決意③

野上は一人になった。今までのつけがきたのだ。野上は、病院から真っ直ぐに自宅に帰る。毎日何もなかったように。また事件が発生した。その現場は野上の経営する工場だった。新宿署管内での出来事だった。野上は突然起きた放火事件は検討もつかなかったのだろう、野上はただ呆然と立っていた。新宿バスターミナルのすぐそばにあり、交通機関が多く、活気あふれる場所だった。警察は反野上派が起こしたと見ている。野上は一人になるのを恐れていた。警察に保護を依頼した。柳町は、野上は時期に話をしてくると睨んでいた。時間の問題だ。柳町はその時を待っていた。

「柳町さん」

柳町にか細い声で野上ははなした。

「話す気になりましたか。私は無実です。それ以上私の口からは言えません。立場上…。ただ、黒幕かどうかわかりませんがある男に会いました。私は目隠しをされましたが」

「何か音がするような場所でしたか?」

「いいえ、何も聞こえなかったです。」

「その人物と面識はなかったですか?」

「いいえ、初めて会いました。覚えていないです」

「ありがとうございます。貴方は私たちが守ります。いつも通りにしてください」

柳木病院の調査結果が出た。野上と愛人の坂棚美由紀が事件に関与していると発表していた。坂棚は看護師である。事件の起きた日第一発見者だった。坂棚は、警察の取り調べには黙秘をしている。

「汚い膿は早く出せ」

病院の方針なのだ。医学界のドン寺沢と言う男が居る。無類のギャンブル好きだ。全国病院組合会長と言えば有名な人物だ。それが寺沢である。寺沢は野上のことを嫌っていた。寺沢は野上のことを恨んでいる人間の一人でもある。寺沢は野上に対して嫉妬していた。野上の妻である恵子は寺沢と付き合っていた。恵子は寺沢でなく野上と一緒になりたいと言い出した。野上はこのことを知らない。寺沢はそれからギャンブルに依存していった。だが、寺沢は医学界のドンになった。大変名誉なことだけに寺沢は医学界関係者を呼び会合を重ねていった。

「野上さえいなければ…」

寺沢は医学界のドンと言う立場を理由として野上を排除しようとしている。寺沢のいきのかかった者を使って。何とかして野上がいる柳木病院から追い出そうと目論んでいる。寺沢は久しぶりに野上の元へ赴いた。何もなかったように。

「やぁ、野上さん。久しぶりだね。体の調子はどうだい?」

野上は寺沢に何も返答はしなかった。

「私は失礼します」

野上はそう寺沢に言うと去っていった。寺沢の中に野上に対する怒りが沸々と湧いてきた。寺沢は憎しみの塊である野上を除去しようと考えている。

「あともう少しだ。あともう少しで野上はいなくなる」

寺沢にとって野上は天敵だ。早く排除したい。だが、寺沢には切り札がない。今回の事件を出すしかないと思っていた。寺沢は野上に病院を辞めるように説得した。警察は、犯人は外部の者だと話していた。野上は責任をとるかたちで病院を辞めた。寺沢は野上がいなくなると次の院長の椅子は俺のものだと言っていた。寺沢には切り札がある。その切り札と言うのは野上が不正をしていたと言う証拠を持っていることだった。その証拠と言うのは野上が薬剤会社から賄賂をもらっていると言う動画だった。寺沢は天下を取ったと言う錯覚を感じた。だが、その寺沢が殺害されるとまでは考えていなかっただろう。寺沢は毒殺された。犯人にとって寺沢は邪魔者だったのだろう。犯人の意図が見え隠れしていた。犯人は誰なのか分からない。見えない犯人を病院関係者は悪魔と話していた。

「また悪魔が出たわよ。どうなってしまうのかわからないわ!さきがおもいやられるわ」

柳木病院関係者は疑念を抱いていた。

「悪魔はどうやって病院内に入っているのだろうか。それとも関係者以外なのか」

寺沢が殺害されたことは大きいことだった。寺沢が他の病院の中でも事務長と言うことは誇りに思える人柄だった。寺沢は正義感が人より強かった。寺沢が殺害されたことは他の病院関係者からの弔辞が柳木病院へと送られてきた。柳町は柳木病院に定期的に血液検査をしていた。柳町は酒を嗜む程度しか飲まない。鬼の柳町と言われたものだ。柳町は何もなかったような顔をして病院を出た。すると、そこには警備員が欠伸をしていた。丁度、昼間の出来事だった。柳町にも欠伸がうつった。柳町は警備員に挨拶をして病院を去った。男が柳町と入れ替わるように病院に入っていった。柳町はその男に疑念を抱いた。それは服装だった。夏なのに黒いコートを着ている。そして肩には大きなゴルフケースを抱えていた。柳町は男のあとを追うようにして病院に戻った。

「なんか嫌な予感がするな」

柳町はふと感じた。

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