Killing time another time is good ending
After time
それぞれの時間
夕凪は学校へ行かなくなったが、子供モデルとしてデビューした。俳優業も始めた颯人のマネージャーをショウが引き受け、(ショウは夕凪の面倒は一切見ないと宣言した)ナルシはジャグラーを止めて進んで夕凪のバックアップをするようになった。
夕凪は完璧に「6歳の美少女」を演じて周囲を騙していた。
でも言動はやはり夕凪だった。かの毒舌は何故か一部の人に大受けし、テレビのバラエティ番組に幾つも出るまでになった。
今や颯人に次ぐ事務所の顔になった。しかも、中身は28歳(本人が言い張る)なので時間が空くと事務所の手伝いも普通にやっていた。
蒼海も夕凪にメロメロになってしまった。
事務所の隣の部屋を夕凪の部屋に変えた時は彼女の要望をほぼ聞いていた。
同居だと夜の生活を拒否するショウにナルシが耐えられなくなってそうなったのだが、それでも声が漏れるかもと心配して抑える様子にナルシは妙に喜んで、余計攻め立てた。
お陰で、ショウは残された祥一郎達といつも「なんか腹立つ」と文句を言っている。
僕は毎年誕生日を迎えられている。
夕凪はあちこちの世界へ行けるようになってから、生き飽きた古川祥一郎の魂を集めて僕に入れるようになった。
夕凪の力と彼らの魂の重みのおかげも併せて転移が起こらなくなった。
ちょっと目と髪の色が濃くなったけど、ナルシはそれも素敵だと言ってくれるので気にしてない。
夕凪は少しずつ成長したが、中学生になっても140cm に届かず、子供モデルも限界で引退した。
力は増えて、それを隠し通すのも難しくなっていた為学校も行かず家で過ごしていた。
それから、久音が遂に消滅した。
ショウは久音をもういないものとして過ごしていたが、本当に消えてしまったと聞くと泣いてしまった。
今でも、ナルシに隠れて(バレバレだが)彼を偲んで泣いてしまう時がある。
祥一郎改め
「いつかこの日が来るのは、わかってたから」
といつも通りだったが、次第にひどく落ち込んでいって、引きこもり祥一郎改め一郎に改名した彼でさえも、慰めの言葉をかけているらしい。
「サチさん達のいる所へしばらく行こうと思うんです」
夕凪は何回か様子を見に行っていた。
ショウはともかく、ナルシ達は反対したが、彼女はもう決めていた。
こっちの世界ではとにかく自分の力を制御するのが難しく、常に緊張状態を強いられるので疲れてしまったそうだ。
「サチさんの弟子になれば制御の仕方をおぼえられるかなって。それに、あの空間なら迷惑をかける人は最悪でも二人で済むし」
と不吉なフラグを立てて行ってしまった。
案の定、サチから何回も苦情がショウにやってきたが、ショウは黙殺した。
しかし、その後、何とサチと夕凪は結婚したと知らせてきた。
何となくいい雰囲気になっていた(あやしい)が、煮え切らないサチに夕凪が猛烈にアタックしたらしい。さすが肉食系女子代表。
今ではあの空間を魔改造(一郎談)しているらしい。
サチは、久音に引き続きまた小さい者同士サイズが合ったと暴露して夕凪にめちゃくちゃ怒られていた。
彼は転移してもずっと記憶が残り、常識人の筈だが、性に関しては全く隠すことをしない。今迄性と無縁だった反動かもしれない。
サチの性生活や性癖を半ば強制的に聞かされる他の祥一郎達はさすがにゲンナリしている。
そもそものキッカケはショウなのでいつも代わりに謝っている。
まあ、爆弾娘には、消火剤は要るよな。サチの付ける火種は小さいから何とかなるだろう。と僕の中で二人残った祥一郎達、みんなのまとめ役だった学者という渾名の
僕達は同性婚が認められてすぐ籍を入れてきた。
名前が、古川祥一郎から鳴島祥になった。ショウと言う呼び名が定着してしまったし、一郎は一郎に譲ったつもりだ。
籍を入れる前にナルシの両親と会って、思い切って自分の性のことも言った。もちろん驚かれたが全く反対されなかった。拍子抜けするくらい、和やかにいろんな話をした。
話上、初めてナルシの事を「響さん」と読んだので変な感じだった。
ナルシに響って呼んでほしい?と聞いたら、どっちでもいいと言われたので、当分ナルシと呼ぶことにした。
ナルシの両親と、颯人と和解したナルシの兄、音羽さんと奥さんの実瑠さん、颯人、蒼海さん、夕凪を招いて人前式とささやかな披露宴をした。
ナルシはドレスを着て欲しかったらしいが、一切無視してユニセックス用のブランドがデザインしたウェディングスーツと呼ばれている服を買った。
でも、身長が低くて細い僕の為に裾やウエスト、スカート丈とか色々詰めて貰って、結局セミオーダーに近い手間をかけさせてしまった。お礼に頼まれて写真を送ったら喜んでくれ、ホームページに載せたいと言われたが固辞したら印刷されて店のウェディングのコーナーに飾られてるらしい。…恥ずかしい。売上げアップに少しでも貢献できればいいんやけど。
ウェディングスーツは上着は細いテープで花模様に刺繍されている立襟のノースリーブ。下はウエストから膝上まで左脇にスリットが入って、裾に同じテープで刺繍されたプリーツスカート。その下は七分丈の細身のパンツ。踵の低いパンプスを履いてみたけど痛くて挫折、思い切って、探すのに難儀したけどショート丈の編み上げブーツにした。全身白色だ。
顔は少しだけメイクした。なんと颯人がメイクしてくれた。メイクされるのは初めてだったのでドキドキした。ドロップ型の真珠のイヤリングをして髪の毛は銀のスプレーを振った。
僕の方は衣装やメイクとか凝ってたけど、ナルシは普通に白のタキシードだった。ショウが主役だからって言ってたけど、長身のナルシはとても格好よかった。
僕達の正装はみんなには大好評で、ナルシにいつもお化粧してってせがまれた。普段男って言い張っている僕にそれはちょっとハードルが高い。
ナルシは当日まで内緒にしてたウェディングスーツ姿の僕を見て感激して泣いてしまい、絶賛してたけど、こっそりと早く脱がせたいと言われた。気に入ってるのに、と不機嫌になったら慌てて謝って、その後スマホで写真を撮りまくっていた。
まあ、結局は脱がせてあげた…。その夜は僕的に大変だった。次の日動けなくて、蒼海さんにボヤかれたけど。
新婚旅行は忙しくて当分無理なので、近場に二泊三日で行った。今度は強制的に外で一日観光していたが、ナルシの体力を舐めていた。新婚だからと迫られて…いつもと一緒だった。帰りはずっと寝ていた。もう行かない。
小説についてだが、一と郎と三人で、二十人の古川祥一郎達のそれぞれの話を書くことにした。彼らのお陰で今の僕達がある。それは決して忘れない。
一郎は拒否したが、サチは前の世界までの記憶があるし、退魔師として活動していたので不思議な話をよくしてくれる。そっちもまとめるつもり。
久音の事も番外編で書くつもりだ。面白いから夕凪もだ。久音とはやっと向き合える気がしたのだ。
最近ネット小説サイトに上げている。三人共著なので、意見が色々出て遅々として進まないが、評判は悪く無い。仕上げたらコンテストに出そうか、と僕とロウは言ってるが、ハジメはまだまだだと難色を示している。
他には何も変わらない。そう思っていた。
「週末里親に申し込もうと思うけど、どうかな」
ショウは驚いたが、ナルシは可愛がっていた夕凪が居なくなって、しかも夕凪はサチと結婚したので喪失感を酷く感じていたらしい。
同性婚でも養子を取ることが認められるようになったが、いきなりは無理でも、それならできるかもしれない、と。
ショウも賛成して、施設を見学に行くことになった。
当日、折角なので、とナルシは久しぶりにジャグラーとして、訪問することになった。ショウはジャグリングでは役立たずの助手だ。取り敢えずみんなに配る菓子を、前もって小分けした。
早速ナルシが園庭で披露すると子供達は大興奮で、子供用に持っていったジャグリング用品も大喜びで順番に遊んでくれた。
ショウはお菓子を園長に渡し、脇で手伝いながら、時々慰問で施設を訪れてもいいな、とその様子を微笑ましく見ていた。
ふと、園庭につながる縁側で俯いて一人座っている男の子を見かけた。
気になったショウはそっと近くに行って「遊ばないの?一緒に行こう」と声をかけた。
男の子はビクッと震えてショウを見上げた。
その子に既視感があった。次第に動悸がしてきた。
「僕は悪いことして地獄にいたから、遊んじゃ駄目なんだ。罪を償うために生まれたんだ」
子供ににつかわしく無い言葉を暗い表情で言った。
ショウはそれを聞いた途端、涙が溢れてきた。
「誰がそんな事言ったん?」
思わず強い調子で言うと、男の子はショウの様子に驚いたが
「夢によく出てくるんだ。暗い所でずっと一人で泣いてるんだ。ここは地獄だって。助けてって言ったら、誰かが言ったんだ。出してやるけど罪を償えって」
と悲しそうに言った。
「違うよ、君は罪を償ったから此処に生まれたんや!楽しく遊んで生きてもいいんやよ!」
ショウはその子に抱きついた。
「幸せになっていいんだ、久音」
「僕、くおんじゃないよ」
「いいんだよ、生まれてきてくれてありがとう!」
「…ショウ?」
教えていないのに名前を呼ばれて大泣きするショウに釣られて、男の子も大声で泣いた。
二人の様子に驚いた園長がナルシを急いで連れてきた。
二人は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして抱き合って泣いていた。
「この子を引き取りたい。今度は、幸せにしてあげたい」
涙ながらに言うショウに、男の子はしがみついて
「夢でいつも名前を呼んでた。僕もショウと居たい」と言った。
ナルシはショウ達の様子で全てを悟り、頷いた。
「そうだな、ショウとこの子がいいならそうしよう」
と子供の頭を撫でた。
「ちょっと焼けるけどな」
ナルシは後でこっそりショウに言った。
男の子の名前は久音では無く
父親は漁で出ている時に海に落ちて亡くなったそうだ。その後相次いで母親も亡くなって養護施設に引き取られた。
湊人は両親の死や、途切れ途切れに思い出す前世の記憶で精神が不安定だった。引き取られて暫くはショウの元を離れられず、幼稚園の年長だったが、やっと登園できてもショウがずっと付いていた。
眠る時も二人の間でショウがあやす様に抱いて眠り、悪夢で泣いて起きる彼を慰めた。
小学校に入って、悪夢を見る回数も減り、本人もこれでは駄目だと自覚したらしく、やっと一人で登校できる様になった。夜もたまにショウ達の元に来るが、基本一人で寝ることができている。
颯人はこの甥を気に入りよく遊んでくれる。
蒼海は今度は湊人を子供モデルにしようと営業しだした。
サチは遂に、こちらの世界に夕凪と一緒なら来れるようになった。
祥一郎の中では特殊な力を持ち、狭間の世界にいた影響でそれが増大してショウとは別人となってしまったらしい。
持ってる力も強大になって外にいても転移の力も余裕で跳ね飛ばせると言った。
「こんなに強くなっても使い道はほぼ無い!」
と笑っていたが、サチはひたすら湊人に会いたいがために、夕凪の力も借り、この世界に来れるよう頑張っていたのだ。
ようやくサチと初めて対面した湊人はショウと同じ顔の彼に驚いていた。
ただ狭間は時間の進みが遅いらしく、年齢的な差が生まれていた。
髪や目の色もサチは薄茶色で変わらないのに、ショウは他の祥一郎達と融合したせいか濃い茶色になった。
なので、湊人にはショウとサチは兄弟で通すことにした。
いつもは冷静沈着なサチが、湊人に会った途端
「久音!転生してくれたんだ、会いたかった!」
と泣いて離さなかった。
湊人もサチの態度に始めは「くおん、てまた言われた」と口を尖らしていたが、
「なんでかわかんないけど、僕もサチとすごく会いたかったみたい」とおとなしく甘えて、教える前からサチの名前を呼んだので、彼を更に感激させていた。
挙げ句にサチは湊人を連れて帰ると頑として言い張り、湊人やショウ達を困らせた。
結局「湊人の教育上あっちは良くない」と夕凪に一刀両断されて、それでもかなりぐずぐず言いながら、彼女に引きずられて帰っていった。
こちらの世界だと、サチや夕凪めがけて物怪や悪霊が押し寄せてくるらしい。返り討ちにできるが周囲への迷惑を考えると(特に夕凪がかける)長居しない方が良いそうだ。
サチは必ずまた会いにくると湊人と固い約束をしていた。夕凪に呆れられながら数えきれないほど来るようになってしまった。
ショウはやっと湊人が落ち着き、やれやれと一息ついた。
なのに今度はナルシがショウに一層甘える様になって、しばらく朝が辛い毎日になってしまった。
気付けば、この世界に来た当初の孤独と憂鬱は綺麗さっぱり消えて、今はみんなのお陰で充実した幸せな毎日を送っている。
願わくば、この幸せがいつまでも続きます様に。
Killing time 暇つぶしの時間の出来事 完
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