第12話  生還者

 マーガレット主任から初めて武器を与えられた。

高校生である自分に現実離れしたACをらした

細長い異物は未知の存在のような気がする。

いや、もう現実だ。

人が想像するような幻想ファンタジーでも実現してしまえば

当然となり、幻はかすんでしまうもの。

常識はいつも当たり前から固まる事で共通という塊を

お互いに認識してゆくだろう。

何はともあれ、勢力に生活を奪われかねない世界に

心地良さも相まって素直に使う事にした。


「触った感じでは、普通の剣と同じですね。

 結晶でできた刃で結晶の悪魔を倒せる・・・ん?」

「まあ、剣も元から金属だけど、鉄分だけの話ではないの。

 特殊な方法でこっちに来てるんだから、

 特殊な性質で駆除すると言えば良いかしら」

(性質か)


固い物からにゅっとい出るなんて常識外れも良いとこ。

本当に特殊だらけで、おぞましい悪魔というより

石の塊が襲ってきたみたいなイメージだけだ。

自分は無知だけど、大人の性質を借りるのみ。

今回の仕事はこれで終わり。

またいずれここに来いと言われて

科警研を出ようとした時だ。


「主任、警視総監がお見えになりました」

「すぐ行くわ、この子と一緒に」

(俺も?)


どういうわけか自分も会見しろという。

まだ何か予定があるようで、紹介したい人がいるとの事。

それに警視総監といえば、

かなり偉い人くらいなのは知っていた。

晃京がこんな目に遭えば社会の重役が出るだろうけど、

ACについて人知れずにもう着手する覚えがあって、

そこまでして期待をかけられているのか。

主任の一歩後ろで少しずつ追従して歩くと、

眼鏡をかけた背広姿の男が正面に立った。











「神来杜聖夜君・・・だね?」

「そ、そうです」


警視総監、高橋増尾たかはしますお

晃京一帯を取り仕切る者。

警視庁のTOPが自分と会いにわざわざやってきた。

ポジション的に相当偉いのは知っているけど、

そんな人が自分に用事だとは。


「マーガレット君から説明及び任務は済んでいるね?」

「はい、もう1つ作ってくれました。

 しかし、良いんでしょうか?

 自分がこんなの持ってて」

「この子は確かなる素質があります。

 腕は保証致しますので」

「そうか・・・」


素質という言葉の真意は相変わらず理解できない。

大人どうしで勝手に話を進めている中で、

できるだけ言葉を拾ってゆく。

穏便おんびんな回収が警察の動きだとカロリーナも言った。

銃器は許可できないが、フェンシング経験として

剣はOKだとする理由もあった。

警察管轄下で自分は身を置いて結晶集めをする任務を

科警研にある特殊工作班という部署から始める。


「ここであまり長話するわけにはいかない。

 君も突然の雇用で戸惑うところもあるだろう。

 これから詳細は全て彼女を通してゆくので

 焦らずに行動してくれたまえ」


自衛隊の兵器ですら簡単に太刀打ちできない相手を

代わって自分みたいな若者がやる。

いかにも子どもが妄想しそうなフィクションを

戦闘のプロ達を差し置いて実行なんて度が過ぎるはず。

そんなヒーロー紛いな素質とか性質が何なのか?

警察の長はどこまで知っているのか気になった。


「質問・・・良いですか?」

「なんだね?」

「自分の素質って一体何ですか?

 ただの高校生である自分に?」

「ACの適性力が非常に高いからだ。

 我々も急な現象で全て把握しているわけではないが、

 人による結晶との融和性、親和性的な効果が

 悪魔へ対処するための必要最低限の兵装で

 民間からも協力を仰いでいる」

(言い分は3人と同じだな)

「それに銃を持たせてならない理由もある。

 射出物は狙いを損ねようものなら、

 無関係な者にも危害が及ぶ」

「剣なら間合いの狭さで危険性がとても低い・・・」

「その通り、適性に関してはこちらも判明していない。

 中世時代の騎士の様な真似事をさせるようで悪いが、

 少しでも有効活用できる対策をしなければならないのだ。

 今はその事だけ意識してくれれば良い」


やはりACの適性という言葉で止まったままだ。

自分はまだ18歳だが、成人間近で近接武器の所持なら

許可して良いと考慮に入れてくれた。

一端いっぱしの大人なら若者にやらせないで

自分達で対処しろと言いたいが、

上も上で世論を絡めた戦闘を疎まれ、縦横無尽に

晃京一帯を歩き回る事を制限されているという。

それらのやりとりで警視総監は執務室に向かっていった。


「だから、自衛隊とかも自由な発砲をしにくい。

 全員にACの適性があるわけでなく、

 少人数で動く必要があったんですね」

「金属物の飛び交いはそれ程危険なの。

 現在、むやみな発砲は国に抑えられている。

 同じ悲劇を繰り返さないようにね。

 19年前の時のように・・・」

「!?」


主任の続きの言葉が剣とある出来事を思い返させる。

19の数を聴いて、すぐに連想を辿たどった。


「主任さん、あの人も――」

「自衛隊員だったのよ、あの人。

 生きて帰ってこれた縦浜の生還者」


ヨーロッパの侵入者と邂逅かいこうした者。

彼はテロリストとの交戦経験者だった。

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