。


「あー、勇人また考えごとしてるー」

「あ、ごめんごめん。ところでみんなは彼らのこと、どう思った?」


 皆を見回しながらそう問いかけた。


「良い人たちだと思うよ? 服とかご飯とかくれたしねー」

「うんうん、私たちのことをエロい目で見てなかったし。あと、おにぎりも美味しかったし!」

「だね、職業とかスキルも知れて助かったよねー」


 杏子さん、立花、葉月以外の6人は、理由はどうあれ好印象のようだった。たしかに、良い物をたくさん貰ったしね。


「立花や葉月はどう? 2人も楽しそうに話してたけど」

「んん-、あたしは大丈夫だと思うよ? 一応警戒はするけどね」

「立花は剣を貰ってご満悦だったよね。ひとまず信じてみようって感じかな?」

「そそっ、今日からはこの剣で勇人やみんなをしっかり守るよ!」


 立花は自分が剣聖だと知って、さらに自信をつけていた。僕にとっても頼れる相棒みたいな存在だ。


「私も自分の能力がハッキリわかった。これからいろいろ試して頑張る」

「葉月に手当してもらうと、傷が嘘のように良くなってたもんね。これからもよろしく頼むよ」

「任せて、勇人やみんなの為にも立派な聖女になる」


 葉月もやる気満々だ。啓介さん曰く、どんな傷や病気でも治せるらしい。僕らにとってかけがえのない存在、そう思い直していた。


「杏子さんも、ほとんどの交渉を任せてしまってごめんね。普段もそうだけど、今回は本当に助かったよ」

「ええ、勇人も上手に話してたと思うわよ。今回は色んな意味で本当に助かったわね」

「ええー、なんか含みのある言い方じゃん。なんかあんのー?」

「含みも何も、みんな殺されなくて良かったねって意味よ」


 いつも冷静で頼りになる杏子さん、こういう時もしっかり戒めてくれる。本当にありがたい存在だ。


「先に言っておくけど、私も啓介さんは信用に値する人物だと評価してるわ、でも……」


 杏子さんが言うには、僕たちが少しでも敵対行動を見せていたら、その場で全員殺されていただろう、とのことだった。


「でもさー、うちらだって戦えるよ? 勇人も立花も強いし、杏子さんの魔法もあるから大丈夫でしょ」

「甘すぎよ。ヘタしたら、啓介さんひとりに全員やられてたわ」

「それってあの結界みたいなヤツのこと? まあ守りには強いと思ったけどさ」

「単純にレベルの差よ。多分あの人たち、私たちの何倍も強いわ。結界の外に出てきたのも、絶対に負けない確信があったからだと思うわ」


 確かに僕もそれは思った。彼らからは、常に余裕と自信を感じていた。もちろん、嫌な印象は一切なかったけど。


「でもそれって想像でしょ? こっちには勇者がいるんだし、向こうもそれ目的で友好的にって暴露してたじゃん、ねー?」

「まあまあ落ち着いて。確かに僕も、彼らの強さは感じてたよ。それでも、僕らの可能性をみて友好的に接してくれたんだと思うよ」

「んー、勇人が言うならそうなのかな。私には良くわかんないけど」


 一部の子はまだしっかりと認識できていない。今の僕たちは、彼らの敵にすらなれないほど弱いのに――。


「杏子さんの言う通り、相手の力量や言動はしっかり吟味しなきゃね。いつどんなヤツが来るかわからないしさ」

「そっかー、……杏子ちゃんごめんね。私の考えが甘かったよ」

「いえ、私の言いかたも悪かったわ。あまりにも向こうとの差があって困惑していたのよ、ごめんなさいね」


 多少の食い違いがあっても、必ず最後はお互いを尊重してきちんと謝れている。みんな心の中では思うところがあるだろうけど、表面上は上手くやってくれてるんだと思う。


「話は変わるけど、勇人は街へ移り住むつもりはあるの?」


 誰かしらが空気を読むように、話題が街への移住のことになった。


「僕はどうかな、街に行けば生活は豊かになるだろうけど、正直まだ決めかねてる。懸念事項もあるしね」


 街にいる日本人のこと、人族との戦争のこと、なにより自分が勇者という存在だということ。


 啓介さん曰く、街では日本人の職業とスキルを管理しているらしい。教会で能力を鑑定されれば一発でバレてしまうし、そうなれば必ず議会からの接触や勧誘があると言っていた。

 優遇はされるだろうが、身動きは取りづらくなるし、戦争にも絡むだろうと教えてくれた。


「勇人、街にはダンジョンがあるらしいぞ。レベルを上げて強くなるには好都合なんじゃないか?」

「立花の言うこともわかるよ。僕らも早く力をつけないと、いざという時の対応に困るからね」

「川の東にいたオークと戦ってもいいと思う。立派な武器や防具もあるし、これなら十分いけるはず。怪我は私が必ず治すよ」

「そうだね、僕も今ならやれそうな気がする。啓介さんからも、東の森のことや魔物の情報をもらったしね」

「じゃあ、暫くは北の村と交流しながらレベル上げか? 私はそれでも全然構わないぞ」

「私は勇人について行くだけだし、皆に任せるよー」

「私もかな」「私も勇人に任せる」

「「「わたしらもー」」」


 無計画のまま街へ行くのは自滅行為だ。せめて自分たちを守れるだけの力が欲しい。


「わかったよみんな、暫くの期間はここで鍛える。街への進出も視野に入れながら頑張ろう!」

「「「おおー!」」」

「杏子さんもそれで構わないかな?」

「ええ、今すぐ街へ行くのはリスクの方が多いわ。私も賛成よ」

「うん、ありがとう」



 こうして僕たちは決意を新たに動き出す。


 いまはまだ軟弱だけど、一日でも早く強くなってみせる。そして啓介さんのように、みんなを引っ張れる存在になるんだ。


 そう心に誓った――。



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