第51話 明かされた融解
晃京某所のホテル一室に2つの影があった。
周囲の目から忍ぶように何者かがお互いに話をしている。
内容は先の国会議事堂前で起きた件。
いわば、光一の失態を懸念し合っていた。
「馬鹿な、大事な時に単独行動をとるとは・・・」
「気が付いた時にはすでにオブシディアンを発動させ、
黒の術より上級悪魔を召喚させていました。
止めるよう再三警告したのですが、彼は」
「先制か?」
「そのようです。
AC熟成の頃合いを見計らって起こしたようで、
同年代ならではにライバル心を搔き立てた故かと」
「代替の方が先に消えるとは皮肉だ。
己の立場を悟って躍起にでた結果か」
「その影響により同属の触媒化を受け、
ブラックダイアの活性の兆しがみられました。
増長元は相変わらず出力不明のままですが」
「私の央からも非常に大きくなってゆくのが分かる。
対を成すはらからだけはあるな」
「ええ、これによってアブソルートを突破される
危険性も大きくなりました。
しかし、彼はまだ自身の力に気付いていません」
「私同様に殺人行為を起こしてしまうとは。
執行免除にどれほど手を尽くしたと思ってる。
己の性に戸惑うとは・・・血は争えぬな」
「
貴方が恐れる闇を――」
「・・・・・・」
「申し訳ございません」
「まあ良い、このまま取り込ませておけ。
あと少しで奴の力でも容易く入れる」
「彼らはまだ我々の正体に気付いておりません。
当日前に会いに行って招待しても良いですが、
「当日で良い、私が奴に直接説明する。
言って聞かねば、力尽くで発動させる。
警察と自衛隊もこれ見よがしに事態解決を図りにくる。
もうすぐだ、もうすぐで望みが叶う。
何が何でも当日まで、持ち堪えるんだ」
「尽力します」
2人は同時に部屋から出てゆく。
以降は無関係とばかりに一切交わらず、
ホテルからチェックアウトして街へ後にした。
科警研の執務室でチームリーダー数人が設計図を見て
頭に冷凍剤を貼り付けながら打ち合わせしていた。
冷やしていた理由は都庁への侵入方法。
完璧な防壁の突破口が未だに見いだせずに四苦八苦する。
「なんなんだ、この七色の塊は?」
「ACを所持していた者達を追及しても、
拾ったとかもらったとかで直接都庁と共通する
根源にまでつながれません」
「ACに絡む民間の星も1人ずつ逮捕しても、
奴らの懐まで入り込める機会がありません。」
まとめ役の主任も取り巻かれる部下に対して
ろくな助言も与えられずに黙り込むのみだ。
マーガレットは焦っていた。
オリハルコンオーダーズの目的が未だに判明できず、
七色の結晶の破壊方法もまだ決め手のない中、
硬度のある物がどの結晶と頑丈にカチ合わせるのに
少しでも可能性ある情報の兆しが必要であった。
いつでも結晶の
七色の境界から一歩も踏み込めなかった。
部下は役立たずではないが、案の1つも出せない身分に
自分すらも
そんな時、部下が慌てた顔で再び入室する。
「主任・・・すごい人がここに」
「誰よ、アポもとらずに!?
成り済ましなら今忙しいからって断――!」
「突然の訪問、申し訳ない。
お時間をよろしいかな?」
(ロストフ・アヴィリオス!?)
老人の姿を見て、予想もつかなかった。
教会の重鎮、マナの父親が科警研を訪れにきた。
今になってから何故?
聖夜と共にAC回収の手伝い仲間ながら、
別にここと直接関与していない。
アポもとらずにやって来たもので、
準備していなかった職員が慌ててお茶を差し出す。
重役どうしが集う執務室に緊張が張り詰めた。
「どうぞ粗茶ですが」
「お構いなく、あなた方もお忙しい身であろう。
あまり長居せずにお話しする。
娘の話によると、聖夜君がここで世話になっていると」
「ええ、ACの加工による悪魔討伐を専門として
私が管轄しています」
「ACから
あらゆる性質を手中にできる彼をメインに、
対処するための兵装を制作しているようだが?」
「剣による術を悪魔討伐として製造しています。
彼のフェンシング経験、及び適性の才を添えて」
「ソードか・・・西洋に伝わる武具と同じ手法。
ふむ、従来の討伐と同様であるな」
慣れた様に緑茶をすするロストフ。
お手の物とばかり来日をものともせず対話する。
まるで既存の情報交換ばかりで、
有効的な内容を教えられていない。
どうでも良い
しかし、司教はまだ友好的で話に続きがあると言う。
金剛の如く立つ都庁に張り付く塊の性質に、
1つ助言をしにきたのが今回のメインだった。
「ふむ、やはり基本構造は根本のまま。
粉砕と融解、いつの時代も同様。
適性も、また然るべきものなのか」
「一体、何の事でしょうか?」
「お主は重要機関に張り付く結晶について、
どれほど見解をお持ちかな?」
「その
一方的な
「やはりそうか、異界の教えはこの世界にとってまだ一部。
科学という界隈のみでは限界がある」
「宗教の概念からなら解決をもつと?
つまり、精神の枠なら結晶に通じる効果など
何か意味、突破口があるのでしょうか?」
「あるのだ、あの七色の結晶は悪魔ではなく
人によって生成された存在」
「アメリカでは歴史の文献でも、そのような記載は・・・。
もしかして過去にも?」
「そうだ、ヨーロッパではかつて結晶内に住居を設ける
安住の地をACから築き上げていた記録がある。
名はアブソルート。
かつて、戦争を避けるために疎開地を築こうと
1人の賢者が構築させた不可侵なるエリアだ」
「不可侵領域を?」
ここで都庁を覆った結晶の塊が判明。
アブソルート、自衛隊がどれだけ手を尽くしても
ヒビ1つ入れられなかった強固な異物は古来から
何者かによって創造、人の侵攻の障壁として
誕生したものであった。
司教は成長熟成期に差し掛かった聖夜に、
解決事も含めて特殊工作班へ確認させようと来たのだ。
「運動速度の高い衝動も低い衝動も何もかも阻み、
あの七色の結晶を形成する性質と似ている。
内部の用途は時の使用者によって様々だが、
したがって、オリハルコンオーダーズの者達は
計画を達成するための防護柵としてあの様式を
築いたのであろう」
「ほぼ密封しているはずなのに、酸素供給は
どうやって確保しているのか不思議に思います。
確かに電気エネルギーを送っていた形跡がありますが、
トイレの水も流れておらず食料も必要不可欠で、
人間が生活するにも限度があるはず」
「まだ他にもあるはずだ。
いくらアブソルートであろうと、
設立維持には相応の力が要る。
外周にはバリケードを設置しているだろう?
晃京周囲を封鎖しているそれがアブソルートの
強度を保っている」
「あの・・・バリケードが!?」
「ポリカーボネート。
結晶を維持させるための断熱枠が地脈を囲い、
晃京全体を塊として依り代に精製しているのだ」
なんと、オリハルコンオーダーズの主犯は
晃京の区画を利用して政策に紛れる
市民の安全柵と見せかけた策も作っていた。
12月24日の事件発生で直ぐに区画を閉ざした
バリケードを遠隔補佐して結晶の強度を保っていた。
ならば、主犯は設計者の中にいるのか?
犯行メッセージは実際都庁内から発せられた。
あの結晶を生成させたのなら内部にいるのは理解できるが、
4~5ヶ月間も籠城するのは難しい。
事件発生から逃げ延びた職員以外で外に出てきた者は
1人も確認できなかった。
さらに、都庁を選んだ理由も確信できていない。
国会議事堂ではなく、そっちを張り付かせた理由が
特定できなかった。
「バリケード設置は悪魔の拡散防止ではなく、
結晶の硬質化を支えるために!?」
「我が国にあるストーンヘンジも、
AC基礎技術の一端として使用されていた。
広さは異なるも、簡易的居住区として
試験的に敷かれていたのだろう」
「今まで外周区を封鎖していた理由は、
都庁に向けて蓄積を促していた。
奴らは・・・なんて事を!」
「私もそこに気付いたのは最近であった。
アブソルートに限定地域などの条件はないが、
人目に付きやすく、象徴として高度のある所で
根付かせたのだろう」
「一番高いヘヴンズツリーには電気エネルギーの
媒介として利用していただけか。
本当に奴らは何のために?」
「詳しくは分からん。
これはあくまでも伝説の筋道であるが、
時の権力者達は世界を手中に収める野心をもつ。
今回の者もおそらくはその一手。
質量の大きな媒介している可能性がある」
「それ程の塊があるんですか?」
「星だ。
我々と共に床上を支え、凝結せしめる世界の地。
惑星という球こそが結晶の塊なのだ」
「!?」
ロストフの発言に、自分は規模の差異を生成させる。
結晶凝縮に相応しい人口の多い晃京によって
人という密度を自分にとっても想定の内に入れようがなく、
しまいには星などと巨大なレベルにまで範囲に入れるとは。
今思い返せば、人間も塊の一部と確かにうなずけるが、
大判返しな解釈に、科学を人が生み出したので
地質が人に巡り返るなど普通では想定できそうにない。
晃京を要所に占拠していた理由が司教によって発覚。
オリハルコンオーダーズの手段を明かされた。
「街そのものが・・・結晶」
「極大視野からすれば星。
結晶も星の中から生成される存在。
凝縮という理の果てに我々は成り立っているのだ。
星も、人も、精神も」
「なんていう道理なの・・・」
「そして、近日訪れる太陽と月の周期。
動向による性質を利用する可能性が高い」
「それは・・・まさか!?」
「2012年5月21日、金環日食の発生する日。
晃京全体に何かが起こる。
彼らは星の力で世界に変革をもたらそうとしている」
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