Chapter12


 なんか距離近くなーい?

 気のせい?

 そう……?

 わかった。

 そういうコトにしておくの。


 警察官として、女子高生と付き合うなんてあり得ないし。

 というか、奥さんいるじゃない。

 ツーアウト。


「ウチらはこれからクラスに戻るんですけど、一緒に来ますか?」


 吹奏楽部のコンサートが終わって、わたしとミクちゃんが店番に戻らないといけない時間になった。

 なんとかギリギリセーフって感じ。

 ニコちゃんに「よかったよー」だけでも感想を伝えたかったケド、それは後にしておこう。


「行きます! 秋月さんから『めちゃくちゃ怖い』と聞いていますので、どんなもんか楽しみです」


 お化け屋敷でたーちゃんをビビらせまくればミクちゃんも幻滅するはず。

 高校生が作ったとは思えない(実際雅人くんは復活してきたコトを考えれば高校生ではないし)お化け屋敷だし。

 プロジェクションマッピングとか人感センサーとか。

 文化祭のレベルじゃないし。


「そんな余裕そうな発言しちゃっていいの?」


 後悔するぞ。

 マジで。


「にしても、すでに一回は死んでいる人たちがお化け屋敷をやるなんてシャレが効いていていいよね」


 あら?

 創じゃない。

 ぬるっと会話に入ってくるなぁ。

 ミクちゃんが「パソコン部はどうしたの? 休憩?」と訊ねると、創は左手に持っている本を見せびらかすように掲げた。


 わたしの家にあったはずのアカシックレコードだ。

 持ち出してきたの?

 貸した覚えはないケド?


「ぼくは親切心から教えてあげるんだけど、おまわりさんは両手に花でいちゃついている場合じゃないね?」


 たーちゃん、言われてますケド。

 やっぱそうよね。

 傍目から見たら女子高生に挟まれたおにーさんだもん。


 ミクちゃんがなんか察して少しだけ離れてくれた。

 初対面でそんなに距離詰めたくなるほどか?

 わたしが付き合い長くて慣れちゃっているダケで、たーちゃんもそれなりにカッコイイ分類なの?

 どうなの?


「ぼくには学生生活の思い出がないもんで、ちなっちゃんの記憶からこの神佑大学附属高校を生成したんだけど、見ているのとやってみるのとでは大違いだね」


 急に何の話?

 生成?

 創はアカシックレコードを開いて「年頃の人間を一箇所に集めてお勉強させるって効率しか考えられてなくて不健康で不健全だよね」とブツブツ言いつつポケットからボールペンを取り出す。


「とってもつまらなかった」


 アカシックレコードに創がペンを走らせる。

 と同時に校舎が揺れ始めた。

 超デカいタイプの地震だ!


「うわっ! とっとっと!?」


 バランスを崩して倒れそうになったところを、たーちゃんがパッと手を伸ばして支えてくれた。

 危ない危ない。

 ミクちゃんは思いっきりずっこけてた。


「きゃー!」

「うわあああああああああああああ!」


 廊下の奥の方から叫び声が聞こえてきた。

 見れば、崩壊――というか、端っこから消滅していってる!?

 床も壁も天井も置いてあるロッカーも教室も全部!


 ちょっと待った!

 これめちゃくちゃやばいんじゃない!?


「ちょまあああああ!?」

「わあああ!?」


 わたしとたーちゃんとで叫びながら校庭まで走って逃げる!

 多目的ルームが1階でよかった!

 もし教室のある3階まで上がってたら大変な目に遭ってた……。


 目の前で消滅していく校舎。

 唐突に全力ダッシュを強いられて息切れするわたしたち。


 一体何なの?

 ただの地震でこんなことにはならないじゃない?


 ……あれ、ミクちゃんは?


「秋月さん!?」


 同じように校庭まで逃げてきたっぽい?

 知らないおじさんに名前を呼ばれた。


「……えー……どちら様で?」


 頭が回らない……。

 名前を知っているってコトは知っている人なんだろう。

 でもこんな記憶に残らないほどに特徴のないおじさん知り合いにいたっけ?

 声をひそめてたーちゃんが「お知り合いですか?」と聞いてくる。


「いや、全く……声かけ事案カモ?」

「俺の知らない“組織”の人でもなく?」

「おじさんの隣にいるイケメンは見覚えあるの」


 本部の篠原幸雄パイセンだ。

 知ってるだけで会話したコトないけど……。

 作倉さんから「あんまり近づかないほうがいいですよ」って言われてたし。


 というか、篠原パイセンも文化祭見にきてたの?

 知り合いでもいたの?


「何をしにきたのかね?」


 左手にアカシックレコード。

 右手にボールペン。

 今しがた消滅した神佑大学附属高校の制服を着ている宮城創が、わたしの聞きたかったコトを代わりに聞いてくれた。


「なんでお前がその本を?」


 篠原パイセンが質問を質問で返していく。

 創は指揮者みたいにボールペンを振りながら「元々この本はクリスがぼくに与えたものだからね?」と答えた。


 そうだったの?

 じゃあなんでわたしの家にあったの……?

 この前は紆余曲折で片付けられちゃったケド。


「どうせこの学校のみんなは2009年8月25日以前に死んじゃってるんだよね。こうして消えちゃったとしてもそれは元の位置に戻ったってだけだね?」

「創がやったの?」


 能力者っぽいなーと第一印象では思ってたケド。

 学校生活でそれっぽいコトしてなかったし。

 むしろ普通の高校生として普通にやってたっていうか。

 こんな学校消しちゃうようなバカ強い能力者だったってコト?


「ちなっちゃんには教えたよね?」


 教えてもらってないケド?

 え?

 能力?

 創はアカシックレコードの表紙を叩きながら「この世界はこの偽“アカシックレコード”の世界だから、この本に書き込んだことが起こるんだよね」と説明してくる。


 そんな映画みたいな……。

 っていうかここ、フィクションの世界なんだった。

 フィクションだからなんでもありってコトなの?


「ちなっちゃんは今日ここまでのことを全部忘れて、明日からまた“組織”で頑張ってね!」







【荒唐無稽で支離滅裂】

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