旅立ちの前の日 2

 ゴラテは一瞬目を見開いた後に、ゆっくりと目を閉じた。そしてまた目を開く。


「そうか……」


 そう一言話した後に沈黙が流れるが、再びゴラテは話し始めた。


「俺もお前ぐらいの年の頃は冒険者として旅をしていたからな、止める事は出来ねぇよ」


 そう言ってゴラテはお茶をすすった。ユモトは父親に気持ちを伝える。


「僕は、もっと色んなものを見てみたいんだ」


「それは構わねえ、構わねぇんだが……」


 少し間を置いてゴラテは話を続けた。


「お前、赤髪の勇者とつるんでるんだろ。それに今日葬式があったギルスとも」


 ユモトだけでなくムツヤとモモも血の気が一瞬引く。


「なぁ、ユモト。お前何かヤバいことに首を突っ込んでるんじゃないのか?」


 全員が沈黙したが、それは肯定を意味することになる。


「俺はな、お前が死んじまうことだけが心配なんだ。お前が居なくなったら俺は……」


 強い父親が腹を割って話している事にユモトは涙が出そうになった。だがユモトはちゃんと父を見て言った。


「お父さん、今僕がしていることは…… ギルドの秘密でお父さんにも言えない…… でも終わったら全部話すから、今は僕を信じて欲しいんだ!!」


 ユモトが言い終わるとふぅーっと息を吐いてゴラテは話す。


「そうか…… お前のことだから間違っても悪い事をしていないのはわかる」


「お父さん…… 勝手なことを言ってごめん」


「良いんだ、だが1つだけ約束してくれ」


 ゴラテの言葉をみな固唾を飲んで待つ。


「絶対に生きて無事に帰ってきてくれ、それだけでいい」


 ユモトは鳥肌が立ち、ギュッと目をつむった後に言った。


「うん、絶対に帰ってくるよ。約束する!」


「ムツヤ、モモの嬢ちゃん、ユモトをよろしく頼む」


 いきなり名前を呼ばれた2人はビクッとしたが、深々と頭を下げるゴラテに返事をする。


「ユモトさんは絶対に俺が守ります!」


「私も同じ気持ちです」


 話がまとまり、ムツヤ達は玄関に立っていた。


「それじゃ、行ってきます」


「おう、行って来い」


 そう言って玄関を出ると、ユモトは最後までゴラテを見てドアを閉じる。


 ユモトの家から少し歩いた先の時計台の下に待ち合わせをしていたヨーリィが居た。


 大勢で押しかけても仕方がないだろうと、顔見知りのムツヤとモモだけ同行し、ヨーリィは買い出しをしていたのだ。


「おまたせヨーリィちゃん」


「私もいま来たところ」


 ヨーリィと合流するとムツヤ達は宿屋に向かった。ギルドの旧訓練所を家として使う前まではよく使っていたあの宿屋だ。


 その道中モモがふと思って言った。


「なぁユモト、出発は明日だからお前は家に泊まっても良かったんじゃないか?」


 それを聞いて一瞬ポカンとした顔をし「あー!!」っと声を上げる。


「完全に忘れていました……」


「なんなら今から戻っても」


 ユモトはうーんと少し悩んだ後に言う。


「いえ、僕一人じゃキエーウに狙われるかもしれませんし、それに……」


「それに?」


「あの、あんな風に家を出てすぐ帰るって恥ずかしいので……」


 確かにとモモは頷いた。そんなこんなでユモトも一緒に宿屋で泊まることになった。


「いらっしゃい、久しぶりだねぇ」


 ロッキングチェアに座る白髪のグネばあさんがムツヤ達を迎える。


「兄ちゃん、相変わらず美人さん達をたくさん引き連れて良い御身分だこと」


 そう言ってケッケッケとグネばあさんは笑う。


「グネばあさん、ただの冒険者仲間だ。部屋を3つ頼む。1つはセミダブルのベッドでな」


 モモが言うと「あいよ」とばあさんは部屋の鍵を3つ取り出した。


 それぞれ部屋に荷物を置いた後に、ムツヤはモモの部屋を尋ねる。


「じゃあモモさん、これ」


『割ると遠くの相手とも話が出来る赤い玉』をモモへ手渡した。


「ありがとうございます、ムツヤ殿」


 玉を渡すとムツヤは部屋を出ていった。


 ドアの鍵を締め、村長のことを頭で思い浮かべながら壁に玉を叩きつけると、玉は四方に散って壁を長方形にくり抜いたように景色を映し出す。


「おぉ、モモか。驚いたぞ」


 立派な肉体を持つオークの村の村長が目を見開いてそこには居た。


「突然申し訳ありません、村長。今、お話しても大丈夫ですか?」


「構わないぞ、ちょうど家の中だしな」

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