time 17


「で?」

夕凪はまた髪を拭きながら言った。

「何やねん」

夕凪は焦ったく言った。

「二人の関係は?あんたは捨て犬だったの?」

「一々腹立つ言い方やな。まあ、似たようなもんやったが」


「夕凪より年上だよ、久音は」

ショウがため息を吐いて言った。

「知り合いで、友人で、恋人になったとこ」と久音が言った。

夕凪は目を見開いて、えっ、と叫んだ。

「友人はわかるけど恋人って何?久音は女やったん?」


夕凪の動揺ぶりに久音は吹き出した。

「違うわ!男や」

「男同士で恋人ってあり?」

夕凪はタオルを口に当てて二人を交互に見た。


「友人とどう違うの?」

「高校生には分からんか?」久音はちょっと優越感を出しながら言った。

夕凪は今度はタオルで顔を全部隠してしまった。

「ねえ、古川さん!」タオル越しだ。

「えっと肉体関係?」ショウが照れながら言った。

「直接的すぎるやろ、ショウ!」

久音は爆笑してしまった。


「古川さんがそんなこと言うなんてショック!」

と言うと、夕凪はテーブルに額をぶつけた。

「中性じゃ無かったなんて」とうめき出した。

「洗剤か、アホ」久音は笑いが止まらない。

「そうだね、恋人って、友人よりも大切な人かな」

ショウはサラッと恥ずかしい事を言う。


「僕、自分が男でも女でも無いって思ってたけど、そうじゃなかったみたい」

夕凪の頭を撫でながらショウが言った。

「男女とも関係無かった」

「おま、堂々と浮気宣言か?」久音はまた笑った。

「どうやろうねー、二人共かわいいからなー」


ショウは久音の頭も撫でだした。

「凄いですね、古川さんは何もかも超越している!」

夕凪はようやく顔を上げ、ショウを見てにっこり微笑んだ。

「良い奴なんや、ショウは」

久音もショウの頭を撫でた。


「いい奴過ぎて、監禁されそうになったがな」今度はふふっと久音が笑った。

「言わんといて!」

夕凪はまた目を見開いた。

「なに、監禁、て」

「女子高校生には刺激が強すぎるよな、ショウの毎日は」

「そんな毎日変な目にあってる訳ないやん」

ポンポンと二人の頭を軽く叩いてから言った。


ショウが夕凪に蒲生との事をざっと話すと、彼女は青ざめた。

「家に繋がれるなんて、軽く死ねる」

彼女はブルっと身体を震わせた。

「私、閉所恐怖症やから、閉じ込められたら発狂する!」

「意外やな。あれこれ持ってこいって我儘言いまくりそうやのに」久音はずけずけと遠慮なく言った。


「知り合いだったらどうかな、わかんない」

夕凪は曖昧に答えた。


遠くから電子音がした。


「洗濯機、乾燥終わったんとちゃう?」

ショウが言った。

「やっとか」

と夕凪はこたつから出ると廊下の突き当たりの洗濯機へと向かった。


「普通の女の子でしょ?」

ショウが二人きりになってから言った。

「そうやな、ま、生意気やけど」

久音がしぶしぶ言った。


しばらくすると、廊下を歩く足音がした。

それは部屋を通り過ぎて玄関のほうへ行って、帰ってきた。

廊下側の襖が開いた。


「ありがとう、古川さん。帰るね」

靴を持った夕凪がいた。すでに元の制服に着替えている。

「気をつけて。川に落ちんように」

「2度とやんない。さよなら」

すっと襖が閉められ、足音が遠ざかっていく。


久音は何か違和感を感じた。

足音が玄関ではなくて奥の方へ行っている。

「久音」「なに?」

「あいつ、また窓から帰るんか?」


「キスして」

ショウが答えず突然言った。

夕凪の行動が気にはなったが、ショウの座っているところに移動して彼の頬に手を添えてからキスした。


リップ音が響くほど静かになった。

「夕凪とすんなよ」久音は暗い声で言った。

ショウはできないよ、と言いかけたが、再び口を塞がれ押し倒された。


久音はもう夕凪自体なんとも思わなかった。

ショウの心を占めるのが久音であれと思うばかりだった。




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