第十七話【覇王の杖職人】
騒いでいたのが俺だと知って、ガストンはにやけ顔を作った。
「なんだ坊主か。そっちの女はなんだ? お前の良い人か? わざわざこんな
「誤解だよ。ガストン。ひとまず間に合ってよかった。杖を作ってもらいに来たんだ」
杖、という単語を聞いた途端それまでのにやけが一瞬に消え、ガストンを知らない者なら驚き
俺はすでに知っているから何ともないが、隣のアムレットは小さく悲鳴を上げた。
背は小さくとも、ガストンの腕は俺の足よりずっと太く、髭に覆われた顔もいかつい。
詳細な年齢はわからないが、俺の知る限りは三百年以上生きているはずだ。
そんなガストンの威圧感ときたら、アムレットじゃなくても根をあげてしまうだろう。
表情だけでなく、声色にまで威圧が込められた声でガストンは言う。
「杖だと? 俺の性格は知ってるな? 冗談は好きじゃねぇんだ。てめぇが来たのはたったこの間じゃねぇか。それなのに、もう素材を全部集めたっていう気じゃねぇだろうな?」
「ああ。それは無理だよ。言われた素材を集めるには十分な準備が必要だ。そっちじゃなくて、今回頼みたいのはこっちのアムレットのやつだ」
名指しされたため、俺に向けられていたガストンの突き刺すような視線がアムレットに向けられる。
アムレットは身体を恐怖に震わせながら、ここに来るまでに話しておいた言葉を、一字一句間違えずに口から発した。
「ガストンさん。私だけの、私のために作られた杖が欲しいんです」
その言葉を聞いたガストンは、もう一度俺の方を睨みつける。
しかし、結果がわかっている俺は視線を逸らさずに、肩をすくめただけだ。
「ちっ。坊主の入れ知恵か? まぁいい。その意思があるなら、話くらいは聞いてやる」
顎の動きで合図をして、ガストンは店の中へと姿を消す。
まだ震えが収まらないアムレットが、助けを求めるような目で俺を見つめてくる。
俺は飛び切りの笑顔を作って、アムレットを励ました。
「大丈夫。うまくいったよ。さぁ、中に入ろう。もう一人、話を通しておかないといけない人がいるからね」
「ふぃ、フィリオ君。こ、腰が抜けて動けないよぉ」
情けない声を出すアムレットを見て、俺は苦笑する。
どうやら震えが止まらないのは、足腰にうまく力が入れられないかららしい。
仕方がないのでアムレットに肩を貸し、ゆっくりと店の入り口まで向かう。
ふわりと鼻をくすぐるいい匂いと、女性特有の柔らかさに、俺は長い人生で初めて異性に肩を貸したことに気付いた。
「おや、まぁ。ガストンから話を聞いて降りてきてみたら。フィリオちゃんが彼女を連れてきたってのは本当だったのねぇ」
アムレットと二人で扉をくぐり中に入ったとたん、もう一人の攻略対象から声を掛けられ、俺は視線を上げた。
そこに立っていたのは俺よりも身長の高い老婆、であるはずの綺麗な若い女性だった。
彼女はガストンに負けず劣らず高齢なはずだが、どこからどう見てもフィリオを生んだ母親よりも若く見える。
「だから違うんだって。アメリア。この子は今日のあんたらの顧客だよ。ガストンがあんな強面で睨んじゃうから、腰を抜かして動けなくなっちゃったんだ」
「あら、まぁ。まったく……ガストンのやつときたらいつまで経っても大人げないねぇ。さぁさ、立ち話もなんだろう。こちらへ来てお座り。そうだ、さっきとっておきのハーブティを採ってきたばかりなんだよ。それをご馳走してあげよう」
いそいそと中へ進んでいくアメリアを見つめ、アムレットはまた眼を丸くして俺に質問を投げかけてきた。
「ね、ねぇ。フィリオ君。今の……アメリアさんってエルフだよね?」
「うん? ああ、正確に言えばハイエルフだけどな。耳がとんがってたろ?」
「じゃ、じゃあ! ガストンさんとアメリアさんは杖職人なんだよね⁉」
何故かアムレットの声が跳ね上がる。
興奮しているようだ。
「ああ。杖を作りに来たんだから当たり前だろ? もちろん、二人とも担当は違うが」
「ど、どうしよう……フィリオ君! 私、凄いところに今いるよ‼」
アムレットは床にへたり込み、両手で自分の頬を包み込んでしまった。
そういえば、凄い職人とは伝えていたが、この国セントオルガの建国の王、覇王オルガの杖を作り上げた職人たちだとは伝えるのを忘れていたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます