オークの村の救世主になろう 3

「あーじゃあ俺とじいちゃんの二人しか居なぐでですね、周りは結界で囲まれてたのですよ」


「結界で……?」


 モモとロースは互いを見つめ合って不思議そうな顔をし、視線をムツヤに戻す。


「失礼ですがムツヤ様、住んでいた場所の名前は何というのでしょう、もしかしたら何か分かるかもしれませんので」


 村長のロースは至極当然な質問をする。


 だが、その質問にはムツヤも困ってしまう。


「うーん…… 今まで気にしたことも無かっだし、じいちゃんも『田舎』としか言わなかったから…… そう言えばわからないです。聞いておけば良かった……」


 確かに閉じた空間に住んでいるのであれば、そこが世界の全てだから地名なんて物は無いのだろうとモモは察した。


「そうですか。いえ、お話を遮ってすみません」


 ロース村長はそう言って少し考える。


 確かに変に知らない地名が出るよりもその答えの方がしっくりと来る。


「そんなある日、俺はこの本を拾いましで。外の世界には冒険者ってのが居で、女の子とハーレムっでの作るんだと思ったらドキドキして眠れなくなっで」


「えっ」


 ムツヤが急にとんでもない大火炎魔法の爆発級発言をしてモモは固まる。


 村長も思考がピタリと止まってしまった。


 手に持っている本の表紙には際どい格好をした女のイラストが描かれている。


「俺もハーレムを作りたいと思っで、それでじいちゃんにお願いしで外の世界へ出してもらっで、気が付いたらあの森に居たってわけなのですよ」


 モモとロースは話を整理するために考えた、ムツヤ殿は結界に住んでいた。


 ここまでは、まぁわかる。それでハーレムを作るために外の世界に来たと言っていた。


「ちょっと待って下さいムツヤ殿、ムツヤ殿はえーっとその…… ハーレムを作るために冒険の旅へ出たのか?」


「そうです!! 話を読むだけでドキドキするのですがら、きっど作っだら凄い楽しいに違いないと思っで」


 子供のようなキラキラした笑顔を作って、最低のゲス男みたいな発言をする村の恩人に、自分は何と言えば良いのだろうかとモモは悩んだ。


 多分、ムツヤ殿はハーレムというものを勘違いしていると。


「ムツヤ様…… そういったハーレムを作る人間も確かに居ることは居るでしょうが…… 夢を壊してしまい申し訳ない、一般的にハーレムなんて作れないし、作らないのです」


 モモの代わりにロースが言いにくい事を伝えてくれた、するとムツヤは衝撃を受けて固まってしまう。


「そうなんでずか!?」


「まぁ……」


 ロースにそう言われると分かりやすいぐらいにムツヤは落ち込んだ。


 今にも口から魂が抜け出ていってしまいそうだった。


「あの、ムツヤ殿、そこまで気を落とされずに」


 男がハーレムを諦めた。


 それだけ聞けば、馬鹿な夢から目覚めて身の程を知っただけの事なのだが、モモは何だかいたたまれなくなり、ムツヤを励まそうとする。


「そうですね、せっかく苦労して家を出たんですから、これぐらいで俺は夢を諦めません」


「えっ」


 短い間だがムツヤの事を何となくわかっていたモモは悟ってしまった。


 雲行きが怪しくなる、またとんでもない事を言い出すと。


「本の冒険者も夢は諦めなければ叶うと言っでましだし、それで、最後は魔人を倒しでいましだ。俺はそのハーレムを作るためにこの世界に来たんです、ですがら絶対にハーレムを作っでみせます。夢は諦めません!」

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