アンチヒーロー2

 午後6:30になった。

予定に合わせて有耶無耶うやむやに番組に出る。

局員に車で迎えられてTV局まで向かう途中、

後部座席同列に座る自分とカロリーナは

携帯のメールで以下の会話をする。


――――――――――――――――――――――――

「カロリーナ、俺達と同じようにACを探す連中って

 他にもいるのか?」

「10代の特殊工作班は晃京ではあたしらだけのはず。

 成人枠ならいるにはいるけど」

「いるには?」

「組織が複数関わってる時点で大人が多くいるのは当然。

 でも、あたしらの知らない連中がいるかもしれないし、

 いないかもしれない」

「力を求めて探しにきてるのか」

「噂によると、科警研どころか教会や天藍会に属さない

 ACゴロもいるって、厘香が言ってた」

「公園の時みたいにか、何なんだ?」

――――――――――――――――――――――――


自分達みたいな低年層の回収者はほぼいないけど、

大人の界隈ではまだ未知の組織がいるのではと

噂されていた。

ただでさえACにこなれていない警察や自衛隊の

目から悠々ゆうゆうと逃げ回る様に

結晶漁りをする線も浮かび上がってきた。

TV局の人間が情報を入手していた訳も気になるが、

今は言われた通りに事を進めるしかなく、

頭の片隅に入れておきながら到着した。


「こんばんは」

「神来杜さん入ります!」


スタッフ数人がスタジオ外側で迎える。

あまり愛想が良くなさそうに、淡々と誘導。

ところが、他に出演者らしき人物は見当たらず。


「なんら難しいものではありません。

 この通路の先へそのまま進んで下さい」

「分かりました」


カロリーナは待機して、自分だけが行くらしい。

進行方法は何の役も台詞も教えられずに

ここから先に進めと言われた。

意図も読めずに、そこで見たものは通路。

黄色いゴム製のトンネルがある。

子どもの施設で遊ぶような物で、

番組用のセットで演出のためか、

坂道はプラスチック製でけっこう滑る。


「おっと!?」


尻が床に落ち着く。

壁や天井に複数のプレートが設置されている

スタジオらしき部屋に来たようで、

音のなさに辺りを見回していると。




「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

「誰だ!?」

「私はライトマン、正義のヒーロー。

 君がここに来るのを待っていた!」

「なんで?」


全身白ずくめで金色のダマスカス模様をしている男が

6m以上のステージ台で立っていた。

腰に手を当てて甲高かんだかい声で登場。

というか、何故自分はスタジオに向かわされたのか

状況が分かっていない。

高校生の企画と聞いても、

なんでこの男が待ち受けているのかサッパリだ。


「あんた誰?」

「真のヒーローは顔を見せてはならない!

 混迷する今の時代は暗躍する者が必要とされている」

「え?」

「なんだ、最近の主人公は顔を主張ばかり!?

 これ見よがしに異性を釣ろうとする。

 ヒーローの条件、全身像を表現しきれていないッ!」

「カメラ、もっと聖夜君に回して!」


プロデューサーは遠くでスタッフに指示。

説教を始めたシーンから、謎の男と聖夜の対峙たいじする

演出を盛り込ませた。


「本物のヒーローは疾風はやてに登場し、疾風に去るべき!

 いつまでも画面ドアップで写ってはならん!」

「俺と何の関係が?」

「私と対決しなさい!

 最近の君の活躍を聞いて今述べた懸念を改めさせ、

 ビジュアル崇拝すうはいの無意味さを世間に知らしめる!」

「対決って・・・ここでか!?」


どういう流れなのかまったく読めない。

勝手にヒーロー像の講釈を語られて、

しまいにはバトルしろなんて言い掛かりをつける。

なんで、TV局で戦う必要があるのか?

というか、生身の人間相手に剣を奮って良いのか?


「ちょ、待ってくれ!

 晃京の公共でケンカでもしろというのか!?」

「問答無用、とおっ!」


謎の男に挑まれた。

俳優だかなんだか分からないが、中年のような声だ。

なんだかんだ言っても、ただの人。

本気で斬りかかるわけにはいかない。

峰打みねうちでやりすごそうと構える。

対悪魔の装備を奮って良いはずもないが、

素手で勝てる自信もない。

しかし、相手は飛び蹴りをかましてきた。

外見によらず、ならず者を倒してきた経験をもつ。

1つ気付いたのは、この男が街中で噂になっていた者。

ACの所有者だという疑いが強くなってゆく。


床に着地した次はスライディング。

避けようとジャンプして向かいの床に着地。

確かに動きは素早いけど、一応隙があるにはあるので

クラーレのヘラ部分でひっぱたく。


「あいたっ!」


毒化・・・はしていないようだ。

斬りさえしなければ、致命傷を負わせずに済む。

さっきから気になっていたが、この男は接近して

タコ殴りするような行為をしようとしないのが気になった。

らしめるとか言っておきながら、

あたかも必殺技とばかり大袈裟おおげさなモーションしか

やろうとしていない。

エンターテインメントとしてか、絵面を意識したように

大雑把おおざっぱな行動しかしてなかった。

そんな奴の相手が自分。

こんな企画のために連れてこられたのか、

やらされ感が満ちてくる。

もう面倒くさくなってきた。

番組の茶番が終わったら、ACについて聞いてみようと

剣を下げていた時だ。


「ふふふ、私がただのダイナミック型だと思ったのか?

 みくびっては困るぞ。

 とっておきの技を披露してやろう。

 ヒーローの真髄しんずいを」

「ん!?」


男は腕から光線を出す。

だが、線の部分に何も感じずに複数反射し始めた。


「スーパーライトニングアタック!」

「うおあっ!?」


光の線を間一髪で避ける。

筋に沿うように目にも止まらぬ速さで体当たりし、

人間業を超えた能力をもっていた。


(この人が・・・やっぱり!)


やはりACを持っている。


剣を奮う隙がなく、急に強くなり始めた。

今までは小手調べだったのか、街の若者達もあなどってって

倒されてきたのかもしれない。

急にテンポを狂わされがちに、続けて腕から光線を放ち

後ろにたじろぐ内に、

背中にある何かがぶつかった。


(このパネルって・・・)


スタジオの隅に反射板らしきパネルが設置されていた。

照明器具というよりは画面の光映りを良くするために

使われていると聞いた。

しかし、こんなに多く設置しているのもおかしく、

どう考えても男の反射移動を手助けするように

置かれているとしか思わなかった。

スタジオ隅の端、直角になっている所へ行き、

パネルを外して待ち伏せした。


(すさまじく移動が速い・・・ならば)

「そんな所で何をしている?」


リーチとばかり光線を放出する。

しかし、移動した瞬間に光の角度を同じ進路に

なるようにパネルを当てて誘導。

大衆受けを狙うヤオイな企画で作られた墓穴番組に、

サッサと終わらせる自分の規格を施した。


「私は速い、誰よりも。

 超スピードこそが英雄の証しなのだァ!」


自分に光の標準を合わせにくる。

90°のコーナーに背を合わせて男の突進を

出迎えていた時だ。


ガツン


2つの残像が発生して、衝撃音がした。

それらは自分と男ではなく、男と男の2つであった。


「そんなバカなぁ!?」


同等の性質である光と光はすれ違いにならず、

移動物体のすり替わりは許されなかったようだ。

残像を発生した現象で自らの分身が仇となった。

パネルをわざとズラして自ら衝突。

光の速さだけに己の体とぶつかるなんて、

想像していなかったようだ。


(はやいって、こんな事だったのか?)


ちょっと鈍い音がしたが、大丈夫なのか。

グッタリとした謎の男を前に、

文字通りの行き当たりばったり劇に脳は追いつかず。

企画の真意は分からなかったけど、勝負はついた。

終えても、ACを探さなくてはならない。

責任者らしき人が来た。


「いやぁ~、実に良い絵が撮れたよ!

 カッコイイねぇ~!」

「あんたは?」

「御手洗三郎、プロデューサーをやってる。

 晃京封鎖もめげずに番組に取り組んでいる

 敏腕プロデューサーだ」

「すいません。俺、あの人に用があるんで」

「構わんけど」


スタッフが看護しようとする

気絶した男の懐からACを取り出す。

能力を起こした根拠を確かに持っていた。


(これか)


リビアングラスという結晶で、彼女が想定したACと一致。

ヒーロー役だった人も凄まじいスピードで

スタジオ内を跳ね回っていたくらいだから、

どんな性質かと考えていると、カロリーナと再び合流する。


「聖夜!」

「カロリーナ、何していた?」

「観てただけよ、あたしは今回何もしないみたい」


彼女はただプロダクションマネージャーと打ち合わせに

来ていただけのようだ。

番組の主旨も目的もまったく不明な展開。

とりあえず結晶は回収成功できた。

男の詳細はよく知らなかったけど、組織関連ではなく

どうやら本当にどこかで拾った代物らしい。

とはいっても、おもいっきり自分の顔が映ってしまい、

お茶の間にさらしてしまう。

こんな突拍子もないイベントで

自分の名が広まるなんて予想の内にも入らなかった。

これから平然と都内を歩き回れるのか。

さらなる弊害へいがいが待ち受けてる気がして

ならなかった。

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