訳ありの子 2

「おかえりお父さん」


 そのやせ細った体は触れたら壊れてしまいそうな印象を与えてきた。寝間着は少しはだけて胸元が見えている。


「こ、こんばんは俺はムツヤっていいます」


 モモとは違った可愛らしさにムツヤは緊張して自己紹介するが顔はニヤけていた。それを見ていたモモは少しムッとする。


「私はムツヤ殿の従者のモモだ」


「ムツヤさん、モモさんはじめまして。ユモトです。横になったままですみません」


 そう言ってニッコリと笑うユモトの顔はまるで花が咲いたように明るいものだった。


「ゴホッゴホッすみません、咳が止まらなくて」


 ユモトは落ち込んだ顔をして申し訳なさそうに言う。


「ユモト悪い、ユーカの実は1つしか見つからなかった」


「ありがとう父さん、皆さんもありがとうございますね」


 笑顔を作りながらもユモトはだいぶ苦しそうだった、目の前で苦しむユモトを見てムツヤはある事を決める。


「あのー、もしがしたらこの薬が効くかもしれません」


「ムツヤ殿!?」


 ムツヤが塔の中で拾った薬を使おうとしていることをモモは察した。


 止めようかとも思ったが、自分の妹も薬で助けられた事もあって何も言えなくなった。


 後はムツヤの判断に任せるだけだ。


「これはえーっと、そうだ! 俺の親の形見でどんな病気も治る薬らしいです」


 サズァンからの入れ知恵をふと思い出してムツヤが言うと、ユモトもゴラテも目を丸くして驚く。


「ムツヤさん、お気持ちはありがたいのですがそんな大切なものは頂けません」


 ゆっくりと上半身を起こしユモトは言ったが、しかしゴラテは別の考えを持っていた。


「ムツヤ! お前それは本当なのか?」


「えぇ、まぁ」


 効果は自分で実験済みだった。どんな毒も病気も治る青い薬、それをカバンから取り出す。


「頼む、譲ってくれ! 金でも何でも用意する!」


 わらにもすがる思いでゴラテは頼み込む。もうどんな僅かな可能性にも賭けてみたかったのだ。


「いいですよ」


 ムツヤは少しも渋らずに快くそれをユモトへと渡した、不安そうな顔をしてユモトは青い液体が入ったビンを眺める。


 中々飲もうとしないのでしびれを切らしたゴラテがビンのフタを開けてやり、飲むように促した。


 ユモトはその桃色の唇をビンにあててゆっくりゆっくりと中身を飲み干した。


 それは不思議な感覚だった、体の中心から手足の末端までじんわり温かい何かが広がっていく感じ。


 体を縛っていた縄が解けるような、頭のモヤが消え去るようなそんな清涼感があった。


「どうした、大丈夫かユモト?」


 ゴラテはユモトの顔を覗き込んだ、じわっと目を開けたユモトは……


「パ、パ、パピャロンロン!!!」


 ベッドの上に立ち上がってそう叫んだ、ゴラテとモモはそれを見て固まる。


 ムツヤとモモは薬の副作用で叫ぶことを知っていたので動じなかったが。叫んだ後、ユモトはゆっくりとベッドにしゃがみ込んで言う。


「父さん、父さん!! もう体のどこも痛くないし、咳も出ないよ」


 そう言った後ユモトは泣いていた、それを見てゴラテの目からも涙が溢れる。


「本当か、本当なんだな!?」


 ベッドから降りたユモトはにっこりと笑った、そんなユモトをゴラテは抱きしめた。


「よかった、本当に良かった……」


 ベッドから降りて立ち上がることもやっとだったユモトが何の苦労もなく地に足をつけて立っている。


 それだけでもうゴラテは充分だった。しばらく親子の感動的な場面が続くが、ユモトはくるりと振り返って深く頭を下げた。


「ムツヤさん本当にありがとうございます、僕なんかの為に親御様の形見の薬を……」


「ムヅヤアアア!!! アリガドヨオオオ!!!」


 ゴラテは泣きじゃくって何を言っているのかもはや分からなかったが感謝の言葉を何度も口にする。


 全員が落ち着いた頃に改めて話が先に進んだ、ゴラテは自分の部屋でギルドへの推薦状を急いで書いてくると言った。


 ユモトは寝間着から普段着に着替えたいと言い、その間モモとムツヤは客間に通されて、ユモトの淹れてくれた紅茶を飲んでいた。


 口に入れると何かの果実の香りがふわりとする。


 着替えたユモトは緑色のTシャツに黒色のズボンを履いていた。可愛らしい顔立ちには少し不似合いだが、慣れてくると気にならなくなる不思議な服装だ。

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