第57話 さまざまな種族


異世界生活152日目


 交易路は全線開通、移民の受け入れ態勢も万全となった。そんな本日、いよいよメリナードたちが戻ってくる。


 昨日は全ての作業を休みにして、開通を祝う宴が開かれた。朝から晩までドンチャン騒ぎだ。

 これといった娯楽があるわけでもないが、うまい酒を飲み交わしたり、おいしい料理を食べたりした。日々の成果や、お互いの世界について話すだけでも、十分に満足な一日だった。


 新たな住民を増やす案には皆も肯定的で、村全体が歓迎ムードとなっている。そんななか、今日という日を迎えていた。

 今回は受入れ予定の人数も多い。不測の事態への対応策として、村の住民には目に見える範囲で各々の作業をしてもらっている。冬也たちダンジョン班も、今日は戦闘要員として村の中で活動していた。



 朝食後、2時間もしないうちに斥候から連絡が入る。メリナード一行が村の近くまで来ているそうで、4台の馬車を連ねて向かっている、と教えてくれた。


「随分と早いな。夜明けの開門と同時に出発したのかな?」

「受入れにかかる時間も配慮して、早めに来てくれたのでしょうね」

「だね。――じゃあみんな、手筈どおりに頼むよ」


「「「はい!」」」


 斥候の報告から20分、4台の馬車が見えはじめる。その先頭にはメリナードの姿も――。この世界の馬は普通だったけど、なんとなくファンタジーっぽい雰囲気を感じる。


「やぁメリナード、今回も無事に会えて嬉しいよ」

「はい村長、私も同じ気持ちでおります」

「どうかな、道中も随分と快適になっただろ?」

「ええ、ウルガンから事前に聞いてはおりましたが……、開拓速度もさることながら、路面の状態がとても良くて驚きましたよ」


 若干ドヤ顔の私の言葉に、メリナードも笑顔でそう答えてくれた。


「それで、そちらの方々がご家族かな? 是非紹介してくれ」


 メリナードの隣には、おっとりとした素敵な女性がいて、その後ろには、20代の女性と10歳くらいの男の子もいる。

 家族も羊人族だと聞いていたので驚きはないが、その外見的特徴は角と尻尾くらいだろうか。見た目は人族と変わりない。


「村長さん、お初にお目にかかります。メリナードの妻のメリッサと申します。私共も村人となれるよう努力致しますのでよろしくお願いします」


 メリッサに続いて、メリマスの奥さんと子供も丁寧に挨拶をしてくれた。二人の名前はメリーゼとメリナンドと言うそうだ。

 羊人だからメリーと名前についているのか、異世界翻訳がわかりやすく仕事をしているのか。それは不明だが、これ以上似た名前が増えると混乱しそうだった。いや、もう既にしている……。


 家族や従業員の紹介を終えたところで、馬車から奴隷たちが降りてくる。全員の顔を確認したところで、連れてきた奴隷も含めて居住の許可を出した。


 私の隣には春香が控えており、この後は全部お任せするつもりだ。商会からも、村のことや忠誠度のことは事前に話してもらっている。奴隷に関しても、村人になる意思の確認も済んでいるので問題ないはずだ。


「じゃあ、商会の人は中にどうぞ。ほかの人は少し待ってもらうことになるけど、構わないかな?」

「もちろんです。春香さん、うちの従業員たちはいかがでしょうか」

「全員大丈夫だよー、皆さん結構高めの数値なんで、安心していいよ」

「そうですか、私も一安心です」


 春香がそう言いながら、みんなのステータスをこっそりと教えてくれた。が、とくに問題のある人はいないようだった。


 その場にメリナードと護衛の二人を残し、奴隷以外の人には村へ入ってもらう。村の案内や荷物の整理なんかは、諸々を含めて椿にやってもらう手筈だ。


「じゃあまずは、ベリトアの知り合いって方からどうぞこちらへ」


 ベリトアを隣に呼んでから鍛冶師の人とあいさつを交わした。ちなみにこの人は奴隷ではなく一般民だ。


「おじさん、お久しぶりー!」

「よぉベリトア! ホント久しぶりだな」

「わたしひとりだと、やれることにも限界があったからね。おじさんが来てくれて嬉しいよー」

「なんだよ、移住するならオレにもひと声掛けてくれよな。つれないじゃないか」

「う、ごめんね。忘れてたわけじゃないんだよぉ」


 ベリトアがおじさんと呼んでいる熊人族の男。お互い気心も知れた感じなので、そこそこ長い付き合いなのは間違いなさそうだった。


 この熊人はベアーズと言う名前で、まさに熊のようにゴツい体つきをしている。歳は40で、これまでずっと独身を貫いている。独り身のほうが気楽で良いと、気づけばこの歳になっていたらしい。なんだかとても共感できる人物だった。


「ベアーズも日本商会の影響で廃業した口なのかな?」


 私が不躾にそう聞いてみると、


「まぁそれに近いんだけどな、なんとか食い繋いではいけてたよ。移住を決めた一番の理由はこの村の芋だな」


 ベアーズ、お前もか。ベリトアも随分ご執心だったが、種族的なものでもあるんだろうか? ……謎だ。


「そうか、村の住人になれば芋は食べ放題だ。しっかり働いてたっぷり食べてくれ」

「それはありがたい! 村長、ベリトア、よろしく頼む!」 

 

 忠誠度も問題ないので、あとはベリトアに案内を頼んで別れた。引き続いて、20人の奴隷を受け入れる準備に取り掛かる。


 村の結界ギリギリのところに並ばせたあと、村での生活や忠誠度のことを話していく。すぐ隣では春香が鑑定をしているところだ。

 今回は人数も多いので、鑑定結果をメモしてから、ひとまず結界外の長屋で休息をとらせることに。受入れは午後からだと伝えて、ウルガンとウルークの二人に護衛を頼んだ。


「それじゃあ、私たちも一旦戻ろう。春香、桜たちを自宅に呼んできてくれるかな」

「任されたよー」


 それから10分もしないうちに、村の主要メンバーが集まってきた。全員が揃ったところで早速打ち合わせを始める。


「さてみんな、今回訪れた奴隷のステータスを把握しといて欲しい。あと、作業の割り振りなんかも大まかに決めておきたいな」


 そう伝えてから、春香の鑑定メモを読み上げていく。今回の奴隷は20人、犬人や猫人、狼人や狐人と様々だ。年齢は下が15歳から上は30歳と比較的若い者が多かった。


「色んな種族がいるんだな。そういえば、種族間の相性とか対立みたいなものはないのか?」


 ちょっと気になったので、ラドやメリナードに聞いてみる。


「対立はありませんね。もちろん、同種族のほうが仲間意識は高いです」

「前にも言ったが、我ら兎人は聴覚のせいで少し煙たがられる。だが、対立というほどではないな」

「なるほど。次は鑑定結果だけど、とくに目立った者はいないみたいだ」


 残念ながら、そう上手くスキル保持者がいるわけもなかった。けどこれについては、教会で授かる恩恵に期待しよう。


「忠誠度が50を超え、すぐ村人になれるのが10人か。残りの10人も40の後半が多いし、これなら十分期待して良さそうだ」

「こういう時って、大体1人か2人は怪しいヤツが紛れ込んでいる。ってのが相場だけど……そんな感じも無さそうだねー」


 夏希の発言に、春香や冬也が「あるあるだね」と頷いていた。


「議会側にも、忠誠度のことを話しているからね。流石にすぐバレるようなことはしないだろ」

「でも偽装のスキル持ちとかいるかもだよ?」

「だとしても、忠誠度の偽装は難しいんじゃないかな。仮に数値上の偽装はできても、村人判定まで誤魔化せるとは思えないな」

「あーなるほど。それができちゃったら、もはやステータスの改変だもんね。納得した」

「他にも気になることは遠慮なく言ってくれ。めちゃくちゃ助かるよ」


(こうやって、色々考えてくれるのは本当にありがたい。自分の考えだけではどこに穴があるかわからんからな)


「話を戻すけど、まずは村に入れる10人を受け入れる。残りの受入れが済むまでは農作業を中心に経験させようと思う」

「残った人たちに村の生活を見せて、安心させようってことですね」

「ああそれと、隷属の首輪も先に外そうと思う」

「村人になる前に逃げちゃったら?」

「逃げ出しても構わないよ。そんなヤツ、どのみち忠誠は上がらん」

「なるほど、わかりました」

「次に、作業割り当てについてだが――」


 今回は採掘作業に人数を割きたい。まずは何人かやってくれる人を確保して、残りは農作業をメインに割り振りたいと説明した。みんなからの賛同を得たのち、ほかに何かないかと尋ねたところ――、椿からひとつ提案があるようだった。


「村人の人数もかなり増えてきました。専属の調理担当者を数名確保しましょう」

「村の料理人、か」


 60人を超える大所帯だ。その調理は仕込みも含めて時間がかかる。従事する作業によっては食べる時間がズレることもあり、村に食堂を作っては? という内容だった。


「食堂があれば自然と人も集まりますし、交流の場としても使えます」

「いいねそれー、楽しそう!」

「夜は酒場に、とかもできそうね」

「それはいいね。集会所を改装するか」


 私自身、お酒はあまり好んで飲まないが、そういうのが好きな奴もいるだろう。娯楽にもなるし良い案だと思った。


「よし、当面は今まで通り広場での調理になるけど、食堂建設と調理担当の件も含めて、椿とルドルグで進めてくれ」


 毎日食事を作ってくれてた椿からの提案だし、実際かなり忙しかったのだろう。


 それに、北の山脈での採掘作業や東のダンジョン攻略なんかは、どうしても一日中村を離れる。『物資転送』で食事を送るのでもいいが……朝、食堂でお弁当をもらって出かける、なんてのも素敵だなと思った。





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