第2話それ、俺の父さんです

 誰か説明してほしい

 俺は今日好きな女の子とデートの予定で

 信号待ちしてたら父さんから渡されたネックレスが急に燃えだして

 俺もまるごと燃えだしたから怖くて目つぶってたら

 へ、部屋?の中に移動してた…んですけど…


「死んだ…」


 多分東大卒でもこの答えに辿り着くんじゃなかろうか

 それか頭の賢いやつはこの謎現象どっかで習ってたりする?

 俺は事態を飲み込むことも頭の整理をすることもできずただ唖然と動けずにいた


 死の世界ってもっと空の上みたいな、異次元みたいなとこ想像してたけど…


 俺が立っている四畳ほどの空間は板張りの床に高級そうな赤い絨毯が敷かれ、部屋の壁一面は本棚になって、一冊分の隙間もなくびっしり本が並べられていた


「完全に書庫…だよな…」


 今この状態に陥っているのが俺じゃなく父さんだったら、絶対間違いなく『異世界転生』って思うんだろうな

 残念ながら勇者とか別の人の記憶が追加されていたりすることもなく、今日のデートのために新調した真新しいニット服も家を出た状態からどこぞの貴族のようなお召し物に変わった様子はない

 これはもしや壮大なドッキリを仕掛けられたんじゃ?

 漫画とかドラマ的展開を全く信じない俺の《現実で起こり得そうな》答えは死んだかドッキリかの2択だったから、とりあえず次はドッキリだと思うことにしてどこかにカメラやら『ドッキリでした~』と書かれた看板が隠されていないか探してみ


「ユウジ?」


 急に声をかけられ俺はびくつく

 まだ全然看板探せてないんだけど

 ていうか背後は完全にノーマークだったしめっちゃ体びくってなって恥ずかしすぎる


 心臓がこの上ないほどバックバク言っている中、振り向いてこのドッキリをしかけた友達を特定してとりあえず3発は殴らせてもらおうと心に誓う

 急に声かけてびびらせた罪、リアルに恐怖感じたドッキリをしかけた罪、絶対デート遅れた許さんの罪だ


 こんな手の込んだドッキリできるやつってだいぶ限られるけどタクマか?サトルか?

 振り向いた俺の視界に入ったのは

 …ごめんなさいちょっとどなたか存じない…俺より少し年上そうな爽やか好青年


 …だけならよかった


 失礼だが俺は眉間にシワを寄せながら頭から爪先までなん往復も視線を走らせる

 この人…髪が緑だ

 …いやそれだけだったらまだ個性的だなで済むんだけど

 ハロウィンでもないのに中世ヨーロッパ風なのか和風なのか、振り袖を洋服にアレンジしたような不思議な服着てるし

 しかも耳が飾り物か??ゲームでしか見たことないエルフみたいに尖ってて

 ちょっと個性が渋滞してるよお兄さん??


 これは馬鹿でもわかる

 混乱状態の俺でも理解できる


 この人…やばい人だ…


「ユウジ…じゃないよね」

「ユウジじゃないデス…」


 普段なら関り合いにならないようにスルーしてその場を離れる防衛術を発揮させるが何しろ狭い空間に俺とこのコスプレ野郎だけというまさしく袋の鼠、万事休す状態(違うか


 さっきからユウジって言ってるけど、まさかドッキリ仕掛け間違い?。だったら俺ただの被害者じゃん。この人めちゃくちゃ気合いいれて仕掛けてんじゃん。めっちゃ反応に困るんだけど…


「じゃあもしかして…勇気?」


「!」


 名前を言い当てられ、気まずくて反らしてた顔をばっとあげる。あ、何回見ても好青年コスプレ野郎だ。


 俺がばか正直に『なんで知ってんの?!』な顔を披露したせいで、俺の名前を把握した緑頭は一瞬少し苦しそうな表情をしたように見えた


「大きくなったね。勇気」


 おかえり

 とつけ加えられ、俺の混乱パーセンテージは余裕で100を超えてきた

 すみませんけどこんな個性強めなお兄さん俺の人生に関わってたら覚えてないほうがどうかしてると思われ…


「ねぇ遅いよ王さま」


 緑頭の後ろからまた新しく男の人が歩いてくる。いや、男の子か…中学生くらいに見える。そしてまた耳が尖っている。服も中世ヨーロッパ風の和風?だ。…髪は黒いけど

 黒髪コスプレさんは俺の姿を見るなり急に自分の口を手で抑え


「ユウジ…!!」


 目をこれでもかと見開いてわなわな震えだした

 察するに俺とそっくりなユウジという人物がいるらしいな。そんな驚くほど似てるのか俺と『ユウジ』は


「あの、俺はユウジじゃ…」

「彼はユウジの息子だよ」


 そう、俺は全くの別人で


 ………


「え?こいつあのチビすか?!」

「そう。ユウジそっくりだよね。僕も最初ユウジかと思ったよ」


 俺がミッ○ィーちゃんのような顔になって動かないままコスプレ×2は俺をじろじろ観察しながら話を進めていく

 置いていくな。え?ちょっと待って?


「と、父さんのお知り合いですか…?」


 そういえば父さんの名前は桜井 勇志(ユウジ)だ。

 異世界とか勇者とかそういう世界観が好きな父さんならこういうコスプレ好きな人と交友関係があってもおかしくない。一気に府に落ちた…気がする

 いやだったとしてもまだ10代の俺と40代の父さん見間違う?確かに父さんの高校の卒アル見た時は一瞬俺がいる!って思うくらいには似てたけどさ

このコスプレさんどうみても20代だろ

黒髪のほうに至っては俺よりめっちゃ年下そうだし

父さんの若い頃なんて知ってるはず…

 俺が緑頭の方に「?」マークがいっぱい浮かび上がっていたであろう顔を向けていると、そいつは長い袖口から昭和生まれなら誰もが持っていたと思われる便利機器『ガラケー』を取り出し俺に見せてきた


「これ、君のお父さんで間違いないかな?」


 見せられたガラケーの画面にはいかにも戦い終わりましたと言わんばかりに怪我をした勇者装備の俺

…いや、若かりし父さんと、同じく傷だらけの『見た目が全く変わらない』この緑頭が肩をくんで自撮りをきめこんでいた


「…それ、俺の父さんです…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る