第5話 【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】の【大皇(おおきみ)】、【大臣(おおおみ)】、【大連(おおむらじ)】

【ここまでのあらすじ】


 【転移の鳥居】で転移した【蜘蛛神社】にて、巨大蜘蛛二匹と交戦中に、死装束が介入して、巨大蜘蛛達をたおしてしまった。


 【荒脛巾アラハバキ皇国おうこく】の【大皇おおきみ】と名乗った彼の案内の下、首都【荒脛巾アラハバキ】にある屋敷へと向かうことになった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【荒脛巾アラハバキ】。それは、この世界の国の名前であり、同時に、その首都の名前でもある。その行政の府でもある屋敷に、この国の統治者である、【大皇おおきみ】が、亡命者一名を伴って、帰還した。


大皇おおきみ、どちらに行っていたのですか?」


 出迎えたのは、烏帽子をかぶり、片膝をついた二人の青年―壮年かも知れないが―だった。一人は橙、もう一人は青の着物を着ている。ちなみに、着物の襟は…「y」の字になっており、特に左前が正しいというわけでもないようだ。


「【大臣おおおみ】に【大連おおむらじ】か。【蜘蛛神社】裏の墓地にて、亡命者一名を保護した。事前にブルクドルフ殿から連絡があった者だ。タランチュラとアラクネーの二匹と交戦していたのでな。」


「初めまして。郡山俊英といいます。」


「初めまして。【大臣おおおみ】の神月太陽かみつきたいようです。」


「初めまして。【大連おおむらじ】の霧崎大洋きりさきたいようです。」


 橙の着物を着ている方が、【大臣おおおみ】の神月太陽かみつきたいよう、青の着物を着ている方が、【大連おおむらじ】の霧崎大洋きりさきたいよう、と名乗った。

 【大臣おおおみ】と【大連おおむらじ】。この二人は、容貌が酷似しており、双子のように見える。


 【荒脛巾アラハバキ皇国おうこく】の【大皇おおきみ】、【大臣おおおみ】、【大連おおむらじ】。【荒脛巾アラハバキ皇国おうこく】は、この三人による三頭政治によって、運営されている。


「郡山君には、臨時の爵位―男爵相当―を与え、【蝙蝠山卿】と呼ぶことにする。しかし、立場はあくまで客人のままであるから、特に畏まる必要はないがな。【大臣おおおみ】は、表大和おもてやまとにおける、内務卿のようなものだ。【大連おおむらじ】は、表大和おもてやまとでは、軍の幕僚長が近いか?基本的には、この三人が我が国の最高統治者ということになっている。」


 若干、時代認識がズレている気もするが、要するに、この国の序列第二位と序列第三位のようだ。


「亡命に関する手続きに関しては、特筆すべきものはないが、君はこの世界のことに関しては、殆ど知らないだろう?」


「政府の暗部に狙われているとかいう理由で、突然連れて来られましたからね。」


「その狙われている理由や相手に心当たりはあるか?」


「自分のサイトに書いた物理学の記事が、進歩的すぎるのが原因らしいのですが、実感はあまりなくて……。」


「どうやらその理由は建前らしい。表大和おもてやまとの政治家は、決して一枚岩ではない。上層部に近い輩の中に、過去に君と対立した者がいるようだ。現状把握できている情報としては、その一部の過激派が君の命を狙っている、という程度だ。」


「そこまで物騒な国っていう実感はなかったんですけどね……。」


われも両方の世界を頻繁に行き来しているが、君を狙っているのはごく一部だ。」


「出来るだけ早く、表の世界に戻りたいのですが。」


「既に聞いているかも知れないが、両方の世界の時間経過は無関係だから、連中と戦って勝てる力をこちらの世界で手に入れてから、戻れば良かろう。」


「表の世界に戻る手段が見つからなくて、このままこの世界で一生を終えることになったりして……。」


「世界を行き来する手段自体はそこまで難しいものではない。【転移の鳥居】を使ったことはあるだろう?【転移の鳥居】は、任意の空間を繋ぐ魔道具だが、その応用で、世界を行き来することが出来る。問題点があるとしても、起動に必要な魔力が通常の【転移の鳥居】よりも桁違いに多いことと、転移先の時空座標を設定するのが少し手間だということぐらいだ。」


「もしかして、今の魔力では足りないと?」


「その通りだが、魔力は戦闘経験を重ねればすぐに増えていくし、魔道具の作成も適性の高い君なら、それほど時間を掛けずに習得できるだろう。他人の転移に巻き込まれて転移することも出来るが、あまりオススメしない。時空座標の設定によっては、二人の自分が同時に別の場所に存在することになる。それは、世界の法則に反するらしく、対消滅したりするらしい。」


 ドッペルゲンガーに会うと死ぬ、ということか。随分不穏当な話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る