DLC11 不協和音


 ドルクの父である剣神――ドボルザーク・ド・ヴァーキンは、思い悩んでいた。

 孤児の少年カラクを養子にしたはいいものの……。


「おいカラク! もっとしっかり剣を握れ!」

「は、はい……! すみませんお父様……!」


 剣鬼のジョブを授かったカラクであったが、その剣術の指導については、行き詰っていた。

 なにせ、孤児院で育ったカラクは、才能こそあれど、剣など握ったこともないのだ。

 それがいきなり、剣を持たされて、剣神に指導されるなど、無謀な挑戦であった。


(くそ……所詮はそこいらのガキか……)


 ドボルザークは、失望こそしなかったが、いらだちを覚え始めていた。

 息子であったドルクは、それなりにいい剣をふるっていたのに……。


(くそ、ドルクさえまともなジョブであったなら今頃……)


 手塩にかけて、育ててきたドルク。

 そのジョブは、期待外れのものだった。

 しかし、ジョブを授かるまでは、将来に備えて、必死に剣を叩きこんできたのも事実。

 やはりそのドルクと比べると、カラクの剣は未熟だった。

 いくらジョブが有利でも、もともとの剣術が弱くては、この先が思いやられる。


(なんでこいつはこんなに呑み込みが悪いんだ……!)


 ドルクに比べれば、カラクは物覚えも悪く、とても優秀とはいえなかった。

 ドボルザークは、ドルクを失ってみて、ようやくそのことに気づく。


(ジョブは悪くとも、あれは剣の才能は確かに私の息子だった……。本当に惜しいことをした……)


 しかしカラクはそれでも剣鬼のジョブを授かった逸材だ。

 だんだんと、呑み込みも早くなってくる。


(くそ、それゆえに、余計に惜しいのだ。もしあのドルクの剣の才能に、こいつの剣鬼のジョブが加われば……それこそ最強足り得たのに……)


 ドボルザークは、悶々として日々を過ごした。

 カラクは、剣の修行以外の時間、屋敷で好き放題に過ごしていた。

 ドボルザークの指導が厳しいせいもあって、その反動で、使用人たちに当たるのだ。


「おい! ハーブティーを持ってこい! 僕は剣神の息子だぞ!」


 ――パリィン!


 メイドに向かって、ティーカップを投げつける。


「ぼ、ぼっちゃま……! 困ります……! そのような乱暴をされては……」

「うるさい! さっさと片付けろ!」


 そう言って、カラクはメイドに割れた食器を拾わせる。

 そのメイドの尻を眺めるのが、彼にとってなによりもの楽しみだった。


「っくっくっく……! やはり剣神の権力はすごいぜ……!」


 そんなカラクの評判は、使用人たちからは最悪だった。


(けだものめが……。剣鬼かなんだか知らないが、悪魔のような子供……!)

(ドルク坊ちゃまとは天と地ほどの差……なんということだ……)

(ドルク坊ちゃま、あんないい子を、ジョブが悪かったからといって追放するなんて、ダンナ様は何を考えておられる……?)


 痺れをきらした使用人たちが、ドボルザークに直談判をしにいくのに、そう時間はかからなかった。


「旦那さま……! どうかあのカラク坊ちゃまをお止めください! これ以上好き勝手されては困ります……!」


 しかし、ドボルザークはそれを聞き入れなかった。

 養子として迎え入れたときに、カラクに約束したのだ。

 剣をすべて捧げれば、その生活の自由を保障すると。

 それに、今カラクは剣で伸び悩んでいた。

 それがようやく、伸び始めたところなのだ。

 ドボルザークとしては、それに水を差すことはしたくなかった。

 それに、彼としては使用人のことなど、剣に比べればどうでもいいことだった。

 問題は、カラクが立派な剣士となれるかどうかだけで、それ以外は眼中にない。


「まあ、あの子はやんちゃ盛りなんだよ。放っておいてやりなさい。今まで、親の愛情を知らずに育った子だ……」

「で、ですが……!」


 使用人たちの不満は募るばかりだった。

 次第に、カラクの暴挙もエスカレートしていく。

 特にメイドへのセクハラは、ときに度を越していた。


(この……! 邪悪な子供……! いつも私をいやらしい目で見る……!)


 環境が改善されないことに使用人たちは苛立ち始め……。

 それは主人であるドボルザークに対してもだった。

 このことが、のちに大変な事件の引き金になることを――。


 まだ誰も知らない。

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