第3話 隠した初恋
高校時代、わたしはこの頃、もっと友達に心を開いていた。
当時は、たわいもないこととか、好きなものの話とか、好きな人のこととか、もっと心からの本音を晒していたはずだ。
わたしが心を隠したのは、ある恋バナを友達としていた時の、友達からの一言にある。
「なんか、それって、ひなこに似合わないよね?」
友達からしたら、何気なく言った言葉に過ぎないだろう。
でもそれは、わたしがその人を好きであることを否定された瞬間だった。
人は勝手に人のイメージを描き、勝手にお似合いの相手を決める。
美男美女カップルというように。
わたしにお似合いだったのは、顔の整った、何でもさらりとこなせる、イケメンだったのだろうか。
今となってはもう、それを確認する術もない。
わたしが当時恋していたのは、クラスのひょうきんものだった。
いつも、すかさずボケを買って出る彼は、時折窓の外を見つめ、寂しそうな顔をしていた。
それがどうにも強烈に惹きつけられて、わたしの心を鷲掴みにしていた。
彼はいつも誰かを笑わせている。けれど、彼のことを笑わせてくれる人はいるのだろうか?
わたしは、それが気になってしまった。
いつの間にか彼を目で追うようになり、いつしかそれが恋心であることを自覚してしまった。
その彼は、わたしには似合わない……。
そう。わたしは真面目で、ガリ勉で、ピアノが弾けないといけない。
クラスメイトの前でおどけたり、バカやったりしてはいけない人間だ。
わたしは、ニュースと時代劇しか見ないような人間だと思われている。
みんなの描いた通りに、引かれないように、問題を起こさず生きなければいけない。
生きるのって苦しい……。
そして、いつしかわたしは、その苦しさにも慣れてしまった。
ちゃんとみんなの理想を崩さず、イメージ通りの女子高生を全うした。
大学に入学後、彼氏ができた。
お似合いだねと周りが祝福してくれるような、理想的な優しくてイケメンの彼氏だ。
でも彼は、わたしのうわべだけを見て好きだと言っている。本当のわたしを知らない。
そんな気がしてきて、心の中が少しずつドロドロしていく気がした。
そして20歳の時、あの転機が訪れてしまったのだ。
それはまさに、青天の霹靂。
出逢ってしまった。
『環境戦士 喜怒哀楽』のハヤテ君である。
ハヤテ君は、主人公ではない。
主人公ライトの横でジタバタしている脇役である。
いつもその言動で、周囲の誰かを笑わせている滑稽なキャラクターだ。
それはまるで、わたしがあの日、恋した彼のようで。
どこかに隠してしまった初恋のようで。
ハヤテ君!!
わたしには、あなたさえいればいい!!
わたしは見つけてしまった。それは、完全に落ちた瞬間だった。
不覚にも二次元に恋してしまうなんて、どうしたらいいか分からなかった。
主人公は、いつもまっすぐで、わたしには眩し過ぎる。明るくて見つめることができない。
でも、その横でおどけている彼のことは、ずっと見つめていたい。そう思った。
ハヤテ君を演じている声優は、どうやらあまり顔出しをしていない声優さんらしかった。
わたしはハヤテ君の中の人のことは、そこまで関心を持っていなかった。
声以上に、そのキャラクターそのものに、とりつかれていたからだ。
しかし、ハヤテ君を好きになるほどに、悲しい時がある。
それは、このわたしが生きる三次元には、実際にはハヤテ君はいないということだ。
ハヤテ君は、描かれた二次元の世界で生きている。
当たり前だが、それを冷静に客観視してしまうと、とてつもなく悲しくなってしまう。
ああ、彼は現実にはいないんだ……。
だから、少し考えないようにしている自分がいた。
戦いの中で、ハヤテ君の八重歯は欠けてしまう。矯正をする、その前に。
大切な何かが壊れた気がした。
でも彼は、他の戦士に、その八重歯を見せて微笑んだ。
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