time 13

ショウと久音は歩いて稽古場である茶屋町の梅田東コミュニティ会館に向かっていた。

「悪いなあ、僕のせいで。別に付いてこんでええのに」


ショウは恐縮しきりだった。

「逃げるのに精一杯で、スマホ落としてたとは気が付かんかった」

「あの状態じゃな。しゃーない」


久音はショウをじっと見つめた。

「危ない奴なんやろ?心配やし、スマホ受け取って別れたら、後で大学行くから」

「危ないって程では無いんやが。ありがと。心強いわ」

ショウはにっこり笑って手を繋いだ。

「さっさと済まそう!」

引っ張って早歩きしだした。


『劇団画塾9〜12時第一体操室』と会館を入ってすぐの壁のホワイトボードに書かれていた。


「やぁ!おはよー!祥一郎君、と久音君!」

体操室のドアを開けると、よく通る声で手を上げて轟雅詣は言った。

中は広くて一階のほとんどを占めていた。20人位中にはいたが小さめの体育館のようで、広さは余裕があった。


「ちょうど今から始めるから見たってぇ」

「先にスマホ返せ」

久音は自分より身長の低い雅詣を見下ろして睨んだ。

「初めましてぇ!僕が轟、雅詣ですぅ。よろしう頼んますぅ」

「知ってるから、早よせー」

「高校の同級生なんや、ガモは」端的に言った。


「やれやれぇ、気の短い人やなぁ。ちょっち、待っといて」

大袈裟な身振りで端に置いてあるカバンに向かい、手を突っ込んでゴソゴソかき混ぜた後スマホを取り出した。


「はい、どうぞぉ」「ありがと」

ショウは受け取る時にぎこちなく礼を言った。


「こんな奴に礼なんかせんでええ。お前のせいでショウはえらい目におうたんやで」


「まさかあの状態で出て行く思わへんやん」

「はあ?出ていかんかったら何するつもりやってん?」

「そりゃ、もう、言われへん」

雅詣はあっけらかんとしていた。



昨日、チケットを渡す約束で家に行ったショウを雅詣は家に上げた。


雅詣はコーヒーを淹れて飲ませたのだがそこに薬を入れていた。

帰ろうとして身体の異変に気付いた。身体が熱くなり、ふらつきだした。

「何かしたやろ?ガモ!」雅詣に問い詰めた。


すると、雅詣は錠剤を取り出して、目の前で飲んで見せたのだ。

「何するんや」

「これ、ええんやでぇー。あれが最高に良くなんねん」


「2人でトリップしようやぁ」雅詣は自身もふらつきながら、ローテーブルの下から手錠と鎖を取り出した。

最初から計画的だったのだ。


「前から言ってたやん。監禁したいってぇ。


「アホか君は!」思わず叫んだ。

「僕は本気やでぇ。前から君のこと飼いたい思うててん」

舌で唇を舐めて見せた。

「全身愛でたいんやぁ、可愛い祥一郎君をぉ」

ジリジリと迫る蒲生に後退るショウ。

「僕を飼うのは高う(たこう)つくぞ!」

「それは問題ないよぉ。贅沢させてあげんでぇ」


彼の実家は金持ちなので、あながち嘘とも思えない。

「取り敢えず、全部服脱いでコレはめてぇ」


「嫌に決まってんやろ!!」


襲いかかってきた雅詣をすんでのところで避けた。

ふらついて壁に当たったが、痛みを気にしてる場合ではない。


玄関に直行すると靴をつっかけて、外に出た。

「待ってぇー、冗談やよぉー、楽しくやろうでぇー」

と後ろで声が聞こえたが、ぞっとした。


しばらく走って、公園が見えたので飛び込んだ。

身体も勝手に揺れるし、景色も怪しくなってきた。

「なんて事するんや。あかんやろ、あかんやろこれは」

ベンチに座ると膝を抱えて頭を乗せた。

どうしようどうしよう!

どこに、行けば、いいんや。


ショウは遠い目をしてここへの道すがらポツポツ話していた。



「お前なあ!」

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