Chapter2
「今日からここで一緒に暮らすから、よろしくね」
「どういうコト?」
「ルームメイトっていう感じだね」
ここ、一人暮らし向け物件じゃない?
2人で生活していくためには大家さんの許可が必要だったハズ。
というか1Kだし。
テーブルとベッドと置いてもう部屋いっぱいだし。
わたしはいつ脱ぎ捨てたのかも思い出せない服を回収しながら「カレピッピでもない男の子と一つ屋根の下は不健全すぎるの」と思ったままのコトを伝える。
「女の子ならいいのかね?」
マジで昨日何があったの。
男の子は普段わたしが座っている座椅子に我が物顔で座ってニヤニヤと笑っている。
他に座るスペースがないとはいえ。
「すぐそこにいる警察呼ぼうか?」
たーちゃん呼んで追い出してもらおう。
ご両親にお迎えに来ていただくしかないの。
「ちなっちゃん、前回何があったかを覚えてない?」
「前回?」
前回って何?
前日じゃなくて?
前回?
回?
「前回、ちなっちゃんは“アカシックレコード”を手に入れた。14回目の今回は、……ほんとに何も覚えてなさそうだね」
ごちゃごちゃ言ってるケド、身に覚えがなさすぎる。
何さ14回目って。
今日は26日だし。
そんながっかりした顔されても困るし。
「14回目の確定事項としては、ちなっちゃんは9月1日から神佑大学附属高校の2年生になるってことだね」
「講師じゃないの? 高校生なの?」
「前回のちなっちゃんが望んだことだから、文句は前回のちなっちゃんに言ってよね」
次から次へと爆弾を投下してこないでほしい。
前回前回ってなんやねん。
前日だとしてもワケがわからないの。
なんで神佑大学法学部卒業のわたしが附属高校の高校生にならないといけないの?
「というか、お前は何者なの? 名を名乗れ名を」
順番にお悩みを解決していこう。
まずはこのべらべらおしゃべりしている男の子が何なのか。
たぶん“組織”の子なんだろうケド……佇まいが能力者っぽいし。
クソ重い“能力者発見装置”が手元になくてもなんとなくわかる。
「そこからかね?」
「そうだよ」
ため息をついてから、めんどくさそうに立ち上がると彼は「その様子だとリセットされてそうだから、改めて……初めまして。ぼくは宮城創」と名乗った。
初めましてのわりに勝手に人の家に入ってきたのは何。
この自宅の状況を見てドン引きしてたってコトはうちに来たのは初めてなの?
自慢じゃないケド、これはここ1週間で作り上げられた惨状じゃないし。
「神佑大学附属高校2年A組の生徒で、ちなっちゃんのお友達だね」
「ストップ。高校生ってコトはいま夏休みなの? 年上の女性の家に上がり込むのはどうかと思うの」
創はふくれっつらで「ぼくもこんなゴミ屋敷になっているなんて知らなかったね!」と言い返してくる。
ゴミ屋敷言うな。
事実だけど傷つくの。
これからやる気のあるときに片付けるの。
やる気があるときに。
「どう考えても普通には暮らしていけないからちょっとずつ片付けるね……体調崩しそうだしね……」
「マジ!?」
飛びついちゃった。
いやいやいやいや。
落ち着け秋月千夏。
相手は男子高校生。
わたしは今日23歳になったばかり。
犯罪感がある……ない?
未成年に手を出すのはまずくない?
いや逆に、逆に考えろ。
襲われてもおかしくなくない?
背筋がゾッとする。
男はオオカミだとかなんとか。
無理無理無理無理カタツムリ。
わたしは玄関を指差して「やっぱ無理! 出て行って!」と叫んだ。
「ここを追い出されると泊めてもらえるところがなくて困るね?」
「他のお友達を頼って」
わたしがそっけなく返すと、創はいけしゃあしゃあと「こうなったのもちなっちゃんのせいなのに、責任を取らないのはどうなのかね?」なんて言ってくる。
わたしが何をしたっていうの。
ねえ。
前回とやらのわたしが何をしでかせば今日ここまでの出来事が起こせるの?
わたしは能力者保護法に基づき設立された“組織”に所属していて。
その“本部”に勤めていて。
今日は誕生日だからお休みをもらって、三連休だから好き勝手しようと計画してたの。
それなのに。
現実は初対面の男の子が「これから一緒に暮らそう」って言ってくるし。
9月からは高校生になるらしいし?
それは前回? のわたしが? 決めたコトで?
なーんも覚えてない!
ほんとにほんとにほんと。
「……なんもわかってなくて哀れだから“3分でわかる! 13回目のダイジェスト!”を聞かせてあげようかね」
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