DLC9 獣人さんたちを助けた
「ドルク……本当に、みんなを助けてくれてありがとうにゃ」
「いや、俺は当然のことをしたまでだ」
だが、まだ怪我をしている子もいる。
これでは、完全に彼らを救ったとは言い難い。
それに、食事もろくにとれないで、体力を失っている子も……。
このまま放りだすわけにはいかないな。
「なあルミナ。ルミナはフラッシュライトを使っていたから、光属性が適正魔法なんだったよな……?」
「ええ、まあ……そうだけど……」
光魔法っていえば、ゲームとかでも回復属性なのがお決まりだ。
回復魔法を使えば、耳を斬られている子たちも、なんとか救えるかもしれない。
「じゃあ、回復魔法を……」
「って、ちょっと待ってドルク」
「え……?」
「私の光魔法は……そりゃあ、少々の傷くらいなら回復できるわ。でも、ちぎれた耳を再生することなんて……」
と、ルミナは残念そうに俯いた。
だけど、そんなことは俺も想定内だ。
「わかってるさ。でも大丈夫。ルミナはそれを、俺に教えてくれるだけでいい」
「あ…………そっか」
そう、俺は全属性の魔法を発動できる。
しかも、この世界では規格外の魔力量だ。
それに、一度見た魔法を使うことも簡単にできた。
まあそれは、異世界人だということもあるだろう。
俺には科学の知識なんかもあるから、魔法の具体的な想像も容易い。
ゲームやアニメでも、さんざん魔法を見てきたからな。
「じゃあ、教えるね……」
ルミナは、俺に手取り足取り、回復魔法の唱え方を教えた。
「よし、じゃあいくぞ……!」
見よう見まねでしかないが、ゲームの回復魔法をイメージする。
「ライトヒール……!」
すると、ぽわあっとした光が、俺のまわりを満たした。
「あれ……!? これって全体ヒールなの……!?」
「え……!? そんなはずはないけど……」
どうやら、俺の魔力量が大きすぎて、倉庫いっぱいにヒールが回っているようだ。
人さらいたちの回復にもなってしまいそうだが、まあいいか。
奴らはさっき、獣人さんたちを檻から出したときに、代わりに檻の中に閉じ込めておいたから。
「わあ、耳が治った!」
耳を失っていた女の子が、そう叫んだ!
「本当だ! あ、私の腕も……!」
けがをしていた獣人さんたちは、みんな回復したみたいだ。
シャルも擦り傷なんかが多かったが、すっかり綺麗になっている。
「ドルク……本当にすごい……! こんな回復魔法、見たことないよ!」
「いやいや、ルミナが教えてくれたおかげだよ」
とにかく、獣人さんたちが無事に元気になってよかった。
「あ、そうだ……! みんな、お腹は空いていないか……?」
「空いてるー!」
俺は、獣人さんたちを全員連れて、宿に戻ることにした。
転生者特典の転移魔法を使えば、一発で戻れる。
きっと長い間閉じ込められていて、お腹もすいているだろう。
戻ろうとしたとき、檻の中から声がした。
俺がさっき閉じ込めた、人さらいたちの声だ。
「お、おい……! 俺たちはこのままなのか……!?」
「当たり前だろ……。自業自得だよ。お前たちが彼女たちにやったことだ」
「そんな! 獣人を捕まえてただけなのに……! 家畜を捕まえて何が悪い……!」
「はぁ……救えない人達だ……。まあ、警察隊を呼んだから、あとは彼らにまかせるとして……」
「くそ! 助けてくれ……! 捕まるのはいやだ……!」
「それまで、その檻の中で反省しているんだな」
俺は彼らに冷たくそう言い放った。
どうやらこの国では、獣人狩りうんぬんの前に、酷い差別意識が蔓延しているようだった。
こればかりはどうしようもないが……。
俺の生まれたマルークス王国では、こんなことはなかったんだけどな……。
「ねえ、ドルク……はやく行きましょう」
「お、そうだな。俺もお腹すいたしな……」
俺たちはルミナが泊っている宿へ転移した。
あそこの食堂なら、そこそこ広いから、獣人さんたち全員でテーブルについても、まあなんとかなるだろう……。
◇
「って、ドルクさん……お代はあるんですか……?」
宿屋のおかみさんは、いぶかしんで俺を見つめた。
なにせ、獣人さんたちを24人も連れているんだ。
彼女たちに腹いっぱい食わせたら、かなりの金がかかるだろう。
だが、だからといって見捨てる訳にはいかないのだ。
「大丈夫ですよ! ちゃんと払います」
「そう……ならいいんですけど」
俺はとりあえずそう言って、みんなに食事を振舞った。
俺も、ルミナとともにいっしょにテーブルを囲む。
右横にルミナ、左横にシャルと、まさに両手に花だ。
「ねえドルク、本当に大丈夫なの……? 昨日部屋を壊して、けっこうお金払ってたみただったけど……。私も、もうそんなに残りのお金ないわよ……?」
とルミナが小声で、俺に耳打ちする。
「ああ、大丈夫だ。なんとかなるって」
最悪の場合、このDLCで手に入れた勇者の剣を売ればどうとでもなるだろう。
限定アイテムだし、この世界ではかなり高く売れるはずだ。
「あ、そういえば……なにか新しいDLCは来てないかな」
こういう困ったときこそ、DLCを覗いてみよう。
最近けっこうDLCの出る頻度が増しているから、そろそろ新しいのがありそうだ。
ってなんか……気分としてはゲームをやっているような感覚になってきたな……。
といっても、俺はゲームの追加コンテンツに金を払ったことなどないんだが……。
「スキル発動:DLC一覧――!」
=================
使用可能なDLC一覧
【わがままグルメパック】
・バーベキューソース
・お好みソース
・カレー粉
=================
「おわ……! なんだこれ! めっちゃいいじゃん!」
俺はさっそく、DLCからその二つを選択した。
どうやらこれは、一回限りのあの帽子とは違い、なんどでも取り出せるタイプのDLCのようだった。
「よし! これをかけてっと……」
俺は異世界の味気ない食事に、バーベキューソースをぶっかける。
異世界の固い肉も、これさえあればちょっとしたごちそうだ。
「うん! いける! 久々にこの味を食べたぜ!」
これさえあれば、異世界でも食事に苦労しなさそうだ。
これだけが異世界での唯一の悩みといってもよかった……。
それが解決されたので、俺は今上機嫌だった。
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