日常の崩壊2

 突然現れた人骨の群れは彼女達の手で救われた。

背後から雷や氷が飛んでいたのを横目に、

自分は受け取った銀色のナイフで一体だけ斬り付け、

闇雲ながらどうにか危機を回避。

まるですぐ起こるとばかりすんなりと対応してくれた。


「ありがとう、助かった。

 ていうか、なんでこんな危ない物を――?」

「えへへ、まあ、こういう事が起こると思って」

「アンタがいつピンチになっても対策として

 いつも備えてんのよ、感謝しなさい!」


3人の女生徒が側に来る。

栗毛のウェーヴヘアーのマナ・アヴィリオス。

黒髪ボブカットの正倉院厘香しょうそういんりか

ブロンドロングヘアーのカロリーナ・ヴァレンティノ。

いずれも同じクラスの同級生で、

自分を心配してくれて来てもらったのはありがたいけど、

先の言葉“自分がいつピンチになっても”というのが

引っかかる。


「ところで、お前達はなんでここに?」

「来るべき時がきたから・・・と言えば良いかも」

「そうね、だから学校にも結界を張るけど

 さっそく悪魔がきちゃったから」

「け、結界!?」


オカルトも良いとこだ。

まるで魔法でも使うとばかり、さっきの悪魔を退ける

聖なるバリアなファンタジーを繰り出すという光景は

決して幻ではなく今ここで発生していた。

夢をみているはずがない。

肌寒い現実の中で起きているから間違いじゃないはずだ。


「クリスマスって奇術を生み出すためにあったのか!?

 死者がよみがえる伝説なんて聞いた事ないぞ!」

「クリスマスウンヌンじゃないのよ。

 人知れず隠された物が唐突に動き出しているだけ。

 ここなら大丈夫、すぐに片付けるから」

「すぐに?」


マナは懐から2cmくらいの玉を取り出した。

悪魔に向けてかざすと、みるみる消えてゆく。

手慣れているようで、当たり前のように現実離れした

超常を目の中に入れられた。


「そんな事までできるのか。お前達は一体・・・?」


手品を見せられた気分だ。

自分が襲われるのをあらかじめ知っていたように

タイミング良く駆けつけてきた。

そして、自分にも用がある。

マナは大事そうな目で話をもちかけてきた。


「聖夜さん、落ち着いて聞いて。

 私達もあなたに話があってここに来たの」

「何の事だ?」

「この能力を発揮する石みたいな物を探していて、

 今まで目立たないように回収しているの」

アンジェラスAngelusクリスタルCrystal

 古来より異界から精通された特殊な鉱石よ」

「あんじぇらすくりすたる?」

「そう、略してアンジェスタルともよばれてるわ。

 さっきの魔物が来た理由もこれの影響なの」

「これは?」


アンジェラス・クリスタル。

略称、ACとよばれるそれは様々な色の石で、

先の悪魔もそこから来たと言う。

なんで、結晶から悪魔が?

と、常識からして誰もが思うだろう箱の中の異物を

見せながらマナは示しを発言した。


「今、晃京で何者かが悪魔を発現させています。

 いにしえの力を用いて混沌におとしいれようと。

 そして、先の出来事で分かったんです。

 あなたもACの適性があると」

「俺が、ACと?」


自分は何かしらの素質、力をもっていると言う。

わたされたナイフを使っただけの攻防だけで、

何かを見据えてわざわざ迎えられた。

別に宝石を集める趣味をもっているわけでもないのに、

選ばれた理由に胸が落ち着かず。

宝石は石だから、そこら辺にある物から

わんさかい出てくるとでもいうのか。


「でも、宝石っていろんな場所にあるんだろ?

 一般人だって持ってるんだから、

 全部集めるなんて無理なんじゃ?」

「ACは普通の宝石とは違うの。

 中に特殊な文字が刻まれていて、

 超常現象が起こる。今の出来事のように」

「文字が?」

「異界との交信やエネルギーを放出したりできるの。

 火が出たり、悪魔が出たり、色々」

「あ~、うん、そうか・・・」

「アンタ、この前の化学何点よ?」

「いや、こんなの習ってないんだけど・・・」

「ハハハ」


彼女達3人とも結晶を持っていた。

アンジェラスというよりデンジャラスな代物しろもの

女子高生が流行はやりで集めているわけでもなく、

使命感をもって所持しているらしい。


「そんな物があるとはいえ、なんで俺が回収を?」

「今だからこそ言えるけど、君もACの力を

 大きく解放できる素質をもっている。」

「ACを・・・俺が?」


自分にもその力があると言った。

何か特別な素質、詳しくは理解できない

ご都合で聴こえの良い言葉が向けられる。


「本当にそんな事ができるのか!?」

「始めは信じられないかもしれない。

 でも、本当の事なの」

「じゃなければ、あたし達がここに

 来るわけないでしょ?」


事実は事実、前触れもなく実際に起きたから

具現化したという悪魔の対策と実行者への阻止を

手伝えと要求された。


「俺にも、結晶の・・・」

「ACは種類によって適性のある人にしか扱えない。

 あなたにしか手にできない結晶もあるの」

「だけど、適性者も全てて回れる程多くない。

 対するACはたくさんあって私達では手数が少ないの。

 お願い、手伝って」

「今助けたのも協力要請への貸しよ。

 しばらく、その武器も貸してあげるから

 ゴタゴタ言わずに協力しなさいっ!」

「あ・・・うん」


カロリーナにゴリ押しされる。

何やらとんでもない事になりそうなものの、

突然の要求で3人の女同級生に迫られた俺は

Noを突き出す気力も立場もなかった。

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