第59話 白羅晶の統制者
2012年、5月21日7時34分
「おい、あれ!?」
「太陽と・・・月が!?」
街にいた都民の大勢が空を見上げていた。
うっすらと夕焼けと同じような色に変わるそこは
日常という言葉の変革をもたらす。
以前からニュースで予告されていた金環日食の発生を
空に対して無関心だった者達がようやく気付き始める。
怖いもの見たさで都庁に近づく者、遠ざかる者、
あらゆる人種も浮世離れな現象を観察していた
その直後だった。
晃京一帯は全て止まる。
あらゆる雑音は瞬時にして消え、
都民の人々は時が止まったかのように静止した。
晃京都庁最上階
聖夜は無音と等しい結晶の中を進む。
壁や天井は鉱石で張り詰めているが、
廊下は障害なく歩けることができた。
明らかに自分と同じ人間も行き来していて、
最低限の通路として形作っていたのだろう。
マナ、厘香、カロリーナ達とそれぞれの宿命と対峙する
前兆で自分もそれらの一ヶ所を目指していた。
不思議な事に、内部に悪魔の姿が一匹たりともなく
入ってこいとばかり許容された間に思える。
奇襲を受けないように剣を握りしめていくと、
天井のないテラスがある。
何かがありそうと直感し、都庁の内装などあまり
知っている方でもなく、作戦会議に侵入経路を
少しだけ教えられただけでここは覚えがない。
ただ、“何かがある”。
直感は頭だけでなく胸にも伝わり、自分はここに入れと
深く考えるまでもなく、目を意識させていた。
正面の扉より番号を要求される。
「「入居パスワードを入力してください」」
自分は無意識に666と入力。
いつ、どこで覚えたのかまでは分からない。
不思議にも正解で、指が記憶とはよべないところから
勝手に動いて押した。執念場にしては締め出そうといった
気配などなく、あっけなくすんなり入り込むと、
中に誰かが入っていた。
「これは・・・都知事!?」
もみあげが曲がっている男。
蒔村サロモンは結晶内に閉じ込められ、固まっていた。
どこかで見た会社員も固まっている。
他、数人の役員も同じように氷の中に入ったような状態で
封じ込められていた。
死んでいるのかまでは分からない。
樹液に含まれる生物が時が止まっているそのもので
生死の確認もしようがなかった。
案内図からして、ここが都庁の中心部。
目標物とされたブラックダイアモンドらしき物は
どこにも見当たらずに場所を間違えた感もある。
これしかないのかと疑って主任に連絡しようとすると、
奥から足音が聴こえてくる。
「誰だ!?」
「久しぶりだな・・・息子よ」
黒いスーツを着た男、正倉院蓮。
防衛大臣であるはずの者が知れずに現れた。
周りには誰もいない。
偉い立場の者がどうしてここにいるのか。
しかも、彼は自分を息子と言い放ち、
こちらとしては思い出せない。
「息子って――!?」
「忘れているのも無理はない。
計画的にあえて記憶を消しているのだから、
全てはこの日のために」
「この日のため?
という事は・・・あんたがオリハルコンオーダーズの!」
リーダー、ボスだという雰囲気、風格だとすぐに気付く。
防衛大臣なんていう立場だけあって最も解決すべき者が
結晶を固めた張本人だったのは察知しようがない。
国の重役がこんな事件を起こしたから、
今まで簡単に足が付かなかったのも納得。
「どうして、今になってクーデターを起こしたんだ?」
ミチミチ ギチギチギチ
男の半身が白く染まり、目の
姿勢を変えず、そのまま話を続けた。
「日食だ、我々は来たるべきこの日を待ち続け、
ダイアモンド結晶の適
お前の力と私の力を兼ね、この腐食と化した世界を
大いなる意思の元に統制してゆく」
「何の事だかさっぱり意味が分からない!?
統制?
どうせ人と悪魔を融合させるつもりだろ!?」
「人間と悪魔を?
無意味、異種間など共有させてどうする?」
「だったら何故!?」
「平和だ、堕落無き完全な意味での整列化空間を
我々の望むべき世界へここより再構築すると
占拠時に宣告した通りだ」
「あの配列がどうとか言ってたやつか。
もっと分かりやすく教えてくれないか?
それと日食と何の関係が?」
「最も発揮する時が金環日食。
星も結晶と同等なる塊なのだ、視るがいい」
テラスと天井が透明になり、空に太陽が映る。
一点の
柔らかく下界を照らしていた。
ただ、音が聴こえてこない。
空どころか、地上からも先まで騒がしかった戦闘音が
少しも耳に入ってこなかった。
「星が・・・止まっている?」
「晃京が止まっているのだ。
ACは結晶、凝結は基より重力によって生まれた星の有。
悪魔という呼称は正確でなく、異界の従者による能力で
空間内にすら影響を及ぼす性質をもつ。
これがダイアモンドの適正、時の
「俺とあんたが・・・なんなんだ!?」
「我々の力により時は、止まる。
いや、
硬度の解放は空間すらも留められる」
「時間が・・・止まる・・・そんな・・・バカな」
「均衡こそ万物において大いなる安らぎ。
行き過ぎた繁殖は地上を怪我し、さらに汚し過ぎた。
終末はいずれ訪れる星の崩壊を阻止するのが
オリハルコンオーダーズの最終目標。
光と闇の混じわりの後こそ、真の平和は訪れるのだ」
「時を止めるなんて冗談じゃない!
「
不動は存在の真理を乱さずに具現化。
劣化、腐敗、衰弱、崩壊無き理想世界の構築よ」
蓮は晃京の時間を止める計画を起こすために決起。
国の乱れや腐敗を
永久保存、不滅を築こうという。
しかし、悪魔を放った理由もよく分からず、
直接的な支配を試みなかった点も不思議に思える。
父、大臣の目は白金の様に真っ白で姿勢は真面目そうに、
悪人には見えないのだが。
「分からない・・・何なんだか。
俺やあんたがダイアモンドの適性があるっていっても、
世界がまるごと変わるなんて空想も良いとこだ」
「第一印象は誰であろうと等しいだろう。
世界変革などすんなりと認める者などいない。
人は実現、常識と理解してから通常と認識する」
「当たり前だ、御偉方の頭なんて分かりようない!
他にまともな方法とかないのか!?」
「確かに、もっと円滑に事を運ぶ方法はあった。
本来ならば、私とお前の力を要さずとも
刻を停止させるのは可能だったが・・・」
「え?」
「妻の家宝、サンセットファイアオパールは
ヨーロッパの者達に奪われてしまった。
皮肉にも、私のいない留守中を狙ってな」
「うちにそんな物があったのか・・・」
大臣は本来、晃京占拠を決起するつもりはなかった。
元から家にあったACをいずれ使うつもりがズレて、
何かしらの理由で七色結晶を生み出したようだ。
そういえば、留置場の時の話を思い出す。
以前、高橋警視総監から聞かれたAC所有の話が
この件だったのか。
10歳で記憶が無くなっても、姉すらそんな結晶の話も
みじんも聞いた事がなかったはず。
どういう訳か、生まれた時から仕組まれていたとばかり
自分の力と合わせるためにここまで来たという。
最初から予定調和?
自宅に世界へ影響を与える異物があるなんて、
今更ながら懐事情もより深まる。
「俺は母さんが宝石商をやっていたくらいしか知らない。
あんたが本当の父なら、買った物の出所とか調べれば
すぐ分かるんじゃないか?」
「当然、後を追って部下達に調査させた。
だが、見発覚。おそらく持ち帰っただろうヨーロッパの
あらゆる組織は発現の兆候すら見せず。
いつまで経っても海外で変異は確認できなかった」
「突然、そこから消えたみたいじゃないか。
X線の反応とかで・・・いや、当時は無理だったか。
何が何だか・・・」
「今はこれ以上語る猶予などない。
私1人の晃京静止は長くもたん。
詳細は
話は以上だ、お前のACを私と合わせろ。
互いなる最高硬度より空間制御を完全成就する」
ことごとく結晶と縁がある自分の無粋さが、
真相が明かされる度に引きずられてゆく。
しかし、世界の停止に賛同なんてできやしない。
御偉方、ましてや父の言葉ですら従う道理なんて
「・・・力は貸せない」
「・・・・・・」
「動く事は生きている証明だ!
人と結晶は違う、地下世界じゃなく地上世界に住む
生き物まで石に成るなんて間違ってる!
俺は絶対に協力しない、どんな事情があろうと
あんたの誇大妄想になんてな!」
自分の両脚をしっかり床に立たせて主張。
死と同然な琥珀色に染められるつもりはなく、
ここではっきりと言ってやった。
この時、大臣の顔は歪みと呆れが表れて言う。
「
「なに?」
「その動的事象が人にとっての
動とは静に対する
また他への静を喰いつくす」
「だからって、全部止まったら世界は回らなくなるぞ!
さっきからくどい言い回しばかり言ってて、
いい加減にしろ! もうシンプルに言うぞ?
動いてこその世界、星だ!」
「だから、必要な者だけが動じてゆけば良い。
ならば、動かぬ植物は生きていないとでも?
奴らは静止した者達による恩恵を感じておらん。
荒げる夜の呼吸も無駄だ」
「悪魔を夜だけ召喚していた理由もそれか?」
「
姑息に視界に入りにくい
だが、昼すらやらかす者はいる。
まったく、手を焼かせる」
「昼間の事件はあんたの指示じゃなかった・・・。
そうか・・・都庁からACが散らばったのは
あんたらの誤算だったんだな?」
「ふん、こういう洞察だけは鋭いな。
確かにそれを招いた予想外の展開も起きた。
我々の精製したACが周囲に拡散してしまった」
「各地で手に入れていた物は人々の都合の良いように
使われてしまったんだな。
結局、ACなんてろくな塊じゃないんだろ。
あんたらの計画だってきっと成功しないぞ?」
「だが、適正者の選別は終えている。
すでにインターネットで検知できていた。
お前がここに入れたのもそれが証明している」
「!?」
ネットの情報という言葉で直感。
例の4月に起きた異文はオリハルコンオーダーズの
適性審査だった。
「まさか、4月1日のネットは!?」
「適正者選別の会だ。
あれは人間の意識と潜在能力を見分けるように
設計された刻印。
あの文字の羅列を見た者の中で、
我々が認めた者達だけを動じさせようとした」
あのアルファベットの羅列はAC適性者のみを
AC適合者、オリハルコンオーダーズへの参加資格で
分別ある人のみが静止せずに行動が許される審判であった。
情報界へ通じ、見通しの立ちそうな者だけの新世界。
光一も似たような話をしていたから、答えの帰結が
まさにこれだったのだろう。
識者を優遇、目的の果てがまったく見えない
頭脳の行く先が何もかも止まった世界など、
とうてい理解できるはずがない。
「そんなのはただの独裁だろ!
選別だ、革命だの偉い奴だけ残れば良いのか!?」
「動は省みず他への侵害を際限なく繰り返す。
我々、昭和の世代もそうだった。
当時の
縄張り意識の果て、ただただ
腐臭漂う世界に、私はもう耐えられんのだよ」
「・・・・・・」
「この世は陽と陰。
静の前兆たる動も必然だろう。
清き静により悪しき動を壊す。
結晶の静によって聖域を精製するのだ」
そして、自分も選ばれた代表格。
ACの最適性者で、ここに立たされている。
確かに言い分通りなら、戦争も差別も起こらなくなる。
しかし、乗らない応えを言い放った。
「完全停止が真の平和?
で、世界が止まれば本当に良くなるのか?
そこに人の意識はあるのか?」
「全て停止。
選ばれし者以外は皆、身体をも停止されてゆく。
善も悪も無し、喜びも苦痛も全て」
「はあ、言い訳もここまでくれば狂気の沙汰だな。
まあ、俺も自分が分からなくなる時はあった。
今は違う、晃京を解放するという使命がある!
どんな理由でも、あんたの道理には従えない。
たとえ父親だろうと、この場は止めさせる」
「・・・抗う意思が上回ったか。
二対のダイアさえ成熟すればお前の意思など無用。
等軸晶より、このまま刻を合わせる。
我がダイアモンドの力、受けると良い」
10m間隔にいるお互いに、肌も威圧感をもたらす。
オリハルコンオーダーズリーダーとの決着を
ここで着ける事になる。
まさか、元近親者がボスだったのは意外だが、
相手が父親だろうと阻止は阻止。
行動抑制にとクラーレを引き出す。
ダイアモンドに効くかは不明だが、やるだけやる。
「フンッ!」
大臣の腕が白く光り始める。
片手を前に30cmの白い球体を3発放つ。
十分避けられた、動きはそれ程速くはない。
だが、一発でも受ければ倒されそうな威力だ。
余波すら圧力がある。
(本気を出していないくらい分かる。
こっちの力量を測っているに違いない)
実際死亡してしまえば、奴らの計画も終わりだろう。
相手は殺害する気はないはず。
エネルギーなのか、塊なのか、つかみ様のない技でも
ダイアモンドの能力だけに油断するわけにはいかない。
自分も極力集中して大臣を阻止すべきと、
急所を免れようとする。
遠距離射撃のようなスタイルだけかと思いきや、
いかにも様子見していた発言をした。
「・・・なるほどな」
(次の手がくる!)
凄まじい結晶の締め付ける音と同時に男の身体の
両脇も白く
拳で叩きつけようと接近戦にもちこすつもりだ。
「科警研で製造した剣だな。
お前らしく、暗に適した性質だけある」
「これで斬られれば毒が回るぞ!?
素手で相手しようなど・・・無謀――!」
「是非もなし」
腕の部分だけ狙い、機動力を削ごうと試すが
避けられて横から剣先を掴まれた。
凄まじい腕力、いや、ダイアの力で離せない。
人のそれではなかった。
「フンッ!!」
ゴギリ
「剣が!?」
クラーレをへし折られてしまう。
毒剣は通用せずあっけなく破壊された。
「得体のしれん力といえど、私は止められん」
「静止を強要されし者よォ!」
ピエトラを発動、父を石化するのも気が引けるが
もうキレイ事など言ってられない。
「覚悟ッ!」
「
片腕から白金の網目模様が浮かび、
ピエトラは粉塵爆発によって砕かれてしまう。
強固な塊なら、呪いが効くはず。
「狭心の孤者ァ!」
ならば、呪剣ラーナで手足だけでも腐らせるしかない。
今一度腰を低く降ろし、部分を突いて最小限の威力にする。
何でも止めなければならずに手が反射するまで、
自身の何かが制止できなくなってゆく。
「青き浸蝕、ACの呪いならあんたも――!」
「金剛石にヒビは無し、六方結晶にはとどかんッ!」
青いあぶくは白い表面の中へ
滑る様に落ちて流れてゆく。
効いていない、侵蝕の力すら白色を染められずに
呪いの干渉を完全に拒絶されて外部へ弾かれている。
剣の平に拳を叩きつけ、ラーナも粉砕。
水色の飛沫が飛び散って刃を失った。
「これも効かないのか、あのサソリよりも硬いなんて」
「ダイアは潔白、純粋なる加護。
意思と同調した高貴なる塊は何物にも勝る」
「くそおっ!」
ことごとく破壊される内に対抗策も次第に収縮。
残るは宝木刀のみとなる。
だが、一度たりともまともに振るった事もない代物に、
今回も通用できる見込みは薄い。
光の剣とよばれながらも光らず、わずかな
発現しないこれでどう攻めるか見当つかなかった。
素手で立ち向かえる可能性なんて0。
もっとも扱えずに気も進まないこれを使わなければ
もう対抗できそうにない。
「「ぐっ・・・俺は、まだ・・・やれる」」
「それはミストルティンか。
お前が持っていても意味のない代物だ」
「これを知ってるのか!?」
男はミストルティンを知っていたようだ。
正倉院つながりで伝説的な代物なのか、
自分がこなせない程の性質を無意味とみなされる。
しかし、厘香は今まで防衛省大臣との関連を
一言も話していなかった。
苗字が同じだけの偶然とばかり思っているだけで、
警護団体とはつながりはないはず。
ただ、持っていても意味がないと扱いの不得意について
知られていない状態までも指摘。
まるで、あたかも身体の中を探られたかの様に、
言い当てた。
しかし、主任に宝木刀の詳細は知らされていない。
性質も全て明らかにされていないこれを
いつの間にか言い当てられていたのか。
いや、心当たりはついさっきまでの出来事の方に
あったのだ。
(最初の球体はただのエネルギーじゃない!?)
開始に打ち出してきたものは大砲の類でないと気付く。
攻撃の飛び道具と見せかけた体内のACを検知する
役割をもっていた。
ダイアどうしを伝ってきたのか。
が、自身のダイアを通用させなければ元も子もない。
剣をほとんど砕かれて残るはこれだけ。
手に入れてからまともに使っていなかった得物でも、
頼りになる当てがないのだ。
振る、何がなんでも唯一の剣を奮わないといけない。
「動け、うごけよォ!」
「無駄だ、特に相反するお前に扱える代物ではない」
「みんな、期待してる、ここで、やらなければ・・・。
できる・・・俺はできるんだァ!」
「
やはり、両手でも振りきれなかった。
あまりの重さに重心ごと読まれて避けられる。
再び剣をつかまれてしまう。
「無影師範も
如何なる経緯があろうとも、陽と陰は混ざらん」
「どういう事だ!?」
「こういう事だ、
「うごああぁっ!?」
蓮が剣を掴んだ瞬間、
目が
床に転がり、のたうち回る。
太陽の光、それ以上に
覆われてしまう。
みえない、見えない、観えない、視えない、診えない。
いずれにしても、視界が真っ白に染まり、相手の姿すら
捉えられなくなった。
「そろそろ終わりにさせてもらう」
同じダイアモンドの性質でも、経験の差でいわせられる。
手に感触がない、ミストルティンが放り捨てられたようで
他のACの判別ができずに攻撃手段がとれなくなった。
父の発言がすぐ目の前まで近くなる。
凄まじい風圧が身に迫った。
「金剛正拳突きィ!」
ゴギリィ
鈍い音と共に意識が吹き飛ぶ。
何をされたのか、そこからは覚えていない。
誰が言っているのか、この感情も自分かどうかすら
分からずにいる。
見えているもの、なし。 体の状態、不明。
暗い、視覚もろくに働いていないから当然だが。
今、自分はどこに居たのか?
何をしていたのか?
いや、何かがあるのだけは感じる。
ヌルっとしたものが出てきた。
腕を上げろと言われた気がする。
そう言われたから片腕を上げた。
体が宙に浮く。
無意識に呟いた。
「「我が闇は・・・ここに」」
上部から1本の剣を引き抜いた。
闇剣、オスカリダァド。
名前の由来は不明。
ただ、意識せずに言語だけ勝手にそう呼んでいた。
それだけにとどまらず、口も勝手に動く。
まるで誰かに乗っ取られた様に黒き細長い塊刃を
構え始めていた。
「ん、狙いが逸れたか? まだ物を内包していたとは。
ほう、濃厚で上質な闇だ。
私の光と双璧させるに相応しい」
「「裁断する」」
「フンヌウッ!?」
今度は剣を掴み取りにこない。
違う、つかめないのだ。
しかし、黒き鋭利も勝手に動き出してゆく。
何故か・・・止まれない。
自身も操られている様に制止が利かなかった。
「ほほお、ここまで成長したか。
それでこそ対を成す者・・・祈願ヲ果たしてクレル」
「「粛清する」」
「私はワタシノ命ヲマットウスルノミ。
腐りきった世界に破壊と再生ヲオオオォォ!!」
全身白金色に染まる。
大臣の背中からさらに10mはある女体が出現。
男は本気を出してきたようで、真の力を解放した。
「サンセットファイアオパールはもうない。
祈願成就、今しかないのだ!
聖夜、私と協力して刻を止めろ!」
「「
黒い影は5mに伸び、槍状態に変形。
女型の巨手も拳に変わり、こちらに突き出すが
真横にかわしてすぐ反撃する。
「「
男の左肩を貫く。
結晶のせいか、痛みなどの反応や様子が見られずに
無機質の破片だけが散乱してゆく。
外見自体、人のそれではないので当然。
ただ、先とは異なり確実に動きだけは鈍っている。
誤魔化しかどうか定かではないが、発する言葉も
次第に歪なまでな内容になる。
「日本国民は、正義と秩序を基調とする
国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、
武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する
手段
「「
女型の巨大な左手からバックステップ、
ACの顕現といえど、物理行使はシンプルのそれで
避ける事は可能。白く透き通る豪体に接近して黒き刃を
横薙ぎする。
「鎮静への粛清ッッ!」
「「無」」
顔面手前に白いシルエットが覆う。
よけた手の甲が映りオスカリダァドで縦斬り。
次は右手の拳が横から迫る、影に近い挙動で避けて
大きな腕に向かって姿勢を低く保ちながら接近。
根拠となる関節の元となる右肩を砕いた。
「そう、並進対称性に整う固の配列こそ、真の平和。
乱れは許されぬ、ゆ、ユルサレヌゥ」
「「ヒカリよ治まれ、世は混沌を望ム」」
もはやお互いに何を言ってるのか不明。
信念のみを吐くだけの間柄に黒と白がせめぎ合い、
場はひたすら放射と吸収の連続だけが発生。
「フーッ、フーッ、平和、そう・・・ヘイワだ。
ワタシノノゾンダヘイワダァ!!」
白き壁の網目が歪み、黒の浸蝕が覆いかぶさる。
背後の女神も溶けだして、純白の清楚さも塗りつくし
大臣の発言も最後の理念、信念であろう言葉だけを
ただ繰り返すのみ。
「ヘイワヘイワヘイワヘイワ・・・ア″ッ!?」
父の胴体に闇が染まる。
先まで輝いていた光も弱まり、
残すは源を断ち切るのみ。
両腕を奮って上から下に黒を落とすだけだ。
「「
「ッハァァァ!?」
正倉院蓮は床に倒れた。
もはや手を打ち尽くしたようで、白の機動はなく
女神の加護もボロボロに消えてゆく。
オリハルコンオーダーズのリーダー、正倉院蓮との戦闘は
これにて終幕。黒と白の攻防戦は世界の基本的な事象か、
コントラストを描いて四大鉱石の最後を打ち破る。
これ以上のACはもうないはず、片手に持つ黒は残り
追撃する気もなく周囲が静かになった。
「ハッ!?」
頭から波が変わった様な感じで意識を取り戻す。
自分は確か防衛大臣と戦っていて、
途中で吹き飛ばされたはず。
別の誰かが前に出向き、気が付けば終わっていた。
「だ、大臣・・・親父ッ!?」
かつての父の元に駆け寄り、決着理由も分からないまま
訴えかけた。治す方法など何も知らない。
ACの通信は誰からも応答されず、自衛隊も無返事で
この後どうすれば良いかまったく考えていなかった。
「「ここまでか・・・私の意志すら通用できんとは」」
「もうダイアとか、そんな物なんかどうでも良い!
俺は、俺達は元の世界に戻したいんだよ!」
「「戻らんのだ。
私がテロリストを
奪い去ったモノは何もかも。
元から私とお前は
膨張した白と黒は必ず世界の双璧を生む」」
「白? 黒?
どういう事だ? 意味が分からない」
「「これだけの犠牲者が出ても神は来なかった。
不必要な者を排除し、選ばれし者を残しても。
星は・・・応えぬのか」」
「まだ何か起こるのか? まだ、ACの力は!?
何があるんだよ!? 俺はどうすれば!?」
「元凶はもう目前にいる。
光と闇の崩壊の先は・・・混沌。
私のダイアでは・・・とどかなかった。
後は頼んだぞ・・・・・・聖夜」
それきり何も言わずに目を閉じてしまう。
未だに勝てたなんて実感は味わえずに、座り込んで
父のダイアが史上最大の強さだった事が拳を通して
洗礼を受けさせられた。
対する自分も言われたとおりに腕を出して
異次元からの異物をもたらされ、決着に至る。
そういえば、何かを握っていた。
いつの間にかこんな黒い剣を所持していた。
体の中からオスカリダァドと呼んでいる物は
非常に硬いけど非常に軽い。
腕の部分で何かが動いた。
「な・・・剣が!?」
オスカリダァドから何かが染み出てくる。
刃は溶けだして、黒く細長いぬめりがたくさん
「アゴッ、ゴプッ!?」
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル
どす黒い液体の如く自分の体に入り込んできた。
口、目、鼻、耳、その他穴という穴へ強引に吸引し、
体内のある部分にまで管を流れてゆく。
直ぐには膨れ上がらず、どこまでも細かく奥まで
侵入を続けて浸透させられる感じだ。
制御不能。
手先は膨大な黒い柔らかい異物があるだけで、
蟲が臭いもなく内蔵へ侵蝕しにかかるのみ。
耐えられずに転倒し、もだえるだけで成す術もなかった。
「やめろ、やめろおおおおおおオオオォォォ!」
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