another time 18
「ショウ!ショウ!」思い切り揺さぶられた。
ショウは「うえっ」とえずくと息をめいいっぱい吸い込んで目を覚ました。
「久音〜」涙を流して彼を見上げた。
「ごめんなあ、苦しかったやろ?一回死なさんとあかんねん。良かった、起きた!」
白い髪で赤い目を持つ青年がショウを掴んでいる。青白い顔が頬だけほんのり赤くなっている。
「やった!やったぞ!ついに手に入れた!僕のショウ!僕だけのショウや!」
横になっていたのを抱き起こされた。
「えっ?ホントに久音?僕死んだん?」
黒髪黒目だった久音の風貌が、すっかり変わったのに驚き、そして慌てて辺りを見回した。
「僕は久音やて!ショウはちゃんと生きとるよ!向こうで完全に死んで、ここに来てまた生き返ったんや」
辺りを見回すと、何もない薄暗い空間が延々と広がっていた。
「ここどこ?」
「どこやろうなー、世界の狭間って呼んでるけど?」
裸から一瞬で着流しを着ている久音は上機嫌だった。
「なーんちゃって!ショウの小説から名付けてん。ホンマは知らん。何処でもええやん!二人きりやったら!」
久音はショウを抱えたまま立ち上がると一緒にクルクルと回った。
「ショウの声が聞こえる!ショウと話せる〜夢のようや〜」
「それは嬉しいけど、僕はあの世界でどうなったん?」
久音はニヤニヤして「知りたい?」と片手を宙に翳した。
パッとそこだけがテレビがつくように四角く明るくなった。
50センチほどの大きさの窓からナルシが家の中を彷徨っているところが見える。部屋には誰もいない。ショウを探しているのがすぐわかった。
「ナルシ!」身体を前にやると、久音が下に降ろした。
駆け寄って覗き込む。
「ナルシ!ここやで!ナルシ!」
だが大声で言ってるのにも関わらず、彼は相変わらずウロウロ探し回っている。
「聞こえへんよ、こっからやと。狭間から普通に覗いているだけじゃ声通らへんねん。僕が身体行けてもショウの声聞こえんかったの知ってるやろ?」
「そんな!」
窓を叩いてみたが、固くてびくともしない。
ナルシはスマホをいじっていたが落胆したのか腕を落とした。『スマホ置きっぱなしなのがわかったんや』
ドアに行って開かないのを確かめている。しばらくしてもう一度家の中を見回って出て行った。
「ナルシ!行かないで!僕はここ―」
「はい、時間切れー」久音が手を下ろすと窓は消えた。
「他の人は?」
「コレ、この家の中しか映んないの。あの世界で僕はここしか出られんかったし。ショウのいる部屋限定なんかな?ふふっ、窓繋がってからよくショウを見てたんや」
「ナルシの家に来てから繋がったんか、だから畳の部屋のこと知っとったんや」
「避難所やろ?夜はショウとあの男がやってるの見たくないからヤメてた。たまに見ると、凄かったから。ようあんなんと、やってけるよな、身体弱いのに」
呑気な言い方にカッとした。
「は?何見てんだよ!それより僕を戻してや!できるんやろ?みんな心配するやん!」
「ええー、せっかく二人きりになれたのに。ここからはあっちに行く方法はあらへんよ。死なんとな。僕みたいに死んで幽体だけになれば行けるけど、それでも大変なんやよ?なんでかここでは死なれへんようになってるからショウには無理や。アイツらは勝手に心配でも何でもさせときゃええやん。どーせあそこもショウには仮初の世界や」
「それは、そうやけど」
久音はまた抱きしめて、頬同士をすり合わせている。
「ショウの肌つるつるやな」とうっとりしているのを引き剥がした。
「久音!仮初でも、今僕は、あの世界で生活してきてん。みんな僕が急に居なくなって心配するのわかるやろ?僕がいなくなってずっと引きずってた奴、久音、ここにおるやんか!」
「じゃあ、ショウは僕の事は心配やった?ちゃうやろ?薄情モン!」
久音はわざとらしい泣き真似をした。
「僕の事十年もほっといて、行方くらましてそこで楽しくやっとったもんなあ、ごめんなあ、邪魔して」
「十年も経ってたんも、久音が死んでしもうたんも知りようが無いやん。だって、僕は転移させられて一人で来たんやで?寂しかったのは一緒やよ!でもどうしようもないやんか」
久音はショウを押し倒した。
「そうかいな。更に僕はここ来てから、何年いるかわかれへんけど?まあ、少のうても十年分は僕を楽しませてな!」
「こんなとこで二人きりなんて嫌や」
ショウは暴れたが甲斐もなく押さえ込まれた。
「二人?」久音は発作のように笑った。
「周りよく見てみ?いっぱいおるで?」
ショウの手を引っ張って起こし、何もない空間を指差した。
「えっ?」
久音の後ろにボンヤリと何かが映った。そして悲鳴を上げた。
ショウがいた。古川祥一郎がずらっと一列に並んでいた。
「全部で二十二人いるで!我ながらよく集めたねぇ」
皆虚な顔をして、鳩尾に太い杭を打たれて血を流し、壁状の所に止められていた。
他の祥一郎に会って話したいとは思っていた。でもこんなひどい状態ではそれどころではない。
「どうしてこんな事すんねん!コレ全部僕やで!」
「ちゃうちゃう!こいつら全部違う古川祥一郎や。ショウの嘘もんがいっぱいおるから、こいつらのせいで、僕が探しまわらなあかんかったんよ。そんで行ったついでに、そこの世界の古川祥一郎連れて来てん」
「嘘モンて、嘘モンやったら、何で連れてきたんや?」
「それに引き寄せられてショウが来るかもしれんて思うて。試せるもんは試さな」
「じゃあ、何でみんなに杭刺してんねん。血が、血があんなに出てるやん。みんな死んでしまう!」
「暴れるし、ショウに見せたかってん!こんなにあちこち行ったんよ。すごいやろ!」
「もういいやろ?返してあげてーや!」
どの祥一郎もショウをチラッと見てすぐ項垂れた。話す気力も無いようだ。その一瞬の視線がどれも自分への恨みを込められている気がしてゾッとした。
「ふふ、それがさ、誰が何処の世界とかもうわからんねん。それに、ここなら最初に連れてきて刺した奴も死んでないで。死なないし、平行世界と別の空間やからか転移もない。祥一郎達、ちょっと弱ってて血が永遠に流れるけどな」
久音は全く悪びれた様子もない。
「止めて、悪いの僕だけやん、僕にすればいいやん、他の祥一郎は関係ない。せめて、杭抜いたって、お願い」
「どーしよーかなー」
久音は下にできている血溜まりを草履を履いたまま無造作に蹴って辺りに散らした。足が血まみれになっているのに一向に気にしてる様子は無い。ただの水たまりを蹴って遊んでいる子供と変わらない。
ここでは、久音の意向が祥一郎の全てを決めているのだ。それも非情で残酷な。嫌でも理解したショウは震えが止まらなくなった。
「お願いや!久音、僕は何されてもええから。お願いします!おんなじ祥一郎やん、やめてあげて!お願いします!」ショウは泣いて土下座しはじめた。
「ショウ⁈そんな事しなくてえーよ」
久音はムスッとしてショウの腕を掴んで立たせた。
ショウの涙を手で優しく拭ってやる。
「お願いや、久音」
「うーん、そこまで言うならなあ」
久音はちょっと考え込んだ。
「そーや、じゃあ、檻作って入れとく。なら、ええよね?」
何が良いのかショウには全くわからなかった。
「檻もやめて!それに傷は?」
「放っといても勝手に治る。ここはそういう場所みたい」
「えっ?何それ?でも、それなら助かるよね?」
「まあな、死なないから、どうとでもなるっしょ!でも檻は要るやろ!」
久音は片手で久音を抱いたまま、もう一方をを下から上へと何かを掴むように引き上げた。
壁の横に下から四角い檻がいくつも出てきた。一つ一つが電話ボックスを少し大きくしたような形でずらりと並んだ。
「22個あるかな?さ、祥一郎達、みんな入りーや」
ショウを離し、久音は出入り口を開けて、無造作に杭を抜いては首元を掴むと、一人一人放り込んで行く。久音の顔や身体も、抜く時に吹き出した血で濡れていく。
「ああん、もう!鬱陶しいな!ベタベタやん」
「手伝うよ!」酷い扱いに、せめてもと申し出た。
「あかん、触るな!違う世界のやつなんやぞ!本来会う事無い同士が触ったら何が起こるかわからんで」
そう言われるとショウはただ見ているしかない。
面倒になったらしく途中からそのまま無理矢理身体を引き抜いて移していく。ある祥一郎はそのせいで口から大量に血を吐いていた。
「やめてーや、もっと丁寧にしてや!治るからって傷は痛いんやぞ!」
ショウは悲鳴に近い声で言ったが、久音は平坦な声で言った。
「そうなん?いやー、僕は力持ちになったんで、つい面倒で。すぐ済むよってその辺にいてな。あんまし離れると迷子になるから、気いつけや」
ショウは彼らを見ていられなくて、背を向けてトボトボ反対の方角へ歩き出す。周りを見渡しても何もない。ただ薄暗くて端の見えない空間が広がっていた。
「こんなとこに久音はずっと居たんか」胸が苦しくなった。動けるようになって僕を探しに行くまでどの位かかったのだろう。
簡単には入れない違う世界を22回行って23回目でやっと僕を見つけられたんや。止まっていた涙がまた出てきた。
祥一郎をここに入れる為に彼に23回もの殺人をさせてしまった事になる。関係ない祥一郎達をショウの代わりとして拉致して、腹いせに残酷な仕打ちを平気でする様になってしまった。
そんなん無縁の人やった。
恋人に殴られても、よう返さんかった人やったのに。歩けなくなって座り込むと膝に額を付けて泣き出した。
この狭間と僕が彼を変えてしまった。
「ショウ、終わったで。そんなに泣かんといて」
いつの間にか横に来た久音が、ショウの横にすり寄り座った。
あれだけ返り血にまみれていたのに、すっかり綺麗になっているし、臭いもしない。
「みんな、僕のせいや」泣きながら切れ切れに言った。
「僕が久音に忘れんといてってお願いしたから、久音は死んだのにこんなとこに囚われて、僕を探すしかなくなったんや」
「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。僕はずっとショウに会いたかったからな」
「他に恋人作って、僕の事忘れていくかもって思うと耐えられへんかった」
ショウは泣きながら久音を見た。
久音も赤い目から涙を流していた。
「そんな訳ないやろ?ずっとずっと好きで、死んでも忘れんかったのに」
「そうやったね。ありがとう、僕を探してくれて」
「ここに一人はめっちゃ寂しかった。ショウを見つけられてどれだけ嬉しかったか!やっと会えたんや。ずっと一緒に居てな」
「うん、一緒に居るから、許して」
お互い涙を拭きあった。
久音が顔を近付けるとショウは一瞬ビクッと身体を震わせた。
「どうしたん?」訝しげに覗き込む。
「あ、ごめん、その顔にまだ慣れなくて」
ショウは久音の白い髪を手ですいた。「すごく変わってもうて」
「そうだろな。でもずっと居れば、その内慣れるやろ。嫌なら目閉じとき」
「ううん、その目綺麗や。宝石みたい」
「じゃあ、見てて。どんどん気持ちよくしてあげる」
久音はショウの乳首を探り当てて弄り出した。
「あれ?胸が出てきてる」手の指先だけで全体を優しく摘むとショウが恥ずかしげによがった。
「ちょっと太ったから、胸が出てきてん」
「可愛い。ほら、しっかり見て?気持ち良いやろ」
「うん、気持ち良い、もっとして」ショウは煌めく赤い目を見ると久音の顔を近づけて、唇に吸い付いて啄むと、舌を伸ばして久音の唇を舐めた。
久音が嬉しそうにが口を少し広げると性急に中に入れて舌を絡めた。
「早くしようや、待ちきれん」
二人は服を全部脱ぐと横になった。
地面の上やけど、不思議と柔らかい。
久音は首から下へ肌を手でなぞるとショウのものを口に含んで愛撫し始めた。
ショウが「久音の口の中に僕のが、久しぶりや」と口で濡らした指を自分の穴に入れてほぐし始めた。
「駄目や、僕にやらして!」久音がショウの指を抜いて自分のを代わりに入れた。ショウが気持ちよさそうにため息をつく。
「じゃあ、僕も触らせて」
ショウは起き上がると積極的に顔を久音の性器に近付けて手で触り出した。
「口でお互いしようや」ショウは言われた途端、先の方をを口に含んだ。
「ショウが俺のを、してくれるなんて。すぐイッてしまいそう」
「いいよ、出して」と言った後、喉の奥まで入れて動かした。
「ダメや、ここは精液も出てくるから。どうせなら中でイキたい」
久音は名残惜しそうに口から出させて、向きを変えた。
「ね、上に乗って入れて」久音がショウを自分の上に乗せた。
「ええっ、恥ずかしいよ。この体勢久しぶりで下手やし」降りようとしたが、腰を抑えられる。
「手伝うから」
ショウは渋々久音の固くなったモノをあてがった。
「入り口に当てて」
ショウはオロオロと自分の股を覗き込んで確かめている。それを見た久音は我慢できなくて自分のに手を添えてもう片方の手でショウのお尻を押した。
なんとか先が入ったが、それだけでショウは固まってしまった。
「ほら、腰を落として?」
「でも、僕は…久音と、こんなことしてて、いいの?」一瞬目を見開いた。「他の祥一郎が、見てるよ」
久音は「いいから早く」と赤い目を煌めかせて促した。
「うん、今入れるから」呑気に言ってそれを見ながらショウはゆっくり腰を下ろした。
同時に下からも突き上げられた。
「久音!そんなんしたら駄目やって」
「ああ、ショウ!一つに繋がったで」「うん、うん」
少し突き上げただけでショウはイってしまった。
「もう、誰も来ない。止めなくてええんや。ずっと、愛し合えるんや」
「や、イッてもうた。ちょっと待って」ショウは喘いだが、久音は腰を動かすのを止めない。
「イくの早すぎや。ショウももっと気持ち良くなってや」
赤い目がキラキラと揺らめいてショウを見上げる。ショウは微笑みながら上を向いて目を閉じた。
「うん、じゃあもっと奥突いて」ショウは久音に合わせて動き出した。
次第にショウの目は虚になっていき、口が半開きになって涎を垂れている。
「あふ、凄い、凄い気持ちええ、久音もっと、もっと」
「そうか、僕も、めっちゃええよ。ああ、最高!そんなに中絞めんといて。奥にいっぱい出したるから」
久音は最後下から何回も貫き、震えてイった。
「あー感じるよ、久音のが本当に出てる、熱いよう」ショウも自分のをまた吐き出した。
二人は荒い息で抱き合った。
「次は僕上でしたるから」
「もう、次すんの?」
ショウはぎこちなくと降りようとしたが、久音は抱いたまま上下を入れ替えた。
「仕方ないんや、君が僕をほっとくから、し足りない」と久音が笑いを抑えてすぐに復活して奥まで入れて回すように突いた。
「うん、僕が悪かってん」ショウは久音を見て頷いた。「好きにして久音」
「えー。いいよ、ショウ!もっと愛し合お!」
久音はショウの足を片方上げさせて激しく攻めだした。ショウは「これも、気持ちいい!ああ、もっとして」嬌声を上げつつ、時々「僕が、悪かってん」と涙を溢した。
久音はその次に後ろからもして、ショウがグッタリして四つん這いを保てなくなってうつ伏せになってしまうと、その姿勢になっても腰を掴んで攻め立てて、最後にイく時引き抜いて彼の背中に精液をぶちまけて、やっと満足した。
「久音、激しすぎ、前と全然違うやん」出された精液を背中に塗り広げられる感触に、またゾクゾクする。
「そやな、ホントはショウをぐちゃぐちゃにしたかってん。でも、しんどそうやったから前は我慢してて。ここなら回復早いから、いける思うて、ついな」
「そうやったん。言ってくれれば前の時も僕頑張ったのに」
「いいよ、前は無茶させたくなかってん。疲れたやろ?ちょっと寝とき。ここの空気、最初慣れるまでしんどいやろから」
「うん、でも身体ベタベタなん、何とかならんの?」弱々しく言ったショウはもう指一本動かせないほど疲労していた。
「すぐ綺麗にしたる。可愛いなあ、嬉しいなあ、大好きやショウ。ゆっくりお休み」
久音がショウの頭を撫でると、彼はすぐに眠ってしまった。身体に手をかざすと事後の汚れは綺麗になくなり、服も元通りになった。
「また一緒になった記念に、中に僕の入れといて。お休み、ずーっと寝ときな。ショウを知ってる奴らが誰もおらんようになるまで」
ふふッと笑って立ち上がった。赤い目は笑っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます