第31話  ヴェンガンザ・アンタルティカ1

2012年2月10日


 拓男の件はニュース一面の見出しになり、

同級生の起こした凶行はまたたく間に広まった。

まさか、同じクラスからACの犠牲者がでるとは。

今日は全校集会で生徒達が呼ばれ、

拓男についてろくな釈明も語らずに、

外で待ち受けるマスコミに余計な話をするなと念を押す。

大人の都合が浮き彫りになる箝口令かんこうれいの狭間で、

自分は心底から拓男を責める気になれない。

犯した行為は許されないが、元をたどればACのせいだ。

とはいえ、結晶単体で引き起こした事件はごくわずか。

主任の言い分も、引きはがせられない程胸の内に残る。

もう、周りに不運が来ない事を願う。

少なくとも自分の目に禁忌は映ってほしくない。


しかし、皮肉にも魔晶がまだ人にりつく。

事件は再び断続的に起きてしまう。


「女子生徒が・・・氷に?」


聖夜は学園の炊き出しの休憩の間で話を耳にする。

下校からたった30分の間に襲撃事件が起きた。

被害者は全て学園の女子生徒。

どこからか突然吹雪が発生して氷漬けにされた。

カロリーナも登校していて、すでに警察と一緒に

現場検証を終えていた。


「なんで、女なんだ?」

「まだ分からない、やられたのは生徒の3人だけで

 昼間に起きたから、悪魔単独ってのも考えづらいし」


立て続けに起こる事件も性質がことごとく変わる状況に、

同一人物の犯行の線は難しく思えた。

ACの性能からして拓男でもないはず。

あいつはもういないから、別の誰かが仕向けたに違いない。

人の影に悪魔がいるというが、去年になってからは

悪魔の陰に人がいるような印象ばかり。

今日は一段と校庭に人だかりができて

周囲をうろつき回る報道陣の目から逃れるように、

教師陣も抑えようと躍起やっきだ。

3階から校庭の人粒がわらわらと目まぐるしい。

手伝いに来ている生徒達を学園から帰させる。


「今日はプライバシーに関わる弊害へいがいが多い。

 生徒達はすぐ帰宅するように!」


保守的な意味が含まれながらも、言い分は確かに正しい。

自分も一度TVに映ってしまったために、

インタビューのかっこうの的となる。

もう6回も捕まった。

なんだか今までも同じような目にあったが、

適当にはぐらかしながら囲いから出ようとした時だ。


「悲鳴!?」

「あっちだ!」

「良い絵がなくなる、急げ」


女性の叫び声を聴いた。

マスコミ達もチャンス到来と、一斉に走り出してゆく。

若者と大人の群像が所狭しと流れて

一団が現場らしき所へ移動した時。


「冷てっ!?」

「吹雪!?」


どこからか粉雪が顔に当たる。

さっきまで雪なんて降っていなかったのに、

これから起こる前兆のせいと考える間もなく

声がしたとされる一般道路に着く。

やたら霜だらけの白い景色の中に、女子生徒が倒れていた。


「透子!?」


森本透子もりもととうこ、同じクラスの生徒が倒れていた。

側には大きな氷の塊が敷かれている。

中には学生服の肖像しょうぞうが透けて見たくもないが、

彼女の身を先に案じた。


「大丈夫か!?」

「ここで何があったの!?」

「友達と一緒に帰って。

 そしたら急に寒気がして、氷の人が襲ってきて・・・」

「氷の・・・人?」


氷の悪魔に襲われたらしい。

彼女だけは無事に逃れたようで、犯行に及んだ者の姿を

少しだけ確認したようだ。

人というよりはヒト型みたいなものだったと言う。

命からがら逃げてきたが、

何かの衝撃で気絶させられたらしい。


「あたし・・・なんでこんな」

「落ち着け、今はいないみたいだ。

 ん、濡れてる?」

「早く拭かないと凍傷するわよ!」

「とにかく、念のために病院へ」


聖夜が彼女を連れていく。

報道陣は助ける様子もなく、撮影だけ夢中になり、

雪と人だらけの中にまみれながら、場を終えた。



 一方、マナは教会の一室でクォーツを眺め、

学園地域周辺を見回っていた。

最近までは主に都心部の方面ばかり調べていたが、

生徒が多く住む住宅地の区も目を向けていた。

教会の使命もあるが、自分の学園より発生する事件の

臭いも否定しきれずに眼を中心へ集中。

一度ある事は二度もあると、くまなく観ていると。


「あっ!?」


女子生徒達は一瞬で氷漬けになった。

氷の悪魔が突然現れて真っ白な景色に覆われている。

しかし、確認できるのは吹雪のみ。

一部始終を捉えたにもかかわらず、

氷のヒト型が力を奮ってすぐに消え去ってゆく。



翌日、カロリーナは再び同じ事件が起こると予測して

マーガレットを通して昴峰学園周辺を囲むように

四方八方警官を配置。

立ち回りの鈍い日本警察に、科警研のかさとばかり

外国のキャリアを見せつけるような指示を与えていた。


「通行人は誰一人として逃がさないで!

 所持品検査も念入りに調べてよ!

 女性市民は女警官が、下着の中も全てッ!」


外国警察の様な取り調べを推す。

悪魔が直にけしかけたのではなく人の手で起こすと、

容赦ようしゃなしにとっつかまえさせていた。

悪寒おかんというこの国の言葉の通り、

またここら辺で事件が起こると予測。

氷の急襲がやってくると身を潜めて張り込みを続けた。


そして、時は感じる間もなく訪れる。

体が鈍るような猛吹雪が1分くらい続く。

ここいらは住宅もなく、通行人だけで

34人の人々をすぐさま所持品検査する。

しかし、警察の報告は期待を大きく逸らしてゆく。


「所持品を全てチェックしました、それが・・・」

「・・・・・・え?」











「誰も・・・ACを持っていない?」


白という結果に、カロリーナは目が留まる。

その場にいた者達は誰一人として結晶を持っていなかった。

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