第10話:不協和音(Side:ボーラン②)

俺たちは、ギルドに出直してきた。しかたがないので、新メンバーなしでクエストに行く。もちろん、Aランククエストだ。


(さっさと、Sランクになりてえな。おっ、サイシャがいるぞ)


受付には俺が密かに狙っている、サイシャがいた。何度も飯に誘っているが、ずっと断ってやがる。周りのザコ冒険者どもが、俺たちを見るとコソコソ話し始めた。


「おい、ボーランだ。ギドルシュさんを殴ったんだってよ」


「どんだけ乱暴なんだ。早く他のギルドに行ってくれないかな」


「いくら強くても、あれじゃあな」


先日のギドルシュとの騒動を、まだこいつらは話している。俺はそいつらを、ギロッと睨んだ。


「てめえら、いい加減に……」


「リーダー、騒ぎはごめんだよ」


「私たちまで、巻き込まれるんだから」


「ボーランさん、やめてくださいね」


「チッ、わかってるって」


すんでのところで、パーティーメンバーに制された。俺たちは、そのまま受付に行く。


「よお、サイシャ。Aランククエストに行きてえんだけどよ、なんか良いのねえか?」


「……」


明るく話しかけてやったのに、サイシャは無言でクエストの一覧表を出すだけだ。俺のことを見ようともしない。


「おい、てめえ。良い態度じゃねえか。こっち向けや。サービス悪いんだよ」


俺はカウンターに乗り出した。そのすまし顔を、泣き顔にしてやるつもりだ。


「受付嬢は、クエストを紹介するのが仕事です。あなたの凶暴な顔を見るのが、仕事ではありません」


凶暴な顔と聞いて、周りの冒険者どもが静かに笑い始めた。


「おい、聞いたか? 凶暴な顔だってよ」


「そんな顔のヤツ、ボーランしかいねえって」


「あいつ、性格だけじゃなく、顔も凶暴だよな。勘弁してくれよ」


俺は怒りが湧き上がり、怒鳴ろうとする。


「このっ……!」


「ボーランさん。私たちはクエストに行く前から、疲れたくないですからね」


「すぐに怒りすぎだよ、リーダーは」


「もっと冷静になってくれ」


今度もまた、メンバーどもに制された。俺はイライラを、必死に抑えつける。


(落ち着け、こんなザコどもの相手をする必要はないんだ)


「……わかってるよ、クソ!」


俺はサイシャが出した一覧表を確認する。どれもこれもパッとしないが、ちょうどいいクエストがあった。


「おい、お前ら。ちょうどいいのがあったぞ。Aランクモンスター、ミラージュトロールの討伐だ。」


このモンスターはトロールのくせに、迷彩魔法を使う。姿を消して、一瞬の隙をついて獲物をしとめるというわけだ。しかし、所詮はトロールだ。注意深く見れば、どこにいるのかすぐわかる。俺たちは何度も討伐したことがあるので、対処法も熟知していた。


ガツッ!


振り返ったとき、腕がルイジワにぶつかった。


「おっと、すまんな」


「汗がついた。汚い」


ビキビキビキ!


俺は頭に血が昇る。ギドルシュの一件もあったりで、ここ最近ストレスが溜まりっぱなしだった。


ボカッ!


ルイジワをぶん殴る。


「うわっ! 何をする!」


「お前はいつも、一言余計なんだよ!!」


(ああ、ちくしょう! 今まではこんなに、イラつくことはなかったのによ!)


「ボ、ボーラン! よくも、殴ったな! 許さない!」


しかし、ルイジワは俺に掴みかかってきやがった。俺の首を、グググッと絞めてくる。


「て、てめえ! 俺に逆らうのか!?」


「いつも偉そうなくせに!」


「なんだと!」


ドカッ! バシッ!


俺は我を忘れて、ルイジワと殴り合う。


「リーダー、いい加減にしな。なんでそんなすぐに、キレんだよ」


タキンが仲裁に入ってきた。しかし、こいつこそ一番のキレ症だ。


「はあ? お前こそちょっとしたことで、いつもキレてんだろうが! 自分のことを、棚に上げてんじゃねえ!」


俺はタキンを張り倒した。


バキィ!


「いた! リーダー、何すんのよ!」


「はぁ……全く、みっともないですわ」


タシカビヤが、バカにしたように言ってきた。わざと聞こえるような、ため息をしている。


「この野郎!」


こいつらは冒険者としては、申し分ない強さを持っていた。しかし、どいつもこいつも性格に問題がある。良く今までやって来れたものだ。


「リーダーの言うことを、ちゃんと聞けってんだ!」


「「「ギャハハハハハハハハハハハ!」」」


突然、冒険者たちの笑い声が聞こえた。


「あいつら喧嘩してるぜ、みっともねえなぁ」


「あんなに仲の悪いパーティー、見たことねえよ」


「おーい、ここは闘技場じゃないぞぉ」


サイシャも必死に、笑いを堪えている。あろうことか、先日のチビ野郎まで笑っていた。


「ぐっ……」


「よお、ボーラン」


ギドルシュの老害野郎まで出てきやがった。


「今日もずいぶんと、仲が良いみたいだな」


冒険者どもが、クスクス笑っている。


「何か文句あんのかよ! パーティーに口出ししないのが、ギルドのルールだろ!」


「別に文句などないさ。一つ忠告しておこうと思ってな」


「ああ!?」


「そんなんじゃ、モンスターに足元をすくわれるぞ」


「余計なお世話だよ!!」


俺はズカズカと受付に行く。


「おい、サイシャ! このクエストを受けるぞ! さっさと、手続きしろ!」


「クスッ……頑張ってくださいね」


サイシャはまだ、笑いを押し殺している。


「このやろ……」


「リーダー、やめてね」


「私たちまで、バカにされるのは嫌」


「ボーランさん、いい加減にしてください」


俺は怒りで叫びそうだったが、何とか堪えた。


(……まぁ、いい。ここは見逃してやろう)


まだクエストを決めただけなのに、どっと疲れた。


(クソッ、もう準備なんてしてられるかよ!)


わざわざ回復薬を揃えたり、解毒薬を準備したりだとかは、面倒くさくてやってられない。


「おい、お前ら! このままクエストに行くからな!」

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