小さな世界の終止符
Chapter6
氷見野雅人と風車宗治が、2年A組の教室にいる。
初日はテンパってしまったケド、結構慣れてきた。
「まさひとぉ! ババ抜きしようぜ!」
『昼飯は』
というのも、思ってたんと違う。
風車宗治といえば全国民に愛される史上最高支持率の首相だったの。
それがこんな……アホの子でびっくりなの。
「もう食った!」
『2人でババ抜きはしない』
こんな調子で、なんだかんだと氷見野さんに絡んでいっては塩対応されている。
雅人くんがお弁当を広げようとしているところにトランプ。
やめてさしあげろ。
「そうか! 3人以上ならいいんだな! ニコちゃんもババ抜きやる?」
『違う』
「私は……遠慮しておきます」
首相は最期風呂場で足を滑らせて頭ぶつけて亡くなってるし。
この落ち着きのない感じを見てるとなんかこの死因も納得いくっていうか。
「氷見野くんが昼ごはんを食べ終わるまで神経衰弱でもやってたら?」
「それだ! いいんちょナイスアイディア!」
さて、気を取り直して。
今回は皆々様に学生生活で1番楽しいランチタイムの風景をお届け。
ミクちゃんニコちゃんが本日もわたしの席まで来てくれました。
「ニコちゃんは今日も焼肉弁当?」
「もちろんです」
肉食系お嬢様のニコちゃん。
お弁当箱は運動部の男子みたいな特大サイズ。
その中身は白米ぎっちりと、その上に敷き詰められたカルビ。
人は見た目によらないもんだなぁ。
おしとやかでおとなしそうなニコちゃんだから、サンドイッチとかクロワッサンとか食べてそうなのに。
この前、サンドイッチとかクロワッサンとか……って言ったら「そんなもの食べても食べた気にならないでしょう?」と言い返されてしまった。
「ちなっちゃんは?」
「チャーハン詰め込み弁当」
創がお弁当を作ってくれるって言ったはいいものの。
最初の3日間ぐらいで早起きしてお弁当を作るのが意外と大変ってコトに気付いちゃったのか、冷凍食品を温めてお弁当箱に詰め替えるだけになってしまった。
これならわたしでもできるんですケド?
「今日も宮城くんとお揃いですか?」
「たぶんそう」
もしかしたらチャーハンじゃなくてピラフかもしれない。
2つ温めてたし。
チャーハンと見せかけてピラフとの2層仕立てだったらどうしよう。
表面はチャーハンだなぁ。
スプーンで掘り返してみる。
「高校生の男女での2人暮らし、不純異性交遊」
制服の胸元バァーンな状態で不純異性交遊がどうのこうのって言われてもなぁ。
ミクちゃんが「これは確かにいいんちょですわ」って納得できるようなリーダー気質を発揮している場面、ここまでに何度か見てきてるケド。
そんなミクちゃんの今日のランチは焼きそばパンときたか。
炭水化物と炭水化物の黄金の組み合わせ。
いっつもパン食べてるなこの子。
焼きそばパン1個で足りるの?
「創はベランダにテント張ってるの」
「「テント!?」」
案の定、2人暮らしは大家さんから許されなかったワケ。
創は「家の中にいなければいいんだよね?」と屁理屈をこねた。
そういう話じゃない気がするケド、今のところは何も言われてないし。
黙認されてるし?
「冬は寒くない……?」
「最近はキャンプ用品も種類豊富ですよ? ちなっちゃんもミクちゃんも、もしよければキャンプ行きません?」
ニコちゃん、アウトドア派だなぁ。
でもキャンプいいなぁ。
満天の星空の下で寝て、朝は小鳥のさえずりで起きる。
「行く行く! めっちゃ行きたい!」
「ウチはいいかな……虫多そう……」
あー……虫はわたしも嫌だなぁ……。
めっちゃ乗り気で返事しちゃったケド。
ちなみに創は昼休みが始まった瞬間に「図書室行ってくるね!」と宣言して教室を出て行った。
あの子はインドア派なの?
本好きそうにはとてもじゃないケド見えないの。
「虫なんかより犬のほうが恐ろしいです」
犬?
犬ってあのわんこのコト?
「ニコちゃんは犬嫌い?」
「私、犬に噛まれたことがありまして」
あらら。
それは苦手になってしまう理由トップ3に入りますわ。
あとは吠えられたとか追いかけ回されたとか。
「犬っていうかあれは狼だけどね」
いつの間にか創が教室に戻ってきていて、イスを寄せて会話に混ざってきた。
図書室行ったんじゃないんか。
戻ってくるの早くない?
ニコちゃんが不思議そうに「狼ですか?」と反応している。
「あれは、ってまるでニコちゃんが襲われたのを見ていたみたいに言うのね」
ミクちゃんが茶化すと、創は「この学校にいて、犬っぽい生き物に襲われたって女の子は他にもいるしね」と答えになっているようでなっていない答えを返す。
この学校、ねぇ?
そういや、なんで23歳になったばかりのわたしが女子高生をやらされているのかの説明がまだないの。
風車宗治がいて、氷見野雅人もいる。
お2人のご学友になれたのはとっても嬉しいんだケド。
現実を知ってしまって幻滅しちゃったなぁ。
でも実際の偉人もそういうもんなのかも?
わたしたちは後世に残された記録でしかその人物像を知り得ないし。
そういうのって脚色されているものだし。
こうあってほしいっていう願望含まれてるもんじゃない?
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