第6話 よみがえる魔物

 逃げようと思えば逃げられたはずだ。でも私は逃げなかった。逃げるどころか弄ばれることを望んでいた。週末3日間の逢瀬を下着を湿らせて待ち焦がれた。始まるまえから滴るほどに濡らしている私への異様な欲情。全身を舐めまわすような複数の視線。男たちからくりかえし貫かれると、なまぬるく明るい沼に沈んでいくようだった。


「行為」は一晩中におよんだ。男くさい汗と体液のムッとする匂いが部屋に充ちてもホテルだから気に留める必要がなかった。男たちから養分を得られるからか私の体は火照って色めき、男たちをもっと吸い取ろうとするかのようだった。彼らがぜんぶを出し尽くすまで執拗に要求するのだ。


 いつからかピルを服用するようになっていた。まだ私の健全な理性が留まるうちに、避妊しなければならないと感じたからだ。男たちのそれを見ると私は私でなくなってしまうのだ。抑えられなかった。汚らしい女と思われてもいい。ありえないほどに濡れてしまうのだ。滅茶苦茶にされながら死んでもいいと感じるくらいに。


 行為がはじまると、彼と男たちの見分けがつかなくなった。彼を好きなのに、私であるはずの女は体をくねらせて乳首を尖らせ、色っぽくため息をもらしては男たちをしごいては頬張った。手とくちで、太い幹のなかで熱く脈打つ鼓動を感じるのが喜びだった。雲のうえに寝転んでいるような心地だった。


 左手と右手、それぞれに握った男をしごきながら、赤銅色の先端を舌で愛撫して、彼と思しき男に股をひらかれ貫かれるのが好きだった。腰のうごきが弱くなる男に「ホイミー」を使っていた。男が呻くとつぎの男を要求していた。「ホイミー」を連呼して強制的に男をふるい起たせていたのだ。


 それらの行為を眺めるイメージがあった。堅牢な檻だった。たぶん始まってしまうと私はそこに閉じ込められるのだろう。あの女は私の抜け殻なのだろう。あの抜け殻は怪物だ。人の皮をかぶる魔物だ。「ホイミー」は癒しではない。怪物や魔物を作り出す呪いなのだ。欲望を食いものにする魔物なのだ。

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