2.入部希望です!




「ほら、同じ中学だったじゃないですかぁ。楓恋カレンですよ楓恋、芥川あくたがわ遥翔ハルトの妹の!」

「あー……なるほど」


 自己紹介され、ようやく合点がいく。

 芥川遥翔とは中学時代からの友達で、高校も一緒になった同級生だ。

 現在も同じクラスでよく話はするが、そういえば妹がいたんだったか。完全に忘れていた。

 確かに同じ中学ではあったが、学年も違うし、それほど接点はなかったような……。


「酷いです、せんぱい。あたしの名前、覚えてもなかったなんて。控えめに言って大ショックです」

「控えずに言うと?」

「デュアルショックです」

「なんか頑丈で大丈夫そうだな」

「大丈夫じゃないですよぉ。あたし、結構目立つ方だと思うんですけど」


 まあ、ここまで鮮やかな金髪の女子は珍しいからな。

 だから俺も、容姿には見覚えがあった。

 だけど名前までは出てこなかったというか、そもそも名前を聞いたことはあっただろうか。


「それで、芥川の妹がなにしに来たんだ?」

「ちょっと、なんですかその言い方。せっかくだから名前で呼んでくださいよぉ」

「ああ、すまん。芥川」

「それ苗字じゃないですか。下の名前でですよぉ、ほら、カレンちゃんって」

「なんの用だ芥川」

「うわっ、頑な!」


 なんだその反応は。

 大体、大して仲良くもない後輩をいきなりちゃん付けで呼べるものか。

 いや、仲良くても俺は呼ばなそうだけど。


「一応言っとくんですけど、あたし、芥川って苗字そんな好きじゃないんです」

「そうなのか?」

「だって某文豪みたいでお堅い感じじゃないですかぁ。可愛くないというか」

「みたいというかまんま一緒だけどな……で、その文豪的苗字がお嫌いな女子高生が、このデブ研・・・になんの用なんだ?」

「えっ……で、デブ研?」


 なんだ。知らないで来たのか。

 わざわざ部室にまで訪ねてきたのだから、てっきり分かっているものと思ったんだが。


「はっ、もしかしてここ……太めの人を研究する的な部活なんですか!?」

「なんだその意味不明な研究内容は」

「そっか……せんぱいってデブ専だったんですね。あと五十キロ肥やしてから出直してきやがれってな性癖なんですね……」

「失礼過ぎる勘違いしている上に勝手にドン引きしてんじゃねえよ。デブ研ってのは略称だ。デジタル文芸研究部のな」

「あ、なるほど~……え、なんですかそれ」


 ドン引きは消えたが疑問は解消されなかったらしい。


「文芸部、とかじゃないんですか?」

「元はそうだったんけどな。部員不足でデジタル研究会と合併して、そういう名前になったんだ」


 七山高校のクラブ活動規定では、文化部活動は三人以上の部員と相応の活動実績によって承認される。

 つまり部員が二人以下になると、部活として認められなくなるわけだ。


「去年、文芸部とデジタル研究部が一人ずつになったんだ。そこで先輩たちが合併したところに新入生だった俺が入部して、なんとか部として存続できたんだ」

「えっ、でもせんぱい、ぼっちじゃないですか。あっ、イマジナリーフレンドってやつですか?」

「誰が幻想か。二人の先輩のうち、一人は卒業したんだ。で、もう一人の先輩は三年で、今年から予備校に通うらしいから今日は来てないだけだ」

「なるほどなるほど……あれ? てことはここ、今は部員二人だけ?」


 気づいてしまったか……。

 芥川の言う通り、現状の部員は先輩と俺の二人だけ。

 しかも先輩は実質的にゴースト化……このままだとデブ研は廃部する。


「なんとか部員を集めたいとは思ってるんだがな。そもそもが人気薄だった部の寄せ集めだし、かと言って変な奴に入ってほしくないしな」

「せんぱい、せんぱい。ほれほれ」


 小ぶりな胸を張ってなにやら自己アピールしている芥川。

 なんだ一体。殴り飛ばしてもいいということだろうか。


「そーゆーことなら、うってつけの新入生がいるじゃないですかっ」

「どこに?」

「目の前ですよ目の前! 当然のように視線スルーしないでくださいよぉ」

「変な奴には入ってほしくないって言ったばかりなんだが?」

「どこが変なんですか! ちゃんと身元も割れてる潔白な後輩ちゃんですよー!」

「珍しい自己主張だな……」

「とにかくあたし、入部希望です! どーですか、せんぱい?」


 ぴょんぴょんと跳ねるように近寄ってくる芥川。

 その仕草こそ小さなウサギのようで可愛らしいが、その後の上目遣いは一周回ってあざといウザみを感じざるをえない。

 どーですかと言われてもな……と思っていた時、ドアの方からコンコンと、ノックする音が聞こえた。

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