第三十話【息子の友人】
「ただいま」
アムレットの杖の素材集めを終えた俺は、アムレットをサーミリアに頼み、一足先に家へと戻った。
サーミリアが同行を強要したせいで予定よりも移動に時間がかかったり、シャーレオの集落へ寄るなど、ルーナに予め伝えていた時刻を大幅に超えてしまいそうだったからだ。
シャーレオの集落から家までそれなりの距離があったが、一人でかつ速度重視の飛行をしたため、なんとか予定の時刻を少し超えたくらいで家にだとりつくことができた。
ルーナには今日は別の方法で家に帰るから、絶対に迎えはいらないと言っておいたのだが、大丈夫だろうか?
そんなことを考えていたら、俺の声が聞こえたのか、それとも元々そこで待っていたのか、すぐにルーナが扉を開けたばかりの俺の元へと駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ。少しお時間が過ぎていたようで、心配しておりました」
「ごめん。ちょっと、予想外のことが立て続けに起きてしまってね。まぁ、こうして無事な姿を見せたんだから、許してよ」
「許すも何も。私はただ、坊ちゃまの身を案じていただけでございますので」
帰宅したことを両親にも報告するように勧められ、俺は言われた通り、ルーナと共に両親がいる部屋へと向かう。
その途中、俺はあることを思い出し、ルーナに声をかけた。
「ルーナ。ちょっと待って。はいこれ」
俺は懐からユニコーンのたてがみを編んで作った飾りを取り出し、ルーナに渡す。
ルーナは両手で受け取ったものの、それがなんであるのか分からない様子で、困惑の表情を見せた。
「ありがとうございます。それで……これはなんでしょうか? 動物の毛? で編まれた飾りのようですが。随分と手触りの良いものですね」
「ああ。それはユニコーンのたてがみを編んだものなんだ。身に付けておくと、不浄なものから遠ざけてくれる。この前、随分と待たせてしまったろう? それのお詫びさ」
俺の言葉を聞いて、ルーナは泣きそうな顔になってしまった。
お詫びと言ったが、俺がフィリオになってから随分と良くしてくれている普段のお礼の意味もあったんだが、迷惑だったろうか。
「あの……本当にこんな大層なものを私が受け取ってよろしいんでしょうか?」
「うん。そのために頼んで取っておいてもらったんだから。でも、迷惑だったかな?」
「いいえ! 大変うれしく思います! ありがとうございます。一生肌身離さず身に付けさせていただきます」
どうやら、気に入ってもらえたようだ。
今はルーナのかも笑顔に戻っている。
さっきの泣きそうに見えたのは俺の勘違いだったんだろう。
そんなやり取りをしているうちに、俺たちは両親の部屋へたどり着いた。
俺の姿を見た両親は安心したような笑顔を見せる。
「ただいま戻りました」
「ああ。フィリオ。今日も遅かったじゃないか。心配したよ。無事なようでなによりだ」
父親であるペイル淡爵は落ち着きのある声でそう言った。
続いて母親が優しい声色で話しかけてくる。
「食事はまだなんでしょう? ルーナ、料理長に食事の支度をすぐにお願いしてちょうだい。ところで、フィリオ。学園の調子はどう? 記憶を失って大変でしょうに」
「大丈夫だよ。母さん。まだ戸惑うこともあるけど、おおむね問題なく。それに、母さんにはまだ言ってなかったけど、親しくしてくれる友人もできたんだ。元気な子だよ。少しうるさいくらいだけど」
俺がそう言うと、両親はともに顔を見合わせ、満面の笑みを俺に向けた。
「そうか! それは良かったな! 私も学園で知り合った友人とは今でも良くしてもらっている。友は宝だ。その子との関係を大事にするといい」
「ええ。本当に。そうだわ! 今度の安息日にその子をうちに招待したらどうかしら? どこの家の子なの? 私たちと同じ淡爵かしら? それとも
まるで自分たちの友人を家に呼ぶかのように喜ぶ両親を見て、俺は温かい気持ちになる。
「そのどれでもないよ。母さん」
俺の返事に、母親は目を丸くする。
そして少し興奮気味に言葉を続けた。
「まぁ! それじゃあ、
「落ち着きなさい。学園では爵位は関係ないんだ。フィリオが黄爵の子息と仲良くなったとしても、何も問題はない。ただ……さすがに家に呼ぶのはやめた方がいいな」
「違うんだよ。母さん、父さん。彼女は、アムレットは平民からの編入生なんだ。まだどこの家の子でもないよ」
盛り上がっている二人に水を差すようで悪いが、どんどん爵位が上がっていっているから、きちんと教えないと、誤解されたままではアムレットが可愛そうだ。
俺がそう思っていると、予想に反して、両親は先ほどよりもさらに興奮した様子だ。
「なんだって⁉ 彼女⁉ そうか! はっはっは! なんだ、そうか。そうか」
何故かひたすら笑いながら頷き続ける父親。
「まぁ‼ 素敵じゃない、フィリオ! それなら是非ともうちに招待しないと!」
先ほどよりも更に強い口調でアムレットを家に呼ぼうという母親。
俺は二人が何故ここまで興奮しているのか、皆目見当がつかない。
そこへ料理長に用を伝えに行っていたルーナが戻ってきた。
「坊ちゃま。お食事のご用意ができました」
「ああ。ありがとう。ルーナ。すぐに向かうよ」
「そうだわ! ルーナ! 庭師に連絡して、次の安息日よりも前に、庭の隅々まで整えるように言ってちょうだい。それと、私のよそ向きの……ああ。こっちは私が直接言った方がいいわね」
不在だったため話題についていけないルーナは
「庭でございますか? それなら、先月の終わりに手入れをしたばかりのはずですが……」
「ダメよ。安息日にいらっしゃるお客様には、少しでも綺麗なところをお見せしないと」
「安息日にどなたかお見えになるご予定がありましたでしょうか?」
「ええ! フィリオが学園で友人を作ったんですって! しかも相手は女の子なのよ! ああ! 今から会うのが楽しみだわ!」
母親の言葉に、ルーナは無言で目を見開いた。
しかし、すぐに平静の表情に戻る。
「かしこまりました。それでは、明朝にそのように連絡を」
「ちょっと待ってよ。三人とも! 俺はまだ一言もアムレットを呼ぶだなんて言ってないよ? それに、次の安息日は用があるんだ。だから、無理だよ」
「まぁ! それは他の日にずらせないの? 友人を私たちに紹介することより大切なことなの?」
用があると伝えても、母親はよほどアムレットを家に招待したいのだろうか、有無を言わせない圧力を感じるような声を投げつけてくる。
フィリオに両親を大切にすると誓った手前、母親の要望に背くのは心苦しいが、それに屈しては予定が狂う。
優先順位で言えば、はるかに元々の予定の方が上なのだ。
「すまないけど、ずらせない。そして、母さんたちに彼女を紹介するより大切なことなんだ。分かってくれるよね?」
「まぁ! なんてこと……あなた! さっきから黙ってないで、なんか言ってあげてくださいな」
「まぁまぁ。まずはフィリオの言い分をきちんと聞こうじゃないか。その大切なことってのはなんなんだい? 父さんたちに言えないことかい?」
「詳しいことは言えない。アムレットと二人で出かけなくちゃいけないんだ」
それを聞いた瞬間、両親は再び互いに顔を見合わせ、ルーナは俺を凝視した。
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